
第六の味
「『禅苑清規』によれば、一般に言う五味(苦、酢、甘、辛、塩)に「淡さ」を加えた六味の調和が取れていることが望ましい。この「淡さ」なる味は、食材本来の持っている味を引き出す味付けを指すという。
私がある人物とすれ違って、おや、と目を止める、それはおそらく、「淡さ」だ。本来性は、時間とか宿命とかいった不随意な事象だけでなく、意思とか気まぐれとかいった随意な事象によっても形成され、常に移り変わり、また、瞬時に感じとられるが、決してその出自の全てを明らかにしない。本来の味というのは、したがって、如実でありながら、計り知れないものだ。本来の味を感じる時の「淡さ」というのは、私が、私には計り知れない天文的な時間に対して、ある種の真実な直観を得るということなのだろう。
私は食べるとき、熱量を消費して熱量を得ているばかりでなく、時間を消費して、時間を食べている。」
日記からの、引用です。
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