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小川国夫『虹よ消えるな』

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 私たちは父や母に謝った方が良い。
 彼らの人生をあまりにも、
 軽く考え見下し過ぎた。

 父や母は私たちに謝った方が良い。
 子供たちの人生をあまりにも、
 利便のために費やし過ぎた。

(文字数:約1900文字)


   『虹よ消えるな』
   小川国夫 2008年 講談社


それまで全く知らなかった

  花村萬月さんの書籍の中で、
  勧められ初めて知った方だ。

  あくまでも私の周りではだが、
  読書好きを自負し図書館で働いていた、
  点訳ボランティア仲間も、
  問い合わせた本屋の店員さんも、

  「小川国夫」の文字に首を傾げた。

  「小川洋子さんなら知ってるけど」
  「随分古い本ですねぇ……。
   小川糸さんなら取り扱ってますけど」
  といった感じで、
  割と入手困難。

  自宅最寄りの図書館に行ってみると、
  開架になっていたのは一冊だけだった。
  (書庫にならあと五冊あった。)

  最晩年、
  亡くなる約一、二年前頃から、
  新聞に連載されていた随筆集と、

  随筆との関連で、
  南フランスを旅行した際の、
  経験を元にした短編小説二篇。

  

本のタイトルは適切か

  筆者が亡くなった後に出版されたようで、
  筆者の意図通りのタイトルか不明。

  もちろん筆者をよく知る人々が、
  筆者のイメージで付けたのだろうが、
  どうも筆者の肉声な気がしない。

  表紙の最上部にフランス語で、
  「Galilaia」と書いてある。

  そのままか、
  あるいは平仮名表記で「ガリラヤ」で、
  構わなかった気がするんだが。


それと言うのも

  冒頭の一、二篇を、
  読み終えた時点でのめり込んだ。

  これは、良い本だ。

  死期がそう遠くない事を察した、
  晩年の老小説家が、
  自らの見聞を書き残していく。
  時に亡くなった人々にも話しかける。

  その心境が、
  筆者のもの柔らかな人柄込みで、
  一文一節一単語に滲み出てくる。

  こういう文章が私は大好物!

  結構恵まれた環境下で、
  戦中・戦後を過ごし切れたばかりか、
  ヨーロッパ遊学までさせてもらえている、
  良いとこのお坊ちゃんだった事は否めない。

  しかしお坊ちゃんにはお坊ちゃんなりの、
  悲哀や鬱積があった事は伝わる。

  地方限界集落の悲喜こもごもを、
  軽んじられたくないのであれば、
  東京山の手の悲哀も同様に、
  軽んじ切れはしない。

  

情景描写の正確さ

  自覚が無いのだが私の文章には、
  「情景描写が見られない」らしい。

  「結局暗い部屋に閉じこもった、
   貴方一人しか見えてこない」
  とよく言われる。

  この本の後半に所蔵された小説二篇、
  『プロヴァンスの坑夫』
  『サント・マリー・ド・ラ・メール』は、
  私の全く逆を行く文章だろうなと思った。

  情景描写に無駄が無く正確だ。
  それでいて美しささえ感じさせてくれる。

  随筆部分を読む限り、
  画家の親戚がいて、
  油絵も嗜んでいた様子で、

  花村萬月さんも指摘していたが、
  原著が現在手元に無いので、
  私の父親の言い方を使うと、

  「映画でも彫刻でも小説でも、
   出来る者はみんな絵の上手かけんな」
  「絵の下手か者はセンスのなかけん、
   芸術なんぞには向いちょらん。
   小説家にも成り得んぞ」
  と言えるのだろう。


とは言え育ちに帰結する

  確かに私の情景観察力は乏しい。

  幼少期から二年ごとに転居を繰り返し、
  二年ごとの記憶と忘却を、
  繰り返したせいもあるだろうし、  

  関東近くの東海道沿いならともかく、
  両親の故郷である九州農村には、

  「こんな土地の風景を、
   細かく書き記したところで、
   誰からも興味は持たれないだろう」
  といった、
  数百年に渡る先祖伝来のような、
  ひねこびがある。

  しかしながらとうに亡くなった人々に、
  「この辺ってどうなってたの?」
  「もうちょっと詳しく聞かせてくれない?」
  と話しかけながら筆を走らせる様は、

  小川国夫さんも私も、
  それほど大きく違わないように思う。

  生まれ育ちに性別に、
  世代も人生も異なれど、
  結局同じ山の頂を、
  目指して登り続けている気がする。


おまけのアドベントカレンダー

 「みんなのたあぼう」の、
 ヒミツ袋付きお小遣い帳。

 ガチで小学校低学年から、
 いつかのために貯め込んでいた。
 「いつか」は必ず来ると分かっていたんだよな。

 おかげで大学時代はヨーロッパに旅行できたぜ。


以上です。
ここまでを読んで下さり有難うございます。

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偏光
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