ショートショート 遊んであげない
「はい。あがり」
カードを全て出し終わる。
「ぐう」と娘が唸った。ぼろりと涙が溢れ出す。
「泣くなよ」
諌める。まだ小学生とは言え、勝負事で泣くだなんてみっともない。
「泣くなら、父さんは遊んでやらない」
机の上のトランプを整理して、プラスチックの箱に戻した。
席を立って部屋を出ると、わあわあ娘の鳴き声がした。
「ちょっと、お父さん」
泣き声が聞こえたのだろう。台所から妻が出てきた。
「何であの子泣いてるの」
「トランプで負けてくやしんだそうだ。泣かせておけ」
「待って」
妻が腕を掴んでくる。
「何だよ」
「小学生よ?」
「勝負は勝負だ」妻の勢いに少し押される。「人生の厳しさを教えてやらないと」
「もう、結構」
妻が腕をはなした。
「お父さんとは、遊んであげません」
妻が娘のもとに走る。頭を撫でて、あやす。
トランプを始めた。娘が笑い出した。
空いたドアの隙間から覗いている私を妻が睨む。目を逸らされた。
黙ってドアを閉じた。ため息をつく。
人生は、厳しい。
アーシュラ・K・ル=グウィンの「文体の舵をとれ」をもとに、ショートショートの文体練習をしています。
今日の課題は要するに、「苦手な人」です。
申し訳ないことに実在のモデルがおりまして
以前、お子さんの誕生日に何を買ったらいいか聞かれたことがあり
ボードゲームをいくつかおすすめしたら
「喜んだよ!」
という報告をいただいた数日後
「パパだけ遊ぶの禁止になった」
と言い出しました。こういうことだと思います。
……こういうとこだぞ。
「恐れを知らぬ波乗りねこ」
for Steering the Craft
introduction
エッセイ ガラスの浮き球
1−①ー1 名古屋の化け猫
1−①ー2 この場所
2−② 18時
3ー③−1壁の向こう
3−③ー2 時間切れ
3−③ー追加1 大須の化け猫(名古屋の化け猫、方言抜き)
4ー④−1 走って走って
4ー④ー2 蟻の母
5ー⑤ 深夜のキャンプ
8ー⑧盗人たち
9−⑨忘れても