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『廃用身』 久坂部羊

老人デイケアに勤める医師による実話
を模したフィクションです。

「麻痺した手足を切断する治療」という設定で、
患者さんとご家族、デイケアのメンバー、マスコミの反応など非常に丹念に描かれています。

タイトルの「廃用身」とは、脳梗塞などで麻痺し、リハビリをしても回復が見込まれない、動かない手足のことです(wikiより)


医療制度

治療として手足の切断が行われることはあります。
悪性腫瘍に冒されたり、凍傷や糖尿病で壊死したり、事故で粉砕された場合などです。それらは切断しなければ生命の危険があったり、さらには壊死が広がる危険がある場合です。

単に麻痺しているというだけでは、切断の対象になりません。

p55

麻痺した手足は以下のような状態になるらしいのですが
病名がない限り、今も切断は不可みたいです。

・不随意な動き
健常なほう手で作業をしているとき、急に麻痺したほうの手が勝手に動くことがある。そのたびに作業が中断してしまうため、患者本人にとってストレスとなる。

・体重がかかる臀部などの床ずれが治らない
・不快感(しびれ、痛み、冷え)

小説内では
「多発性骨髄炎(有害無益の四肢であるため)」
という名目でレセプト請求されていました。


一九七〇年代から急増した老人病院は、いわゆる「ベッド縛り」「点滴漬け」「検査漬け」の三点セットで、暴利をむさぼりました。ところが八二年に「老人保健法」が制定され、定額制に移行するや、毎日のように行われていた点滴がぴたりとやんだのです。
このように現場は制度で百八十度変わります。

p207


"お年寄り"

 わたしたちのクリニックには若い女性の理学療法士が二人いますが、常に理想と現実のギャップに悩んでいます。彼女たちが考える目的と、お年寄りの目指す目標に天と地ほどの開きがあるからです。

現実のリハビリは、関節を柔らかくするとか、車椅子に座る筋力をつけることなどですが、お年寄りの目標は、ひとりで歩くことであったり、元通りの元気な身体にもどることなのです。

p14

「生きとってもしょうがない」
「頭打って、そのまま死ねたら楽やけど」
「わたしが死んでもだれもこまれへん」
「朝起きて、死ぬんどったらどんなにええやろ」
「早うお迎えが来んかいな」

 お年寄りの死への憧れは募るばかりです。若いわたしたちには、老いの実感がわかりません。お年寄りは心から「お迎え」を待っているようなのです。

p32

・家族からの虐待

介護関係の本を読んでいると、「虚弱老人」という言葉を目にします。
常に介護を必要とするわけではないが、なんらかの支援が必要なお年寄りのことです。この虚弱老人が虐待の被害者になりやすい

p40

乱暴、排泄

・本人の問題行動が多いケースでは、寝たきりになったほうが介護する側はラクである。

大便を髪になすりつけられたり、顔に唾をかけられたり、爪を口に突っ込まれたり、その苦労は並大抵ではありません。
食事のときはみそ汁にご飯もおかずも混ぜて、それを食べては吐き、吐いてはぐちゃぐちゃかき混ぜる。それにずっと付き添うのも彼女なのです。彼女以外の職員では、きくゑさんがもっと荒れるからです。

p111

オシメをかえたとたんに放尿するなどは序の口で、入浴中に湯船にモノを浮遊させる人、身体を洗っているあいだにシャワーチェアの下に盛り上げる人(暖まるとどうも肛門がゆるむようです)、なんか臭いなと思うと、ポケットにいっぱい詰め込んでいる人、オシメをはずしたとたんに派手な屁シブキを飛ばす人、にゅるにゅるウンコを床にこぼし、職員が這いつくばって拭いていると、その上からシャーッとオシッコを降り注ぐ人……

p51

(かなり憶測ですが)老人に限らず赤ちゃんも含めて
「体を触ってもらいたいから」という理由で、無意識に粗相する場面もあるのではないかと思います。不安の強弱も関係ありそう。


介護がないとどうなるか

・持ち家であるため、生活保護を受けられなかった人。

Oさん(79)のお宅に往診したとき、わたしは思わず顔を覆いました。部屋に入るなり強烈な悪臭に包まれたからです。
万年床の周囲には、いつからそこにあるのか知れないゴミや汚物が散乱し、ドロドロに溶けたうどんに真っ黒なカビが生えていました。Oさんはふとんからはみ出して横たわり、髭は伸び放題、髪は飴で固めたようになり、目は目やにで開かず、首には皮膚病が広がり、体は骨と皮の状態です。

介護からあぶれた人は、食事もとれず、着替えもできず、糞尿は垂れ流し、ふとんも畳も腐り、悪臭と不潔の中に放置されることになります。

p213-214

近所に住んでいる一人暮らしのお年寄りが、見かけるたびに少しずつホームレスのような風貌になっていたり、身近なところでリアリティがあったので自分も晩年はこんな感じかもと思いながら読みました。

歩けなくなったら食料買いに行けないし、1〜2ヶ月で餓死すると思うのですが、、どうなんでしょうね。


おわりに

著者の久坂部羊さんは、フィクションもかなりの本数が刊行されているほか現代ビジネスでも記事を書かれているようです。

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