ヘチマ・つらつら考える。
◆平成31年3月に性犯罪に関する無罪判決が立て続けに4件下されました◆それらがネット上で大きな話題となり、遂には判決やこれを下した裁判官を批判・非難するスタンディングという行動にまで発展しました◆短い新聞記事だけに基づいてなされた議論は、多くの問題を含み、結果として、ツイッター上で発言する弁護士たちと一般の方々との間にも深い亀裂を生むこととなりました◆判決や裁判官を批判・非難するツイートの中には、まったく賛成できないものも数多く含まれていた一方で、社会に実在する性被害の現実に対しては、何らかの立法的な対応が必要なのではないか、と感じられました◆ここに集められた一連の論考は、法律に素人の一般の方にも解りやすいよう,犯罪に関する基礎知識を解説しながら、新聞記事を手掛かりに一連の無罪判決について検討するとともに、新たな立法的解決の道を、私なりに提案するものです。
1/現代人が優れているワケではない田中泰延氏の「読みたいことを、書けばいい。」という本を読んでいたら、「巨人の肩に乗る」という言葉が引用されていた。12世紀のフランスの哲学者・ベルナールの言葉だそうで、アイザック・ニュートンが1676年にロバート・フックに宛てた書簡で、ベルナールの言葉を引用したことで有名になった、のだそうだ。 わたしがかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです。 と書かれていたそうだ(もちろん英語だろうが)。 つまり、
「夏休み」というモノがない1年を生き始めてからもう30年以上も経つというのに、8月の終わりになると思うのは 「ああ、もう夏休みも終わりか……」 ということである。 これは、きっと、自分がいま感じていることではなく、自分がかつてこの時期に感じた感慨を思い出しているのだろう。 この時、私が思い出す「夏休み」は、小・中・高のどれかの夏休み、主には小か、中で、大学の「夏休み」は含まれていない。 大学の夏休みは、7月20日に始まるわけでもなく、8月31日に終わるわけでもなく、
7年ほど前から、毎年の夏に、日本と韓国の法律家で小さな学会を開いている。開催場所は、日本と韓国で1年交替。今年は、日本での開催の年だった。 とは言え、このところ、日韓の関係はよくない。そこで、今年の開催は見合わせようか、という話もあったようだが、「いや、こんな時期だからこそ、むしろお互いの友情を確かめ合うべきだ」という考えから、開催された。 参加者の中には、日本語・韓国語に通じる者もいるが、少ない。そうすると、学会後の懇親会の席で何語で話すのか、というと「英語」なのである
1/はじめにこの夏「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」が、「平和の少女像」の展示などで炎上し、電凸や脅迫などを受け、閉鎖に追い込まれるという出来事があった。 この件に関しては、ツイッター上でも、多くの人が「表現の自由」の観点から、あれや、これや、と発言しているのが散見される。 「表現の自由」という言葉も、「民主主義」と並んで、みんなが好んで使う言葉だと思う。しかも、これまた「民主主義」と同様に「表現の自由」についても、みんな、それぞれにそれぞれの「思い」が
・その言い訳は真実なのか?主として「おっさん」が酒の席などで、暴力沙汰やら、セクハラやら、あるいは、ご自身の立派なイチモツをご披露したとか、何らかの不祥事を起こしたとき、その後一夜明けて 「酒に酔っていたのでよく憶えていない」 という言い訳をすることは、世上よく聞くところであろう。 仮に、身近でそんな場面を直接見聞きしたことはなくても、ニュース報道などで当の人物がそういう言い訳をしている場面を見たり聞いたりしたことは、だれにでもあるはずだ。 私は、若いころ(概ね20~
・2020年4月からの喫煙規制「来年(2020年)4月からバーでもタバコを吸うことができなくなるみたいなんですよ」 「え? 嘘だろ? なんでバーでタバコが吸えないの?」 「少なくとも従業員を雇っているとダメみたいです。うちは、いまはひとりでやってるんで一応大丈夫みたいなんですけど」 「そうなんだ……」 先日、行きつけのバーでのマスターとの会話である。 その後、ネットで調べてみると、これは2018年6月に成立した東京都の受動喫煙防止条例によるもののようだ。そしてその規
◆21世紀の結婚制度はどうあるべきなのか?選択的夫婦別姓、同性婚など、結婚制度の在り方に対する議論が、このところよく語られる。もっとも、夫婦別姓の議論は、随分昔からあるものの、一向に実現されないという感じもする。だが、同性婚については、少なくとも30年くらい前にはまったく議論されなかった話題なのではないか? 世の中の「常識」などというものは、常に移り変わるものだろう。夫婦、家庭、結婚という私たちの最も基本的で身近な営みついても例外ではないと思う。 そこで、選択的夫婦別姓と
日本人の国民的気質日本人の国民的気質は何だと問われれば、やはり「やさしさ」だろう、と私は思う。私が外国人事件を取り扱うようになったのは15年ほど前だが、その頃、お客さんは、よく私に言った。 「日本人はやさしい。でも、入管はひどい」と。 当時も、もちろんすでにバブル経済は崩壊し、そこから10年は経過していたが、それでも中国その他のアジア諸国よりは日本のほうがまだ豊かで、日本に来て働きたいというアジア人は多かった。 当時の私のお客さんは、そういう人たちだったが、みな、ビザに
1 静岡地裁浜松支部平成31年3月19日の無罪判決を読んで静岡地裁浜松支部が平成31年3月19日に下した無罪判決については、ここでもすでに「第6」で取り上げた。その時点では、新聞の記事しか情報がなく、これに基づいて検討を加えたが、4つの無罪判決の中でも、記事からは最も事案の様子が想像できないものだった。 問題となっていたのは「強制性交致傷罪」だったようだが、性交自体が既遂だったのか未遂だったのかも、記事からはよく判らない。それ以前に、被告人と被害者とはどんな関係だったのか、
1 名古屋地裁岡崎支部平成31年3月26日判決平成31年(2019年)3月に立て続けに下された性犯罪についての4つの無罪判決のうち3つについては、すでに検討を加えた。最後に取り上げたいのは、名古屋地裁岡崎支部で平成31年3月26日に下された無罪判決である。 この判決は、時期的に見ると4つのうちでは3番目に下されたものである。ただ、報道されたのは4月5日であり、最後だった。 この判決については、その後、民間の判例データベースの一部ではすでに収録され、全文を読むことができるよ
1 はじめにそろそろ名古屋地裁岡崎支部の無罪判決について検討しようと思っていたのだが、このところツイッター上で「不同意性交等の罪」についての議論がいきなり賑やかである。ちょうど前回の末尾でも「不同意性交等の罪」については少し触れたところであり、この機会に検討しておきたいと思い、急遽このテーマで書くことにした。 以前にも触れたように、最近「不同意性交等の罪」を創設すべきではないか、という提案がある。そして、これに対しては、もちろん反対意見もある。 私自身はと言うと、全面的に
1 福岡地裁久留米支部平成31年3月12日判決今回は、福岡地裁久留米支部が平成31年3月12日に下した無罪判決を取り上げたい。この判決は、平成31年3月に立て続けに出された4つの無罪判決のうち、一番時期が早いものだ。 しかも、最初に報道された毎日新聞の記事は、短く、どんな状況で起こった事件なのかということについて、おそらく多くの人が誤解した。そういうこともあって、読んだ人々はその無罪という結果に大きな衝撃を受け、その衝撃は「こんな判決がまかり通るのか!」まどというこの判決を
1 静岡地裁浜松支部平成31年3月19日判決今回取り上げたいのは、平成31年3月19日に静岡地裁浜松支部で下された無罪判決だ。起訴された犯罪が「強制性交致傷罪」だったこともあり、裁判員裁判での判決だった。 この判決についての報道は、判決のあった日の翌日(3月20日)に産経新聞、中日新聞、静岡新聞でなされた。先に述べておくが、さすが地元ということもあり、静岡新聞の記事が、時間的にも早く、内容も詳しい。産経と中日の記事は、共同通信の取材に基づいたもののようだ。 まずは、各記事
1 強制性交等の罪(後段)の構成要件では、いよいよ強制性交等の罪の構成要件について分析してみよう。まず、再度、条文を確認しておこう。 第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。 同条は、いくつかの構成要件を1つの条文で規定しており、まず、前段と後段で異なる。後段の罪の方が暴行・脅迫要件がなく単純なの