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出社回帰のニュースを見て思うこと

この記事は 株式会社ヘンリー - Qiita Advent Calendar 2024 の7日目の記事です。
昨日はTODAさんの「GitHubのGraphQL APIを使ってPull Requestを分析するためのレシピ」でした。


株式会社ヘンリーで組織広報を担当している小山と申します。

ヘンリーは80名ほどの規模(2024年11月現在)でリモートワーク中心の組織です。自分は9番目に入社し、この4年ほどヘンリーの採用、広報、組織開発に関わり、コミュニケーションを軸に組織をより良くするために何ができるかを考えてきました。

昨今話題の出社回帰のニュースを見て、社内のコミュニケーションに向き合ってきた視点から思うことを書いてみます。


リモートワークと私

自分の考えの前提を共有するために、自身の経験を少し振り返ります。

現職のヘンリーはコロナ禍でサービスを作り出したというタイミングもあり創業時からリモートワーク中心の会社ですが、個人としては新卒でサイボウズに入社し10年以上前からリモートワークを経験していました。

当時はフルリモートというより、”ウルトラワーク”を活用して外出などの予定や、個人・家族の状況に合わせて働く場所を選択できるものでした。サイボウズは「チームワークあふれる社会を創る」ためにグループウェアと呼ばれる社内情報共有システムをつくっている会社です。自社のシステムを活用して、当時としてもリモートワークを早期に実現していた企業のひとつだと思います。

リモートワークのメリットや難しさを早くから経験できたことは、リモートワークが当たり前になりつつある時代を先取れたという意味でもとてもラッキーだったと思っています。その上で、個人として以下の3つの理由からリモートワークはメリットの方が大きいと考えています。

  • 突発的な事象を含む個人の事情に寄り添える柔軟な働き方が可能になる

  • 地方や海外に住む方を取り入れやすくなり企業の雇用の可能性が広がる

  • テキストで情報を蓄積していくことが知識創造組織の形成につながる

それぞれの詳細について書いていこうと思います。

突発的な事象を含む個人の事情に寄り添える柔軟な働き方が可能になる

働き方の柔軟性の話は、子育てをしながら働きやすい環境をつくる文脈でよく話題になると感じています。

自社でも、メンバーの約60%(2024年11月時点)が子育てをしながら働いており、自分も未就学児の子どもがいます。自身の経験として、子どもの突然の体調不良、そして高確率で自分やパートナーも順番に体調を崩すループを幾度となく経験し、リモートワークが無かったらフルタイムで働き続けることは難しかっただろうと思います。

子育てに限らず、自身や家族の体調不良・病気・怪我、といったことは突発的に起こります。予想していなかったことが起こると、驚きや不安は誰でも感じるものですが、そこに仕事の悩みが重なると更にストレスが増えてしまいます。柔軟な働き方ができれば、

「体調が優れないから、在宅での仕事に切り替えて様子をみよう」
「家族の具合が悪いから、看病しながら働けるように調整しよう」

など、選択肢が広がることで目の前の事象や仕事だけに囚われず中長期的に見てより良い選択がしやすくなります。その場は予定をずらすなど多少の調整や同僚に助けてもらうこともありますが、無理をして辛い状況を長く引きずる方が自分にとっても仕事にとってもマイナスになることの方が多いと経験則から思います。

地方や海外に住む方を取り入れやすくなり企業の雇用の可能性が広がる

働き方が柔軟になると個人は働く場所に制限がなくなります。企業からみれば、採用できる対象者の範囲が出社できる距離に住む人から、全国、場合によっては海外にまで広げられる可能性があります。

自社ではメンバーの約25%(2024年11月現在)が関東圏以外に在住し、海外に住んでいるメンバーもいます。リモートワーク中心の働き方だからこそ、エンジニアや医療事務など様々な場所に住む専門スキルや知識のあるメンバーと共にものづくりに向き合えています。

もちろん、全ての仕事がリモートワークに置き換えられるものではないことも理解しています。たとえば、自社は電子カルテを開発しており、サービスを提供している病院は現場で患者さんのケアを行う仕事です。その医療現場でもITを活用して、一部の業務をリモートワークで行う事例が出てきています。

テキストで情報を蓄積していくことが知識創造組織の形成につながる

出社回帰の理由として、コミュニケーションの質への課題意識があるように感じています。自社も組織のフェーズによって様々な課題がありました。

2021年〜2023年にかけては1年で組織規模が2倍ずつ拡大していた時期で、口頭で話された内容がテキスト化されずその場にいなかったメンバーにトピックの背景が共有されない、後からトピックの経緯を追おうとしても検索で情報が出てこない、といった動的コミュニケーションと情報蓄積のバランスが取れていないという課題がありました。対策としては、MTGで話したことやSlackのやりとりで決めたことを意識的にNotionに蓄積・集約していくようにしました。

2023年以降は、たっぷり蓄積された情報を今度は活用しやすいようにどう整理していくかが課題となりました。様々な課題に直面しながら改善を重ね、現在は組織が拡大する中で新しく入ったメンバーの経験や知見も借りながら、情報整理や仕組み化を進めています。

10年ほど社会人を経験して思うのは、仕事上のトラブルや問題のほとんどは伝え方やタイミングなどのコミュニケーション課題が起因しているということです。オンライン、オフライン、口頭ベース、テキストベースといったコミュニケーション手段がありますが、それぞれにメリット/デメリットが存在します。たとえば、メリットの方が注目されやすいと感じるオフラインの口頭ベースでのコミュニケーションは、テキストのみよりも話者の表情や場の雰囲気など五感を使ってメッセージを発信しやすい一方で、聞き手の解釈や記憶に頼ることになるため伝え手の意図がどのようにどこまで伝わっているかは個々に差が出ます。そして人の記憶は都合よく変換されたりもします。

どのコミュニケーション手段にもメリット/デメリットがあるのであれば、それぞれを上手く使い分けて一貫したメッセージを伝え続けていくしかないと考えています。ただ、何を起点とするかは重要で、リモートワーク中心だとテキストベースのコミュニケーションが起点になりやすく、これが中長期的に大きなメリットにつながるのではないかと捉えています。テキストから発生するコミュニケーションの流れを整理すると以下のようなイメージです。

【ヘンリーでよく見られるコミュニケーションフロー】
Slackでやりとり → 決まったことをNotionに記載 → オンラインMTGで追加確認→ 追加で決まったことをまたNotionに記載 → それでも共有しづらい部分はオフラインの機会を設けて話す → 明らかになったことをまたNotionに記載 → 次のやりとりにつながる

テキストベースのコミュニケーションは事実ベースで簡潔にまとめられた方が相手に伝わりやすくなるため、チャットなどでのやりとりを起点に口頭でフォローして内容をブラッシュアップしていくサイクルができると、背景も踏まえた情報が蓄積され、それが組織の大きな財産になります。

自社のコミュニケーションフローを考えたときに思い出したのが、知識創造企業で提唱されているSECIモデルです。テキスト化する文化は表出化と連結化に寄与し、暗黙知から形式知を作って行く過程のログが残しやすくなるため、内面化や共同化がしやすい組織づくりにつながるのではないかと考えています。

本をもとに筆者が作成したSECIモデルの図

テキストベースのコミュニケーションは、慣れていないと自分の考えを言語化するのが手間に感じることもあるので定着に時間はかかります。自社も組織全体で情報をテキスト化することの習慣化に1〜2年かかった感覚ですが、今はメンバーが自ら意識して取り組んでおり、最近入社した方からは「情報がこんなに蓄積されてるのすごい」と驚かれます。


まとめ

個人、企業、組織づくりのそれぞれの視点からリモートワークを取り入れるメリットは高いと考えています。

今後、自社の組織が更に拡大していく中で、また新たなコミュニケーション課題にぶつかることになるでしょう。現時点で予想されるものについては、組織体制や情報共有の仕組みを整えるなど対策を始めていますが、前述のように組織課題いわばコミュニケーション課題は常に発生します。

会社としてどのように課題を捉え対応していくかは、会社の文化やカラーが出る部分だと認識しています。ヘンリーは難しい社会課題に向き合う集団であり、まだ正解が見えない領域を進んでいくために先に述べた知識創造企業の考え方が重要になると捉えていますが、リモートワークが中心の組織の最適解をまだ見出せているわけじゃないと思っているので、引き続き試行錯誤しながら良い組織をつくっていくためにできることを追求していきます。

リモートワークは今日明日で「さぁやろう!」と言っていきなり運用できるものではありません。システム設計や、これまで述べてきたようなコミュニケーション設計も必要になります。ただ、目の前のコストやデメリット、社会的な風潮に流されず、中長期的なメリットを踏まえてリモートワークの良い部分にもっと焦点が当たって欲しい、というのが偶然か必然かリモートワークを長く経験してきた者としての思いです。

自社は今後もリモートワーク中心の組織づくりを行なっていく予定です。もしご興味があればお気軽にご連絡ください。

明日の株式会社ヘンリー - Qiita Advent Calendar 2024は、kohiiさんです。
お楽しみに!


*見出しの画像は UnsplashRyoji Iwataが撮影した写真を使用させていただきました

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