ウイスキーだらけの京都のコーヒー屋さんでデミタスブレンドとカフェオレ【自家焙煎王田珈琲専門店】
ぷらぷらと歩いて、鴨川をわたり、フランソワ喫茶を横目に、路地にはいる。
「あ、なんかここ、気になる」
とチラリと視界に入った、木のドアの前で立ち止まる彼氏。
「コーヒー、スコッチ、酒」とある。
黒板ボードがわきに立てかけられていて、コーヒーの値段、ウイスキーの値段、SAKEとかかれた酒の値段がそれぞれ簡単に表示されているだけ。
木のドアにはめられているガラス面には、よく見ると「自家焙煎王田珈琲専門店」とあった。
そのさきをまたぷらぷらと歩き、「あ、あの食堂おがわってこんなところにあるんだ！」とふたりで静かに盛りあがったあと
さて夕食の予約の時間（18時半）まであと1時間ほどどうするか、と顔をみあわせる。
「さっきのコーヒー屋、気になるんだけど」
「行きましょう！」
旅先で気になったものはなんでも行くべし。
ひとつ返事で、元きた道を歩く。
木のドアを開けると、目の前はすぐ階段だ。
一度ドアを開けたら、あとはもう上がるしかない。
ウイスキーのボトルが綺麗に各一段ずつ鎮座されてある赤いカーペットをどきどきわくわくで上る。
明るくて天井の高い、秘密基地のような場所だと思った。
右側にカウンターがあり、テーブル席が3つ。
テーブルに彼氏とむきあって座り、メニューを眺める。
ブレンドデミタスを2人でオーダーすると、
「一杯ずつ作るから、時間かかります！
一杯でだいたい20分くらいかな、だから2杯で40分くらい」
ということなので、じゃあカフェオレだったらどうだろうと聞いてみると、こちらはデミタスと一緒に作るみたいなので、彼氏はブレンドデミタスを、私はカフェオレをオーダー。
明るく気さくにお客さんと喋る店主さんだった。無口で淡々黙々とコーヒーを淹れる渋い店主をイメージしていたので、お店の雰囲気といい、「なにここめちゃくちゃアタリじゃん…」とにやにやが止まらなかった。
メニューを眺めていると、「コーヒーは仕事、ウイスキーは趣味のお店」だという自己紹介文。
趣味というにはあまりに数の多いウイスキーに、お客さんと話しているのを聞き取るだけでも、かなり深い知識。
ウイスキーのことはまったくわからないけれど、それでもこのウイスキーの量とお店の空間にはとても心惹かれた。なんでだろう。京都に住んでたら週一で来たい。カウンターに座って店主がコーヒーを淹れるのを眺めていたい。ウイスキーは飲めないから、店主がほかのお客さんと話しているのを聴きながら本を読んだりしたい。
店主がカウンターにきた常連さんらしき人と喋っているのが聞こえてくる。
「なんかこの前インスタグラマーみたいな女性がきて
インスタのフォロワー数あとで見てみたら2万とかで
あっちこっちいろんなお店行ってるようなんだけど
ああいう人って自分の好みっちゅうもんがないんかなあ
有名店に行けばいい、みたいな、数だけこなしとるみたい」
そんな話を、ほんとそうだよなあとしみじみ思いながら、デミタスブレンドを「ゆっくり飲んでください、時間経つと味変わるので」と言われてゆっくり飲んでいる彼氏を眺めながら聞いていた。
デミタスを一口もらう。
めちゃくちゃ濃くて渋味が強いのかと思いきや、案外あっさりしていた。
お手洗いに行こうとすると、トイレのノブが回らない。
あれ？鍵がかかってるのかな、でもさっき人が出たばかりだよな…
と思いながら店内を見まわす。
すると店主が
「あ、内側から鍵かかっちゃったかもですね」
と言って、カウンターに置かれていた小さな鍵を入れてガチャガチャしだした。
だがしかし開かない。
「うーん、緊急ですか？」
と聞くので
「いやいや全然。というか、大丈夫です、入れなくても（ここで入らなくても）」
と言うと、
「いやこっちが大丈夫じゃあらへん」
と言うので、たしかに、と笑ってしまった。ほかのお客さんも笑ってくれた。
待っているあいだに本や雑誌が並んである棚をみると、
「世界を変えた6つの飲み物」というタイトルが気になっていたので、手にとる。
世界を変えた6つの飲み物って、みなさんなんだと思いますか？
「開きました〜」と鍵が開き、明るい照明に照らされたきれいなトイレに入る。
時間が迫っていたので、お会計をして階段を降りて店をでた。
「おおきに〜」
このお店では、ありがとうございましたを連発する代わりに、おおきに、と店主が明るく声をかけてくれる。
そんなところにも京都を感じられて、ああ、思いがけなくいいお店を見つけたと嬉しい足どりで夕食へ向かったんだった。
そうそう、「世界を変えた6つの飲み物」。
正解は、
ビール
ワイン
蒸留酒
コーヒー
紅茶
コカコーラ
だそうな。
たかが嗜好品、されど嗜好品や…
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