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ショートショート 星の旬

「今年はサンマを食べ損ねたねえ。」
夕飯のお片付けをしながら、お母さんが言った。
「なんでサンマ食べないの?」
とお皿をふきながら聞いてみた。
「だって、もう、こんなに寒くなっちゃって。」
「寒いとダメなの?」
「売ってなくなるのよ。」
「サンマ、食べたかった?」
「旬の味だからねえ。楽しみにしてたのに。」
「『しゅん』ってなに?」
「一番いい季節のこと。サンマの一番おいしいのが、秋。」
「いちごが一番おいしいのが、春。」
「そうそう。」
「じゃあ、こたつが一番いいのが冬だ。」
「花火が一番いいのが、夏。」
くすくす、とベランダでお父さんが私たちを見て笑った。天体望遠鏡を組み立ててた。ちょっとのぞいては、何かを調整している。
「お星さまも、旬あるの?」
「そうだなあ。」
お父さんはちょっと目をつぶって考えて、それから言った。
「いつだって、見上げた時が、夜空の旬だよ。」
「はい。ココアできたよ。」
とお母さんが言って、それから部屋を暗くして、みんなで毛布をかぶって、あったかいココアを飲みながら、ベランダで空から落ちてくるお星さまを待った。ぴかぴかで、旬の、お星さま。

ショートショートNo.176

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140字版