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彼女と別れた話


先月、幼馴染と別れた。
忘れてしまうのは勿体無いのでださいポエムを書くことにした。

2007.春
初めて喋ったのは小学三年生。彼女と同じクラスになった。この学年だと男女分け隔てなく接する時期であり、彼女とも何かきっかけがあったわけではなく自然と仲良くなった。そのため小学校時代に彼女との特別な思い出はほとんどない。

プール授業後、髪が乾ききっていないポニーテール姿が可愛かったこと、修学旅行の移動中にポッキーを分けてくれたことを覚えている。


中学にあがると彼女はバスケ部に入った。明るく誰とでも楽しそうに話す彼女は学年の人気者になっていた。誰々が告白して振られたという噂が僕の耳にも届いてくる。生徒会長、野球部のキャプテン、金髪のヤンキー etc....。彼女の学生生活がとても眩しくみえた。

対して、僕は学校に行くのが少し嫌だった。通う中学校は荒れていて、すぐ喧嘩に巻き込まれる環境に嫌気がさしていたのかも知れない。また、どんどん体格が大きくなる同級生と比べて僕の成長期は遅く、周りに置いていかれている感覚だった。

中学校二年生になって再び彼女と同じクラスになると、出席番号の近い僕らは自然と仲良くなった。下らない話しかしていなかったが、時折大きな目で真っ直ぐ見つめられるとどきっとした。

休み時間に彼女と話込んでいると、当然周りは茶化し始める。お前の好きな人はあいつだろ?。思春期の僕は必要以上に否定した。

その頃も彼女は相変わらず人気があり、同級生の何人かが告白していた。僕はその度に結果が気になり、振られたという話を聞いては勝手にほっとしていた。

ある日、同級生の一人から、僕が彼女に対してどう思っているのかを問い詰められた。曖昧な返事をする僕に、その同級生は彼女の気持ちをこっそり教えてくれた。彼女は小学生の頃からずっと僕に好意を抱いていたらしい。

一度意識してしまうともう目を見て話すだけで恥ずかしかった。ずっと頭のどこかで彼女のことを考えている感覚。寝る前は夢に彼女が出てきて欲しいと願っていた。思春期の恋は強烈だった。

一か月後、彼女の家に向かった。相手の家まで歩いて行ってインターホンを鳴らす。今考えると変な告白の仕方で笑ってしまうが、当時はそれしか思いつかなかった。


半年後、中学の卒業式。皆が大泣きしている中、僕と横にいる彼女だけは不味い青汁を飲んだ後のように苦い顔で立っていた。
実は卒業式の前日に僕は振られていた。理由は僕が恥ずかしくて学校ではあまり話せず、放課後に遊ぶ提案もろくにしなかったからだ。彼女からは以前のように友達として仲良くなりたいと言われてしまった。僕は付き合うという意味をあまり理解していなかった。

ついさっき合唱していたレミオロメンの3月9日がずっと頭の中に反響していた。


同じ高校に進学した彼女とは話すことも目を合わせることも出来なかった。なぜならずっと恥ずかしかったから。彼女に振られたことと付き合ってもほとんど話せなかったことがコンプレックスだったからかもしれない。

彼女と目を合わせることはできないけれど、常にどこか目で追っていたと思う。彼女が自分の教室に入ってきた時はあえて女友達と会話を続けて気にしていない素振りをしていた。


2021.夏

お盆に地元へ帰るタイミングで高校時代の友達と遊ぶ予定を立てていたとき、友達が最近彼女と連絡取ったと言った。僕はすかさず言葉を被せた。

え、会いたいかも

その友達は優しくて段取りも上手い。あたかも自然に三人で飲む機会をセッティングしてくれた。

某日。友達と合流してから居酒屋に向かう。個室に座っていた彼女は一瞬神妙な顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。その時の僕がちゃんと目を見て笑顔を返せていたかは思い出せない。

彼女と話すのは中学校卒業以来、実に10年ぶりだった。不思議な状況ではあるが、お互い大人になっていた僕達はちょうど良い距離感をつくることに慣れていた。相手を気まずくさせず、なおかつ素を出しやすい会話を心がける。3人で最近の近況や昔話に華を咲かせた。居酒屋を出て実家に帰る途中、今度は2人で出かける約束をした。


お盆最終日。彼女を助手席に乗せ、実家のコンパクトカーを慎重に走らせる。どこかふわついた気持ちのまま商業施設で遊び、カフェで当時の話や大学以降の話を答え合わせのように話す。あっという間に日が沈んだ。

夜景が見える場所に行きたくなったので、近くの波止場に車を停めた。当てもなく消波ブロック沿いを歩いた後、錆びたベンチに座る。この景色、横に彼女。夢のような、だけど全てが急すぎるような感じがした。彼女は恥ずかしそうに俯きながらも率直に思いを伝えてくれた。僕は少し濁った海を見つめながら、自分はまだ彼女に愛情は持っていないと気付いていた。だけど僕は再び仲良くなりたいという思いから微かな違和感を打ち消して、彼女と遠距離恋愛をすることに決めた。


2022.
先月、彼女と別れた。

結局のところ、再会してから僕は彼女に恋愛感情を抱いていなかったのだと思う。遠距離で会う回数も少なく、この状態で付き合っていくのが良いとは思えなかった。


いずれ彼女が結婚して、そこにいる男が僕じゃない誰かだとしたら、やっぱりひどく落ち込むかもしれない。


今思えば、ふとした時に思い出す人はいつも彼女だった。サスケの青いベンチを文化祭で聴いたとき。プロポーズ大作戦を違法サイトで観たとき。ゆずのからっぽが新宿のロータリーで歌われていたとき。




いつかこの恋を振り返るんだろうか。もし次会った時は彼女を真正面から見つめられるのだろうか。





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