![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/53381979/rectangle_large_type_2_1f7c10476b34af7ab5d7dd8b4d8d9af9.jpg?width=1200)
生き物を養うこと
チョウザメの担当に配属された僕は会社の朝礼が終わると毎日池に行き餌やり、掃除、水源の確認をしてそのほかの仕事へ向かうというスケジュールになりました
この担当になって分かったのは休みが取れないということです
たとえ日曜日でも祝日でも休みがないんです
この時僕はハメたな!と思いました。建設業が嫌い、一次産業も嫌い、田舎も嫌い、毎日遊んでたい。そんな僕が毎日朝は魚の世話をしないといけなくなったんです
つまり他所に遊びにもいけなければ飲んで朝帰るなんてのもできなくなったんです。遊び歩いて働かなかった僕を見かねて遊びにいけない部署につけやがったな、そう思いました。
そして養殖担当になって2ヶ月が経とうとした頃、1日2日餌食べなくても魚は死なないし大丈夫だろうと泊まりで飲みに出かけたんです
そんな時ほど何か起こるんですね。
60日の中のたった1日、ほんと1日だけ休んだ日にゲリラ豪雨が椎葉村を直撃しました。天気予報でも大雨が降るなんて予告はない。さっきまではいい天気だったのにほんとに急に土砂降りの雨が一晩降ったんです
僕は大雨が降っても1日だし大丈夫だろう
そうたかを括って気持ちよく酔っ払って翌日の昼まで寝ていました。
すると朝ものすごい量の着信が社長からきており折り返したところ
「お前何してんだ!魚全部死んどるぞ」
と怒鳴られ、そんなはずないでしょ・・・と現実なのか夢なのかもわからない中椎葉に帰り池に行きました
そこには大量の裏返ったチョウザメたちがエラも動かさずに浮いていました。
ゲリラ豪雨によって増水した川の水は取水口のホースを流し池への水を止めてしまっていました
たった一晩です
これを8年育てるのにこんな日がまたたった一晩でもあれば全てが無駄になるそんな商売やってられるか。
僕は絶望を感じながら「チョウザメの養殖もうやめよう」と・・・
そして翌日死んだ魚を水から引き上げたところ全滅ではなく2割程度生きている魚がいることに気づきました。
こいつらがいる間は僕はチョウザメの養殖はやめれない、全部殺して全滅したって報告してこの事業を終わらせよう・・・
そう思って殺そうと1匹を捕まえた時、足が滑ってびしょ濡れになり次第に涙が溢れ出てきて
今日はやめだ、明日殺そう、最後の晩餐に美味しい餌食べな・・・
そう呟いて家に帰りました。
翌日池に行き今日こそは全部殺そう、と捕まえようとしますがなかなか捕まえられず他の仕事があるからまた明日にしよう
次の日も次の日も殺せないまま数ヶ月が経ちました。
そんなある日宮崎県の水産試験場から
「今年の稚魚の池入れは何引きしますか?」
と電話が来ました
僕は咄嗟に2000匹でお願いします
と答え自分でもあれ?もう終わるつもりだったんじゃ・・・まあいいか
と何故かわからないですが注文をしていました。
そして僕はチョウザメを殺すことをやめもう一度キャビア取れるまで頑張っていこうと決心したんです。