茶の葉を摘みに参りましょう 秋豆絹
皆様は友人に遊びのお誘いをしたときに「お茶を摘みに行きたい」と返信を受けたことがあるだろうか。
数年前、ゴールデンウィーク間近の4月下旬、友人からの提案で静岡の茶摘み体験に行くことが決定した。決行は1週間後。自分の人生に茶摘みの思い出が刻まれることが確定したわけだが、実感が湧かない。
そしてそれは茶摘み当日を迎えても変わらなかった。
早朝、都内某所に集合し、友人の運転で目的地へと向かう。首都高を抜け東名高速道路に乗り、最先端のスピード違反取締測定車両に怯えつつも、友人の運転は安心そのものであった。
(私は自分の運転技術を微塵も信用していないため、旅行時は友人たちにおんぶにだっこで輸送してもらっている)
前方から日本の偉大な名山が見えてきた。旅行時の移動手段は新幹線がほとんどのため、「そろそろ来ると思って窓を見た3分後に現れて人の虚をつく東海道新幹線名物」のイメージがすっかり板についている。
だが今、それは着実に近づいてきている。その様は静岡に向かう私たちをじっと待っているかのようだった。
そうこうして目的地に到着。お茶園のお兄さんから案内を受け、早速茶畑へ向かった。
小屋の近くの茶畑では、すでに他の参加者の方が茶摘みを始めていた。そんな様子を横目に、案内人のお兄さんはずんずん坂を上っていく。
私たちはお兄さんが止まるまで歩を止めることはできないのでついていった。
随分と上の方まで行くなあ、とお兄さんの背中をぼんやり見つめながら道を進んでいくと、その背中が前を向いた。
「じゃあここで!お二人はここでお願いします!」「満足したら戻ってきてください~」そう言ってお兄さんは元来た道を降りて行った。
目の前、富士山、茶畑、以上。
私の目に映ったのはこのたった二つだけだった。
富士山はその表面の模様がはっきりと見えるほどに近く、その存在の力強さを否応なしに感じさせられる。一方、茶畑は快晴の陽の光を全身に浴びて生き生きとしており、目が認識できるその向こうまで広がっている。
まさに絶景であった。
このロケーションの中、これから私たちはたった二人で茶摘みをする。
この贅沢さに脳が追いついてこない。フリーズしかけた脳で指を動かし、つやつやとしたお茶の葉を摘み取った。
ピチッという音とともに、指についた葉の水分からほのかに生まれたての茶の香りがしてくる。
心豊かで爽快な、茶摘み体験のはじまりはじまり。