【読書感想文的な何か】もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら(+続編の青のりmaxも)
「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」と言う本がある。
内容は、カップ麺の作り方について、100人の文豪の文体を模倣して、かき分けただけの本である。
正直、内容はあまりない。ただ、これがまた面白い。
どの文章も、書いている対象は全く同じ「カップ焼きそばを作る事」なのである。
しかし、文体が変わると、注目している内容も、文章から想像される絵も、立ち込める香りも、まるで変わってくる。正直、ここまで変わるものかと驚かされさえした。
例えば、森見登美彦の小説を模倣した「カップ焼きそばの塔」(元ネタはおそらく「太陽の塔」)では、本家本元の森見登美彦の描く「童貞大学生」が、四畳半の中でカップ焼きそばを食いながら黒髪の乙女のことを想像し、自慰している情景がありありと浮かんでくる。
朝井リョウの文体を真似して書いた「桐島、湯切りやめるってよ」は、ただ17歳がカップ焼きそばを作っているだけなのに、そこに青春のきらめきすら感じる。
あまつさえ、週刊文春やビジネスメール、果ては2ちゃんねるのスレや嘘松っぽくカップ焼きそばの作り方を書いているのもある。もはや文豪でも何でもないだろ。
物を書きたいと思ってから、「自分の文体」と言うものがどうなのか気になるようになった。今まで徒然なるままに、筆に任せて書き記しつるクソ文日々幾千言をかなしけむ精神でやってこれた。(仕事でちゃんとした表現考えながら文章書く機会も多々あるが、あくまでビジネスとしての公文書なので、型どおりに書く形になる。)
文章表現を気にし始めるとどうもそうはいかない。どこに注目して書くべきか、この空気感を出すためにはどう描けばいいのか、何ならどう書き出すのがいいのか、とか、気になって仕方がない。
こうなってくると、自分も「カップ焼きそばの作り方」を書いてみないと止まらない。と言うかなんか書かなきゃダメな気がする。
と言うわけで書いてみました、カップ焼きそばの作り方について。
研修医時代にお世話になったりしたもので、思ったよりもカップ焼きそばへの想いが溢れすぎた気持ち悪い文章になってしまいましたが、どうぞご笑覧ください。
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【カップ焼きそばと人生の機微】
この現世に生きるものとして、後世の人間にこれだけは伝えねばならない。
カップ焼きそばを食べたことがない人は、人生の半分を損している。
この文章の読者にそんな人がいるとは到底思えないが、万が一不幸にもカップ焼きそばを食べたことがない人がいるならば、今すぐ財布を片手に近所のコンビニまで全力ダッシュし、カップ焼きそばを買ってくるべきだ。そして、今までカップ焼きそばを食す機会を持つことができなかった己の半生がいか陰惨極まりないものだったかを噛みしめながら、その味を五感に刻みつけるのだ。
考えてみて欲しい。
深夜、自室で、風呂上がりに1人で啜るカップ焼きそばの味ほどにカタルシスを刺激するものがあるだろうか。
母の留守中に焼きそば弁当を作り、親が帰ってくる前にこっそりと食す幼少期の体験以上に、子供に「背徳の快感」を教えてくれる体験があるだろうか。
思春期に、めんが出来上がる3分間で、好きな人のことを想う時間を与えられなかった人間は、どんな屈折した人間になってしまうのだろうか。
カップ焼きそば以上に、折に触れて、人生の機微を示してくれる食べ物を、僕は知らない。
このような高級な食べ物であるにもかかわらず、非常に簡素に作れるところも、また、いい。湯を沸騰させる。容器の蓋を途中まで開け、中の小袋を取り出す。かやくを麺にあける。そこに沸騰した湯を注ぎ、蓋を閉める。3-5分ほど待つ。湯切りを行う。蓋を剥がし、ソースをかける。これだけで良いのだ。料理に不慣れな人間でも、火とお湯の扱いさえできれば誰でも作れる。
これだけ単調であっても、調理であるからには、細かいピットフォールやライフハックはいくらでもある。そして、その随所に人生の機微と言うものが詰まっている。しかし、それは読者がそれぞれで見つけて欲しい。楽しさや、重要さを感じるポイントは個々人で異なる。よって、ここは読者諸君で体験し、試行錯誤して、見つけて欲しい。
さて、実食だ。熱湯のおかげですっかりと柔らかくなった麺にソースを絡めながら、箸でつまみ、口へ運んでみよう。きっと、濃く作られたソースの滋味が、ゴワゴワした麺と、かやくと化学反応を起こし、口の中いっぱいに桃源郷が出現することだろう。
中でも、深夜に味わう桃源郷は、夜食特有の背徳も相まって、口の中に禁断の花園が再現される。
この味を知らぬものは、間違いなく人生を損している。しかし、味を知ってしまったものは、もう元へ戻れなくなるだろう。
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#もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら