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140字小説集 11月のまねきねこ座(十一月の星々応募記録)

 Twitterで毎月開催されている140字小説コンテスト「月々の星々」に参加しています。11月の文字は「保」。本文のどこかに「保」の漢字をいれます。応募数はひとり5本まで。11月の星々の参加記録です。

no.1

大人になったらパイロットになりたい。スーパーの帰り道に堤防でコンクリートの塀によじ登る。両手を広げてバランスを保てば僕はもう飛行機だ。向かい風が気持ちいい。「いい加減にしなさい」自転車をひきながら母さんが言う。ジャンプして、着地。「お帰り機長」母さんが言う。「無事帰還」僕が言う。

 「バランスを保つ(飛行機)」。どちらかというと「着」(先月の漢字)なのでは、と書いた瞬間に思いました。このため、「着陸しました」という僕のセリフを「無事帰還」にあわててなおしたりしています。「着陸」のほうがいい気がする。うーん……。
 「僕はもう飛行機だ」のときの開放感が気に入っています。

no.2

帰宅するなり熱が出た。動けない程だ。「夕飯は?」という夫に事情を話してどうにか眠る。目が覚めると夫はとうに出勤した後で台所はぐしゃぐしゃ。机の上に「冷蔵庫のを温めて食べて下さい」とメモがある。朦朧としながら冷蔵庫を開ける。保存容器を取り出して温めなおす。カレーと、冷えた気持ちも。

 「保存容器」。家によっては、タッパーにそのままカレー入れないで!(色がついちゃう)って怒られそう。
 もともと、「人間関係を温め直す」と「保存容器に入っている」をつなげようとしてできた話です。メタファーをもう少し上手に扱えたらいいなあと思っています。詩的表現という意味ではなく、もっと連想的な。映画のカットバックみたいな感じで。短い文字数で何ができるかな、というのを考えたいんです。

no.3

社会人になって数年が経つ。出張ではしゃぐこともなくなった。出先の景色に見慣れたし、なにしろ金がかかる。今では新幹線の駅でミックスジュースを飲むくらいが楽しみだ。時間があるときはたこ焼きの列に並ぶ。職場に菓子くらいは買っておくかな。冷凍餃子を夕飯に。あ。お姉さん、保冷剤2つつけて。

「保冷剤2つつけて」
 新大阪駅です。新幹線の新大阪駅。ミックスジュースの専門店が新幹線の待合(上にあがるとホームがあるお土産や休憩スペースのあるコーナー)のど真ん中にあるので、みなさん飲んだ方がいいと思います。
 「大阪行ったらよらなあかん」のくくるのたこ焼きもあります。よっぽど時間がある時でないと、ならぶと後悔します。あと、香りがするので、手土産の買ったら買ったで、ビニール袋にいれて口をぎゅっときつく縛らないと、新幹線の中でちょっと恥ずかしいです。とろとろタイプのたこやきです。おいしいのです。
 あと、お土産コーナーに点々の餃子があります。551の肉まんより小さいのでお土産にしやすく、何日かのおかずに使えます。要冷蔵。保冷剤がいります。
 ……なんの解説でしょうこれ。


no.4

インタビュー記事を見るとつい年齢を確認してしまうようになった。何歳にあれをやり、何歳にこれをもらう。その『何歳』を自分がどんどん追い越していく。ぱちんと音が鳴って顔をあげる。お湯が沸いた。お茶を入れる。お茶なら上手にいれられる。そうして、バランスを保つ。何もできないままの自分の。

「バランスを保つ(自分の)」
 大人になってからは防波堤で飛び回ることも少なくて、体よりも精神的なバランスを保つ機会の方が増えますね。
 とはいえ、メディアで見る立派な人をなぜかお手本にしようとしてしまうのは小さい頃と変わりない気がします。変わるのは「いつかなる」が「すでになれなかった」という自分自身の地点だけです。
 宇宙飛行士にも、考古学者にも、野球選手にもなれなかったりしましたが、目の前のお茶は上手にいれられるようになりました。
 今目の前の自分に必要なことをちゃんとできる。そういうの、まあまあだと思います。
 ※三席にご選出いただきました。どうもありがとうございます。

no.5

毎日お仕事お疲れ様です。奥様のご紹介で参りました。生命保険は如何ですか。万が一のことがあった時大事な方に保険金が振り込まれます。病気に自殺に不慮の事故。人生は分からない事だらけ。お体の具合は悪くありませんか。大丈夫。あなたがいなくてもお金があればみんな幸せ。生命保険は如何ですか。

「生命保険は如何ですか」
 いきなりホラー寄りですね。どうしたんでしょうか。
ラジオ体操の歴史について書いた本に、『死亡時にお金がもらえる』という売り文句の生命保険の販売人が不吉だと嫌われたので、『健康を守る(保険料も抑えられる!)』というイメージに変えるためにラジオ体操をつくった、というようなエピソードがあった覚えがあります。この話が好きなのです。
 黒いスーツで、オールバック、やせて顔色の悪い販売人が『どうして不吉ってみんな言うんでしょう(にやり)』とか呟きながら売ってほしい。


十一月の星々の入賞作はこちらで読めます。よろしければぜひどうぞ。

140字小説集 005