見出し画像

ショートショート 遊んであげない

「はい。あがり」
カードを全て出し終わる。
「ぐう」と娘が唸った。ぼろりと涙が溢れ出す。
「泣くなよ」
諌める。まだ小学生とは言え、勝負事で泣くだなんてみっともない。

「泣くなら、父さんは遊んでやらない」
机の上のトランプを整理して、プラスチックの箱に戻した。
席を立って部屋を出ると、わあわあ娘の鳴き声がした。

「ちょっと、お父さん」
泣き声が聞こえたのだろう。台所から妻が出てきた。
「何であの子泣いてるの」
「トランプで負けてくやしんだそうだ。泣かせておけ」
「待って」
妻が腕を掴んでくる。
「何だよ」
「小学生よ?」
「勝負は勝負だ」妻の勢いに少し押される。「人生の厳しさを教えてやらないと」
「もう、結構」
妻が腕をはなした。
「お父さんとは、遊んであげません」

妻が娘のもとに走る。頭を撫でて、あやす。
トランプを始めた。娘が笑い出した。
空いたドアの隙間から覗いている私を妻が睨む。目を逸らされた。

黙ってドアを閉じた。ため息をつく。
人生は、厳しい。

ショートショート No.489

課題「文体の舵をとれ」第9章⑨二

アーシュラ・K・ル=グウィンの「文体の舵をとれ」をもとに、ショートショートの文体練習をしています。

今日の課題は要するに、「苦手な人」です。
申し訳ないことに実在のモデルがおりまして
以前、お子さんの誕生日に何を買ったらいいか聞かれたことがあり
ボードゲームをいくつかおすすめしたら
「喜んだよ!」
という報告をいただいた数日後
「パパだけ遊ぶの禁止になった」
と言い出しました。こういうことだと思います。
……こういうとこだぞ。

「恐れを知らぬ波乗りねこ」
for Steering the Craft

introduction
エッセイ ガラスの浮き球

1−①ー1 名古屋の化け猫
1−①ー2 この場所
2−② 18時
3ー③−1壁の向こう
3−③ー2 時間切れ
3−③ー追加1 大須の化け猫(名古屋の化け猫、方言抜き
4ー④−1 走って走って
4ー④ー2 蟻の母
5ー⑤ 深夜のキャンプ
8ー⑧盗人たち
9−⑨忘れても