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ショートショート 深夜のキャンプ

 夜中に目が覚める。毛布を被り直す。他人の身体のように冷えている。小腹も空いていた。暗闇を眺めるが、眠れそうにない。

 毛布を跳ね除ける。起きて、台所に向かう。棚の紅茶の袋を手に取って、冷蔵庫の牛乳を探す。
 ミルクパンに水を4分の1入れる。火にかける。最初は強火。泡が吹いてきたら弱火。茶葉を落とす。湯の中で葉っぱが踊って胡桃のような香りが立つ。
 牛乳を入れると渦を巻作って象牙色に変わる。表面が揺れるまで温めて、茶漉しでこしながらサーバーに移す。

 一口飲むと胃に染み渡る。目が冴えてしまいそうで、部屋の明かりはつけない。ソファの前にテーブルをもってきて、テーブルの上にミルクティーとスマートフォンとランタンを置く。キャンプみたいだと思う。ソロキャンプだ。もう一口紅茶を飲む。

 川の流れや、草いきれや、テントに忍び込む虫のことを考える。聞こえるコオロギの音は本物だ。犬が遠くで吠えている。

 音楽でも聞こうかと手にとったスマートフォンをみて思い出す。最近見るのを忘れていたLINEを開く。高校の友人の着信がある。夏にもらった手紙の返事が書けずじまいになっていた。

 お礼と、近況と、お詫びと、猫のスタンプを送る。
 ポンと音がして、ネズミのスタンプが返ってきた。
 起きていたらしい。

 「おやすみなさい」と打ってスマートフォンを閉じる。キャンプがソロではなくなった。
 残りの紅茶に口をつける。歯に染みるほど冷めていた。

 ランタンを持ってソファから立ち上がり、身体が冷えないうちに布団に潜り込む。明かりを消した。
 友達の顔を思い浮かべる。
 今度は、眠れる気がした。

ショートショートNo.474

課題「文体の舵をとれ」第5章⑤

「恐れを知らぬ波乗りねこ」
for Steering the Craft

introduction
エッセイ ガラスの浮き球

1−①ー1 名古屋の化け猫
1−①ー2 この場所
2−② 18時
3ー③−1壁の向こう
3−③ー2 時間切れ
3−③ー追加1 大須の化け猫(名古屋の化け猫、方言抜き)
4ー④−1 走って走って
4ー④ー2 蟻の母
5ー⑤ 深夜のキャンプ

※アーシュラ・K・ル=グウィンの「文体の舵をとれ」をもとに、ショートショートの文体練習をしています。※アーシュラ・K・ル=グウィンの「文体の舵をとれ」をもとに、ショートショートの文体練習をしています。