人物造形のヒント⑩ 長所と短所は対応させる
書いてみてから、
こいつ、性格が弱い…!
と悩んだことはありませんか?
こう、モヤッとしているというか…キレがないというか…想像つきにくいというか…影が薄いというか…まあ確かにそんな人いるだろうけど、興味湧かないというか…。頑張って書いてるし、そこそこ大事なこと言わせたりやらせたりしてるんだけど、そう、いまいちとしか言いようがない。出会った感のない登場人物。いませんか。
複雑な人だもん、すぐにわかんなくてもまあ、仕方ないかな。
む。
本当に、すぐにわからない? 「すぐにわからない」ことは、読み手に伝わってますか? なにより、よくあることとして、そんなふうに言って最後までわからないのは、困りものなのですが…。
書き手にわからないのに、読み手にわかるはずもない。あなたの目にモヤっとしてる時点で、読み手にの目には確実にモヤっとしてます。読み手というのは、「モヤっと」を抱えたまま読み進めてくれるほど、あなたの物語が好きなわけでは…残念ながら殆どの場合において…ないんですよ。ねえ。書き手が努力しない限り、その霧が晴れることは決して、決して、決してありません。少なくともオーセンティックな小説を書くときには、ピアノの前に何もせず4分33秒座ってステージを去るような真似は…ええ、無用なんです。「どんな人か」。繰り返し言って来てます、そこを、読み手に丸投げしないこと!
読み手に丸投げしない。
これは読み手を信頼することとは大きく違います。「あとは読み手が想像してくれる」? あなたは何のために書いてます? 読み手に勝手に想像してもらうために書いてますか? いいえ、読み手に想像の喜びを味わってもらうために書いてますね? 興味の湧かない、よくわからない誰かについてしかたなく想像力を消耗した挙句、つまんなくなって途中で読むのをやめてしまうのが、想像の喜びなわけはないのですよ。せっかく読んでくれてるのに、読み手を苦労させてはいけません。
はい復唱。読み手を苦労させてはいけません。
現実を見ましょう。言い訳をして目を伏せ、読み手の想像に任せたところで、その人物がモヤっとしてる現実に変わりはない。あなたが手を動かさない限り人物のモヤが晴れないという厳しい現実と、現実の人間の奇妙な存在感、このふたつの意味でどうか、現実と向き合ってください。
向き合った? 読み手のせいじゃなくてたぶん、あなたのせいということも確認した? では早速、モヤモヤ撲滅運動を始めましょう…。
そもそもになりますが、複雑じゃない人って、います?
大抵の人は複雑です。それは文学が文字で表現されているのと同じくらい、分かち難い事実であって、その人物が人間なら、複雑に決まってます。問題は複雑性ではなく、複雑性をどうやって表すか。
どうやって表すか…はい、相変わらず、答えはもうタイトルで見えています:
長所と短所は対応させる。
これ以上に言うことはない。のですが、これも相変わらずのこと、ではタイトルのこの仕組みについて、つらつらと考え進めていきたいと思います。
今回は2つ演習をご用意してます。ひとつは分解分析型の演習。もうひとつは、創作考案型の演習。どちらもぜひ、ご自分で手を動かしてみてください。ひとつめは:
演習1 バランスシート作成
私は亀仙人が好きだったりするので、突如として亀仙人を例にしてみます。亀仙人をご存知なくても下記、もちろん読めますし、ご自分の物語の登場人物でも、もちろん大丈夫。作品と鉛筆と紙があればできます。読み手さまやお時間ないかた用にコンニチワールド版をご用意しました、けれども演習ですから…重ねて言いますが、どうぞ実際に、書き出してみてくださいね!
まず、誰か一人選びましょう。具体的に詰めて考えるためなので、パキッとしててもモヤッとしててもいいです。
(複数の人物に対して用意してもいいですね。紙幅の都合で盛り込めませんが、ええ、「書き分けができない」問題をお抱えのかたの問題分析にも、この作業は有効です。したことがなければ、まずは一人からやってみてください。)
さて…誰か一人、選べました?
ではその人の、優劣・美醜を決定していたり、表裏になっていたりする設定や性格を、書き出して、眺めてみてください。気をつけて欲しいのは、大前提として、行動から、または他の人物との関わりのなかでわかる設定であること。特にいま、ご自分の物語の人物をお選びのかた! お気をつけくださいね。ふたつめの演習でもう少し詳しく追いますが、あなたの頭の中での性格設定と、読んでそうとわかる性格設定は、似て非なるもの。設定は行動とセット、ね、必ず、本文からわかる設定を書いてください。
亀仙人は、こんな感じかな…
うんうん。割とサクサク並べられる時点で設定として優秀であること間違いなしです。それも、破茶滅茶でバカみたいで、これね、心躍ります。なのに人間としての歴史と暗さが、ちゃんとある。善悪でいうと善なのですが全くの善人でもなく、聖人というわけではないようでいて、セイクリッドな一面も併せ持ってます。なにより不思議なのは、乖離した印象の形容が並んでいるのに、妙に人間臭いこと。
妙に人間臭い。…どうして、こんなことが起きるんでしょう? 箇条書きを上から2行ずつ、セットにして共通点を考えてみましょう。
どうです…?
そうなんです。これ、ギャップ(差)じゃないんですよね。男性性、求道的姿勢、非世間性という、同じ性質の、ある側面なんです。
また、これらを片方だけ集めると:
さっき確認しました。人間というのは完全に一貫した存在ではありません。複雑です。でもそれは、支離滅裂であるという意味ではない。複雑さというのはね、規則や制限が作り出すものです。混沌や混乱とは違う、否、むしろ逆の状態であるということは、肝に銘じましょう。この亀仙人の設定も、A面とB面がそれぞれ独立してあるようでいて、それぞれの一貫性が亀仙人の設定の核心なんではない。A面とB面のあいだに、ここでは簡単に示すのが関の山、語り尽くせません、非常に美しい照応関係があり、その奥にやっと、亀仙人を亀仙人たらしめるひととなりがある。
見えてきたかな…亀仙人というのはだから、達人の性質の表目と裏目をきっちりと編み込まれることで、成り立っている人物なんですね。ね。いいだけでもダメ、よくないだけでもダメ、いいところとよくないところが両方あるだけでもダメ。いいところも、よくないところも、どちらもがあるひとつの人格から生まれているということを意識し、それぞれを対応させ、照応させ、呼応させましょう。矛盾を投げ込んで葛藤を作るのは人物造形の手順の上では、この次のフェーズにおいてなんです。矛盾を入れ込むのは、矛盾を演出するに耐えうる整合性を作ってからです…!
ちなみに、今回のテーマとは関係ないことですが亀仙人、味方に絶対に(この「絶対に」が大事です)悪いことはしない、これは読者にはとても安心で、その一方で、誰もその過去をつぶさには知らず、その本心や行動が、時として読めないんですね。ここまで『人物造形のヒント』をお読みの皆さまにおかれましては、彼がキャラ立ち著しいばかりでなく、物語の要素としてものすごく巧妙な、魅力的な存在であることがおわかりでしょう。そう、忘れないで…大切なのは物語を見るときの、こういう、独特の視点です。物語には独特の力学があります、この特殊な力学を知らないのは、書き手としても、読み手としても、もったいない(ですよね…?)。
その人物には何かが足りないと思う? 足りないのはね、物語のなかでの登場人物としての「力(ちから)」です。それは物語世界でしか通用しない、その力の存在を知る書き手だけが与えうる、とても不思議な「力」です…「力」の見分けかたは、今までの『ヒント』で、述べてきました。読み手として読み直すだけでは見えてきませんし、ただ書き足すだけでは、物語が煩くなるばかり。言うまでもなく、ある種のセンスがあれば、「強い」人物を作るのにそこまで、意識を必要としないでしょう。しかしながら、誰もが無意識にできることでもない。だから、私はここで書いています。どうかお困りの書き手さまの、お役に立てますように…。
とかいってるうちに、書けたかな。お手元をご覧になって、ご自分の箇条書きを見直してみて。
素晴らしいと思うところ、過剰なところ、その人物の本質からは矛盾しすぎているところ、相互に関連性がないところ、欠落しているところは? それは作品から読み取った性質です、どうしてそうなっていますか? エピソードが多い? 少ない? それとも順番が悪くてうまく演出できていないんでしょうか? どこをどう直せばいいでしょう? 作品? 設定? 直せば絶対に…絶対にです…その人物は物語のなかで現実的な生命力を得ることができます。絶対に。
その箇条書きは、読み手には決して見せてはいけない魔法のレシピ。もし筆が乗ってきたら、もし素晴らしい展開を思いついたら、無視してもいいかもしれない、けれども困っているうちはしっかりと、握りしめておいてください。
さて、なんだかんだ長くなってます、ふたつめの演習の前に、ちょっと休憩…長所と短所が対応していることが読者の目を喜ばせるのは、なぜでしょうか。
ちょっと休憩:リフレーミングの活用
リフレーミングというのがありますね。例えば、
を
と捉え直すと、フォーカスするポイント、全体の「いい」「悪い」を評価すべきポイントが変わるんですね。
通常、鬱症状などの改善のためにネガティブな判断をポジティブな判断によって捉え直す、リフレーミングというのは認知療法の一種なのですが、人物造形においても実は、とても重要な視点の転換の仕組み。というのも、ある人物に対して捉え方が変わる瞬間というのは、文学においては大変、美しい瞬間なんですね。なぜって、それが知の瞬間だからです。ヒント③「台詞と心情にはズレがある」でもお話しました、物語の読み手は、人の心の秘密を解明したい。この転換の瞬間というのは、その解明の瞬間です。読み手は騙されていたわけではない、読み手にはすべて見えていた、けれど、ただ読み手の考えかたが偏っていた…そんな、物語にとってというよりは(だって物語自体に特別な変化はないのだから)ただただ読み手にとって、ドラマティックで、エモーショナルな、特別な瞬間です。この瞬間をストーリーのなかで持つ登場人物は大変、色鮮やか。長所と長所、短所と短所、あるいはある性格と別の性格でもいい、それが二面性ではなく全体性なのだと、わかるように対応させてあればいいのですが、ただ、長所と短所を使うフレームスイッチがいちばん、はっとさせられます。
まだお書きになったことがなければ、この転換の瞬間の演出に、挑戦してみてください。秘密のレシピは、ひとつめの演習で手に入れましたから…あとは、そう、あなたの魔法の杖、つまりあなたの指先で、物語を紡ぐだけです。
はい。コーヒーブレイクが済んだところで、ふたつめの演習に入りましょう。
演習2 各種設定を対応させて存在感を与える
はい次、仕組みがわかったところで、長所と短所を対応させながら、誰かを作り込んでいきましょう! 素材は私がするようにゼロからでもいいですし、もう書けているお話の、固まりきってない人物を出してきてもOK。今回も実際にやってみるのがポイントです。練習や試行錯誤は、大事です。取り上げるのがあなたの物語の人物なら、あなたが少しばかり物語からこちらへ呼び出して遊んでも、物語を変更しない限り、何も変わりません。どうか恐れずに、書き手として楽しんで。ええと:
ノープランで名前と年齢だけ書いてみました。うーん、見事。名前と年齢しかない。呼び名はウッチーかサーヤだな。マッチングアプリなんかでヤケになったつまんない男性に「とりあえずいいね」のスワイプされてそう(斜)。なんの興味も持てません。見事に薄い。
お姉さん誌でストリートショットを撮られ、照れ笑いしてる女性を想像してみます。ははあ。ちょっとそれらしくなってきます:
ここから始めましょう。
向き不向きや、仕事タイプへの耐性など、外堀から「同じ性格に起因するネガポジ」を意識して埋めてみます。
ポジティブな面かぁ。せっかくだから、そこそこ頑張ってる人にしようっと。
提携先や複数部署との折衝があり、プレゼンの機会が多い。企画書を作るのが得意。へこたれず、打たれ強い。フットワークは軽め。流行に敏感。食の歴史に興味あり。フェアトレードの勉強をしていて、NPOでの仕事に惹かれている。趣味は、色々な国の風物に触れること。ホラーやお化け屋敷をカラッと楽しむことができる。野菜マイスターの友人とオンラインサロンを始めたところ。
これだけでは名前と共に、ただの意識高いキラキラした人なので、対応する暗そうなところを埋めていきます。(はじめにただの暗い人を考えたかた…私も初稿は概ねどん底に暗いんです、気が合いますね。暗さへの情熱が一服したところで、ごく無感情にでいいです、その暗さに対応する、その人の眩しいところを考えてください。苦しくても練習!練習! 頑張ってみましょう…暗みがあるぶん、奥が深い眩しさになること請け合いです)そうだなぁ…ヒット狙いの賭博性が不安の種で、ロングテール品のバージョンアップがプレッシャー、使えない部下と無能な上司の挟み撃ちで仕事増える傾向、社内政治に疲れがち、企画書のたびに襲い掛かるSDGsに追いつかない勉強、キャリアが踊り場、転職した友人の楽しげな自慢話、知識を求めても所詮素人裸足、などの鬱屈もあるでしょう。ビジネスシーンではこの人、人の目に触れそうですね…プレゼンの機会のたびに、「可愛らしく頑張ってる女の子」枠から出て「安心して頼れるキャリア女性」への変身が求められ始める時期なのかな。今までの美容法やお洒落が似合わなくなってきて、外見に「私らしさ」の重圧がかかってくる頃合いです。あんまり書きたくないですが、心ない男性社員の心ない陰口がひたひたと迫り、心ない女性社員の心ないマウンティングがひしひしと重くなってくるでしょう。色香という言葉が似合いはじめるものの、クローゼットには若気の至りみたいな服が残ってたり、とはいえ一丁上がりな自信と余裕が満載の「大人の女性」にもなりきれず、はたからみるとどうにも、ガチャガチャで、踏ん切りがついてなかったりする。
なんか暗いほうに傾いて来たなぁ。キラキラしてるところから始めたのに、キラキラしてないほうの設定に足場を求めすぎて、いまいち面白味がない。まあ生きてると、つらいことのほうが数としては多いですよね。ええ、気づいてます。面白味ねぇ…そこで…
人物像を得るヒント:笑顔
ぼんやり見えてきたこの辺で、これを投入しましょう。
トルストイの逆というか、つらい体験ってどんな人にとってもだいたいつらいので個性が出にくいんですよね。どんな時に笑顔になるかを考えると、その人のことを想像しやすいです。
うん、想像しやすくなります。
最高? そりゃ、素敵な笑顔は最高です。
敢えてマイナス面を探します。探すんです。ここは気合いです。いいですか、ねえ、その笑顔のために、あるいはその笑顔のせいで不幸になっている人が必ず、必ず、必ずいます…!
なるほど、自分の魅力に無自覚かぁ。社交的な人のなかには、意外に鈍かったり、自分の考えの中だけで生きてたりする人いますね、そういえば。でもそういう人って吸引力あるし、行動力あるし、屈しないで自分を貫いたり、逆に傷つかない強さがあって、周りに人が集ったりするんですよねぇ。
なるほどそういう人でしたか。
外堀が埋まって来ました。プライベートに踏み込んでいきましょうかね。
来ました普通砲。ちょっと変わり玉を入れよう。
(これは…昔々も大昔の話、大学寮にアルメニア人留学生がいたのですね。彼は6か国語話せるうえ院生で年上で人柄が落ち着いていて、寮生たちと超・仲良い。英仏語はまあまあ、ドイツ語はからっきしで「おはよう」「こんにちは」「おやすみ」、あ、あと「愛してる」くらいだなぁ…と言った私に、彼(※当然のように美男子)は「全然問題ないよ。だって、それなら明日にでもドイツに行って、素敵な人に会って、好きって言って一緒に寝て、朝、おはようって言えるじゃない? 他はそのあとでいいんだよ。僕は思うんだけどね、好きな人に新しい言葉を教えてもらう毎日って、素敵だな」と悪びれもせずに言い、眩しく笑ったのでした。嗚呼、我が青春。)
カッコに入れてもなおムダ感のやわらがない、ムダエピソードを挟んでしまいました。まあ自分で書くお話です、お好みで、楽しく書き進めましょう。
書き手の皆さんもご自分の用紙を埋められてきましたか? こうして外堀を埋めていると、やっぱり、パンチの効いた長所を放り込みたくなって来ますよねー…。短所でもいい。長所短所というか、あんまり見ないような不思議な明るい(暗い)側面かな。卓越してたり優越してたり、とにかく頭ひとつでも、ずば抜けてる点ですね。これがないと読み応えにやや欠けますので、頑張ります。特殊さを示すここは、意外性を持たせてもいい。例えば非常に美しい靴が作れるとか、業界でも有名な凄腕の殺し屋だとか、秘密の家庭料理サービスクラブで、ご指名No.1だとか。さっきの亀仙人の例だと「カメハメ波というスーパー技を編み出した」ですね。設定した性質について、ちょっと振れ幅を大きくしたりしてもいいですね。この内田沙彩さん(32)…「サーヤ」のお話は、暗いほうはたぶん、アルメニアの歴史を紐解くと彼の曽祖父くらいに悲劇が眠っていそうなので、どん底に暗いのは彼に任せましょう。さて、私の思いつく「特殊性」は…
「少しだけ不思議な、普段のお話」、これは例ですのでね、皆さんどうぞ、お好きなように。私は私で、つまりここではコンニチワールド流で…。
うーん…きっとこのあたり、普通と不思議の加減って難しいですよね?
私は、普通部分はかなり多めでいいと思います。(普通感については、別途紙面を設けたい気持ちがあります。←野心)普通、普通に暮らせているなら、普通の人のはずなんですよ。少なくとも外形的には。私の考えでは、登場人物のこの普通部分は、読み手に丸投げしてはいけない部分。そこには人物の生活があるからです。是非、覚えておいていただきたいのですが、生活のない登場人物に、現実味は生まれない。どんな人間でも、かならず生活しているからです。生きて活動する根源は、生活にこそある。登場人物の生活感は物語の見栄えには関与しないかもしれませんが、現実感には大いに関与しています。設定中、こいつ…フワッフワだなぁ…と思ったら、まず生活部分を固めることを強く、お勧めしますね。全部は載せれないかもしれないけれども、その意識があるだけで人物はぐぐぐっと立体的に持ち上がります。
で、普通:不思議の比の話に戻りますが、私の考えではね、特殊なところというのは、あまりぶっ飛んでなくてもよくて、ちょっとだけあって、すごく目立つほうがいい。
周りの、とにかくとにかく普通な、普通一面の風景に、普通じゃない点をポチッと入れる。と、妙に全体の存在感が出ます。これはね、水色の画用紙に船を描くと画用紙一面が海になり、鳥を描くと画用紙一面が空になるような、不思議な効果。私がお話を書くうえではこれ、とても気持ちいい瞬間です。
新月の夜に出歩くと、あまり親しくない人からちょっと素敵な贈り物を受け取る…うん。この「サーヤ」に、ではネガティブなインパクトをつけてみましょう。これは、対応関係を意識できていれば、なんでもいいです。暗い過去でもいいし、ありえない性質でもいいし。よくわかってらっしゃる、ええ、私は地味を極めたようなのが大好きです。私は、美しい、一生懸命生きる人に、地味だけど深い深い傷があるのが好き。目を引くようなものではなくて、でも一生、その人に付き纏うような、細くて長い負の側面です。
人間って、注意力に定量があると思うんですよね。サーヤはきっと常に、新しいもの、自分の相対するものに注意がすごく向いていて、自分自身にはあまり意識が回りきっていないし、見ないようにしてるんじゃないかな。ネガティブなエピソードを放り込むとしたら…。
上は(話の長さによりますが)「誰かに指摘させる+実際に起こってはっとする+見せ場でもう一回使う」が最短ですね。下は、初めの方に持ってきて彼氏の説明にするか、後ろに持ってきて、「今日一緒にいて…」と珍しく弱音を吐かせたりしてもいい。
出来上がってきました。
サーヤはいま、人生の岐路に立っている感じでいきましょう。だって、色々なことが宙吊りのまま。けれども近いうちに、やめるか、結果を出すかしないといけない。日々の楽しみ、人とのちょっとした摩擦や、ほんのり素敵な出来事…。この時点で、私の視界に映るサーヤの姿は:
新月の夜、ラボに籠もりきりらしいアルメニア人彼氏の英語のLINEを既読スルーしながら、サーヤはふと、外に出ました。いつもより暗い路地、とはいえ街明かりのせいで、星がよく見えるわけでもない。風が心地いい初夏の夜です。リラックスできる、ラブバイギャップのシアブルーのオールインワンにクロックスで、なんとなくまだ半乾きのミディロング、ケータイと財布だけ持って、コンビニで新商品のアイスでも買おうかなと家を出たサーヤですが、コンビニ前の段差に躓いて転び、はぁ…。そういえば近所のミニシアターがエストニア映画をレイトショーしているのを思い出し、ああ今日なら観に行けるんだ、ふと、観に行こうと考えます。席は、ガラ空き。券売カウンターの女の子が、来週、自主制作発表会があるんです、と言って割引で売りつけてきたチケット。一緒に渡されたチラシには、転職すると言って辞めていった、同期男子の名前と顔写真があり…。
何かが始まります。
物語が、始まるんです。
今日の『ヒント』はここまで。どうぞご自分の原稿にお戻りになって、あなたが考え出した登場人物をより一層魅力的にするにはどうしたらいいか、考えてみてください。
今日のまとめ:人物に長所と短所の両方があるのは人間味のうえで好ましいのですが、それぞれがきちんと対応していないとせっかくの考案も水の泡です。さらに、ここで絶対に思い出してほしいのは「設定は行動とセット」ということ。設定を参考に書いたあと、その見直しは必ず、作品の文章を拾って行い、表現したい性質に対してそれがわかるエピソードが用意されているか、チェックしましょう。
次回までの宿題:
物語に生命を与える描写と、物語から精彩を奪う描写の違いはなんでしょうか? 読む快感、書き手としての嫉妬にため息をつくような描写と、退屈でため息をつくような、次のト書きまで読み飛ばしてしまうような描写の違いは? 思わず没頭してまるで自分が旅行に行ったような気分になる旅行体験記と、知識としての情報を拾い読みして終わりになる旅行体験記は、何が違いますか? 文字で綿密に外見を描いても、写真一枚に勝てないのでしょうか? 文字にはできて、ほかの媒体にはできない描写とは、どんな描写でしょうか?
→答えがある宿題ではありません。これは「きっかけ」という、私なりの感謝の表現形(のつもり)です。ひらめきがあったらぜひ、教えてください!
いつもありがとうございます。
お話を書くのが、大好きです。
では、また。次の投稿で!
◇◆◇◆◆◇◆◇
継続はチカラ也…『人物造形のヒント』の他の記事にも、おいでください!:(ひととおり受講済みのかたは、ええぜひ、気になる分野の復習を♡)
①個性は「個」性
②魅力的な人には安定感と意外性がある
③台詞と心情にはズレがある
④どんな人かわかるように書く
⑤「ありきたり」に魔法をかける
⑥小物づかい
⑦設定は行動とセット
⑧ギャップでは「驚き」と「より深い理解」を意識する
⑨追い込め!追い込め!追い込め!
⑩長所と短所は対応させる
⑪普通感
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今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。