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誕生日、追憶のいちごタルトを探して放浪する

タルトが大好きだ。
なんのケーキが好きですか?と聞かれたら「苺のタルト」と即答する。

まだ小さい頃、家族でお祝い事がある時はいつも近所のケーキ屋さんのケーキでお祝いしていた。地元の人たちに愛されていたそのケーキ屋さんはこじんまりしていながらも実力派。季節ごとに旬の果物をふんだんに使ったケーキが並ぶのだが、私の誕生日がある1月にしか出ないのが苺のタルトだった。

浅めのタルト生地にカスタードクリームがこれでもかと詰め込まれ、その上を艶々の苺たちが飾り立てる。このイチゴ×カスタード×タルトの三重奏が完璧なバランスで口いっぱいに広がり、子どもながらに衝撃的な美味しさだった。

この味をしめて以来、ホールケーキを選ぶ特権がもらえる誕生日にはホールサイズの苺タルトを豪快にたくさん食べるのが毎年の楽しみだった。だったのに。

その数年後、ケーキ屋さんが閉まってしまった。大好きだったあの苺タルトはもう二度と食べられない。

ここから、私の人生を懸けたTheいちごタルト放浪旅が始まった。

ケーキ屋さんに行くたびに、タルトを探す。タルトを売っているケーキ屋さんというのは意外と少ない。もしも苺のタルトに出会えたら、絶対に買ってしまう。そして毎度、思う。

…これ、じゃない。東京のいちごタルトはお洒落すぎる。

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1月、気づいたら誕生日を迎えていた。ケーキの準備などすっかり忘れていて、どうしようかなと思案。クリスマスに友達と食べたチョコタルト(←またタルト)が忘れられなくて、このケーキ屋さんに出かけてみた。

タルト専門店だった。色とりどりのタルトが並ぶ宝石箱に目を輝かせていると、ひときわ主張の激しい赤色が視界に飛び込んでくる。もしかして。

苺のタルトが、あった。しかもカスタードオンリーに艶々の苺。
はやる気持ちを抑えながら、しっかり他のタルトもゲットして家路に着く。

おやつの時間には少し早い。タルトをしっかり冷やす間に、いそいそと珈琲を用意して。普段使わない綺麗なお皿に乗せて。フィルムをそーっと優しく剥がして。慎重にフォークを差し込み、ひと口いただく。

…見つけたかもしれない。追憶のいちごタルトを。

正確には若干違う感じもするが、過去10年くらいで最も近い。タルトのさくさく加減と、カスタードのほどよいもったり感と控えめな甘さ、艶々な苺の甘酸っぱさの三重奏は、ストライクゾーン高めくらいに好みのタイプ。
今年の誕生日は、期せずして充実したケーキ選びだった。

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追憶のいちごタルトを探す放浪旅は、まだまだ続く。


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