中学生の頃の俺へ

よう、中学の頃の俺。元気してるか?
俺は大人になったお前だ。32歳になっても未だに地に足がついてない不安定な人間だ。職業はフリーター。あらゆる面で家族に世話を掛けられてばかり。日常をネットに費やしてばかりの非生産的な奴だ。

そう。お前はいずれそういう人間になる。高校受験の時はロクに勉強しないで偏差値の低い高校を選び、そんな程度の低い学校のために家庭教師を親のコネで雇ってもらって必死に頑張り、進学した先では友達が出来ずに机に突っ伏して気づいたら三年。何となく専門に進むも何も身に付けられず流れるように卒業。そのままズルズルとバイト生活して今は十一年目だ。どうだ?笑えるだろう?

お前が入学式の時に、周りが知らない人間ばかりで気分が悪くなって当時の担任の先生に心配された時の事を今でも俺は覚えている。
お前にとって小学校での日々が長くて余りにも当たり前だったから、中学に慣れるのに時間が掛かったよな。
友達は小学生時代から引き継ぎで、中学になってからは殆ど出来なかった。勉強も頑張ろうとしたけど、初回の中間テストで親に散々怒られたせいで気力が失せたっけな。悲しいよな、自分では精一杯やったつもりだったのに。そのまま低迷して、最終的に赤点一歩手前まで落ち込む。これもよく覚えてるよ。

部活はパソコン部だったな。学則で帰宅部は許されず、とりあえず何かに属してなきゃいけないから現状で一番楽で得意だったのを選んだ。
そこで特に何かする訳でもなく、自分の興味のありそうな事を適当に検索してはサイトに入り浸る毎日だった。その頃に丁度youtubeが出来たから放課後は動画ばっかり見てた。アップロードされた深夜アニメ見まくって影響されまくってオタクになったんだよな。
楽しくはあったが、運動部や吹奏楽部で頑張ってる友達と比べると何だか達成感のない、微温湯のような日々だった。

実は気になってる女の子が何人か居たのも知ってるぜ。
今でも自分には恋愛に縁がないと思っているが、その時に好意らしきものを抱いていた子達の事を忘れちゃいない。お前には珍しく勇気を出して何回か気の引くような行動を取ってみたけど、まるで相手にされなかったな。とても悲しいな。
けど、こっちの言動を微笑ましそうに見ていた彼女達の笑った顔だけは記憶に残ってる。あれは良い思い出だ。

体育の授業や運動会の事は悪いが俺も記憶の彼方だ。なにせ大の苦手だったものでな。
ただ、集団演技を全力で頑張った事だけは覚えている。いつもは厳しい一点だった体育の先生が、演技を無事に終えたその時だけは涙を流して喜んでいたのも印象に残ってる。
グラウンド五周走りでは常に周回遅れ、シャトルランでは二桁も行けずにギブアップ、マラソン大会では出番は距離の短い序盤のみだったな。本当に運動音痴だった。

修学旅行では人付き合いが下手なくせに何故か自分が部屋の班長にさせられて貧乏くじを引いた気分だったな。
それだけならまだ良かったが、同室になった奴がとにかく最悪だった。観光から帰ってきた自分に向かって何故か知らんがイチャモンを付けてきた上に「お前、なんか臭えからもう一回風呂に入ってこい」とか言ってきて土産屋で買った木刀を片手に脅してきやがった。
あれは怖かったな。生きた心地がしなかった。もうアイツの名前は覚えてないが、こっちを馬鹿にするような目で薄ら笑いを浮かべてたあの顔は一生忘れん。絶対許さん。
まあ、残念ながら向こうはもう忘れてるだろうが、世の中ああいうヤバい奴はいるんだなって事で勉強にはなっただろ。

色々あったな。お前のこれからの人生も色々あるぞ。
お前はどうしようもない奴だ。何かあると直ぐに塞ぎ込むし、何事も拗ねた目線で見て一度も全力でやろうとしなかった。困難に出会ったら見て見ぬフリするし、少し躓いただけで努力する事から背を向ける。もしかしたら友達になれた奴もいたのに全部スルーした。女の子に声を掛けるのも無理だった。我ながら情けなさすぎて涙が出そうになるな。っていうか思い出す内に少し泣けてきたわ。
人間、嫌な事は本当に記憶に残るんだな……。

なあ、俺よ。まだ先の事は何も分からなかった俺よ。
忠告だけはしておく。お前、やっぱり勉強しろ。学校の勉強じゃない。人生の勉強だ。
学ぶ事は沢山あるぞ。自分が生きる意味はあるのか、本当は何に興味があるのか、どんな奴に出会いたいか、理解者が欲しいか、可愛い女の子と付き合いたいか、自分の強みは何か、どんな場所に行ってみたいか、数えればキリが無いくらいだ。

そういえば、お前は苦手な事ばかりだったけど、歴史の授業だけは何故か大好きだったな。教科書や資料集をパラパラと捲って適当にページを開いているだけでも飽きなかった。ワクワクした。不思議だよな。
今思うと、あれは何かの手掛かりだったように思う。自分の興味関心を目覚めさせるための源泉だった気がする。
それを深く掘り下げろ。きっと自分のやりたい事がそこにある筈だ。図書室に通い詰めて片っ端から本を読め。ネットで調べて情報を集めろ。きっと今からでも出来る事はちゃんとある。そう、確信してる。

何故なら、大人になった今の俺は歴史関連を人生の仕事にしてみたいと思ってるんだ。
ごめん。ちょっと嘘ついた。仕事とまでは行かないが、やりたい事のリストには入ってる。まだ具体的な事は何も言えないが、もしかしたら一生を掛けて追い求められる物かもしれない。凄いだろ?あの、人生に何も希望を見出せなかった俺が、だぜ?

だから、諦めるな。俯くな。
お前にはまだ可能性があるんだ。自分からそれを閉ざそうとするな。周りに流されるな。どんなに見えづらくても、お前だけの道はちゃんと用意されてるんだ。
それを自覚して、今すぐに走り始めろ。そして、これまで見向きもしなかったものにも手を伸ばせ。そこに思いもしないものが転がってるかもしれないから。

我が人生に幸あれ。
今だから言えるが、何だかんだ、あの日々はそれなりに楽しいものだったよ。

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