「重さ19㌧」

 4月23日(2022年)に発生した知床半島遊覧船の遭難事故で、朝日新聞4月25日朝刊2面「時々刻々」が、それまでの経緯をまとめていました。その記事にはGoogleの地形図を引用したグラフ(新聞の場合は、グラフとは写真や図のことです。たぶんグラフィックの略)が添えられ、事故船KAZUⅠ」(カズワン)のイラストと簡単な諸元も記載されていました。

長さ12㍍
定員65人
幅4㍍
重さ19㌧
深さ1.6㍍

 このうち、「重さ19㌧」というのはおそらく誤りです。ふつう、広い意味での「商船」の諸元を表す場合、重さというよりは容積を示す「総トン」を使うのが一般的です。ここでの1㌧は約3立方㍍です。詳しい説明ははしょりますが、ようは「商船」だから、どれだけ人や荷物を積める空間があるか(ペイロードPayload)、という観点で、用船料や税金などを計算する基礎ともなる数字です。

 事故時の船長が遊覧船会社に就職する際に求められた資格は、「小型船舶操縦免許」と「特定操縦免許」でした。小型船舶で操縦できる船は原則、19㌧以下(20㌧未満)です。ここでの19㌧というのが「総トン」です。なお、「特定」とは、自動車の2種免許に相当する旅客船の運航に必要な資格のことです。

 ですから、事故船は総トン数が19㌧だったとみられます。20㌧以上になると、原則、小型免許では操縦できません(例外アリ)。また、車検に当たる船検(船舶検査)もカテゴリーが変わり、高額になりますから、遊覧船などの場合は限度ギリギリの19㌧に大きさを抑えることが多いようです。

 いずれにしても、「重さ」ではないんです。

 ところで、2017年6月16日に、伊豆半島沖でコンテナ船(2万9060㌧)と衝突して7人が死亡した米イージス艦「フィッツジェラルド」の事故時、NHK7時のニュースでは、この軍艦を「総トン数8362㌧」と報じていました。

 残念ながら、これも誤りです。軍艦の場合は商船と違ってペイロードは関係ありませんから、ふつう「排水量」が使われます。単位は同じ「㌧」です。排水量とは、アルキメデスが風呂で「ユリイカ!(わかった!)」と叫んで裸で駆け出したという言い伝えでおなじみ、軍艦の重量と匹敵します。つまり、こちらは重さなんです。

 朝日新聞といい、NHKといい、わが国を代表するマスメディアです。それなのに基本的な海事知識が不足しているのは、わが国が「海洋国」ではない傍証ですかね。

 蛇足。フィッツジェラルドは長さ153㍍のミサイル駆逐艦です。
 フィッツジェラルドにぶつけられたのは、フィリピン船籍(現在はパナマ船籍のようです)のコンテナ船「ACXクリスタル」でした。さも、外国船のようですが、船主は兵庫県の会社、用船・運航は日本郵船です。でも、船員は全員フィリピン人でした。全長は222㍍あります。トレーラーに積まれて走っているのをよく見かける40ftコンテナを約1500個積めます(2858TEU=20-foot equivalent unit)。
 なお、昨年3月、スエズ運河で座礁したコンテナ船「エバーギブン」は全長400㍍、総トン数21万9079㌧です。40ftコンテナを約1万個積めます(2万125TEU)。

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