拡散する悪意がもたらした硬質なカオスとトリップ感「シルバー事件25区」correctness編
昨今どころかずっとだが、インターネットレスバトルだのスカム陰謀論だのが繰り広げられてるタイムラインを見ると「シルバー事件」とか「メタルギアソリッド2」とか、あとは「デスストランディング」のことが思い浮かび、そっとスマホを閉じている。
インターネットに巡って回る憎悪が現実にも影響を滲み出させているのは、正直恐ろしいと思う。
そんなことがテーマの一つだった「シルバー事件」の続編である
「シルバー事件25区」をプレイしたので、その話がしたい。
「シルバー事件25区」はかつてガラケー用アプリゲームとしてリリースされ、リマスターである「シルバー2425」に収録されている。
時系列としては「シルバー事件」の後の出来事となっており、
メインとも言える「Correctness」
その対立組織から見た「matchmaker」
お馴染みモリシマトキオによる解答編になってない解答編「Placebo」
以上、3つのエピソードによって構成されている。
ウエハラカムイによる事件が世間的にそして表面的には終息したことになっており、信頼の出来ない語り手によって多くの謎を残したまま、一旦の幕引きをされた後の物語ということになる。
モリシマを始めとした「シルバー事件」から続投しているキャラクターもいて、すわ、「シルバー事件」の謎も色々解き明かされるのかと思いきや、
そういうものは全部、投げっぱなしジャーマンで明後日の方にぶん投げてるのがこのゲームを作った須田剛一という男だ。
しかも、そのぶん投げ方が見てて面白いのだから、なおタチが悪い。
こんなふうに書かれれば、良質なクライムサスペンスかミステリーとして面白そうと思えるが、須田剛一のゲームがそんな素直に「面白い」とは思わせてくれるはずもなく、間違いなく「怪作」と言えるゲームだった。
殺戮GIG開始
今回は「Correctness」編について。
前作「シルバー事件」と最も直接的な続編とも言える話運びや続投キャラもいて、「25区」の最も芯と言えるエピソードだ。
前述したタワーマンションでの変死事件に25区の凶悪犯罪課(以下凶犯課)の刑事シロヤブと上司にあたるクロヤナギ、そして主人公のウエハラが捜査に乗り出すところから物語は始まる。
ストーリーの語り出しからして、このトップギア具合である。「こんなの凶犯課じゃ日常茶飯事だぜ」的なノリだ。実際、日常茶飯事なんだけど。
前作をプレイした人間は既に体験済みだと思うけど、とにかく人を食ったというか小馬鹿にしているというか、不条理とも言える展開の連続だが、「25区」ではその前作を軽く飛び越えてくるほどのやりたい放題っぷりだ。
ぶっ飛んだ展開もそうだが、キレた登場人物たちのキレッキレのセリフ回しも魅力的だ。受け付けられない人にはとことん無理だと思うが、ハマる人にはとにかくハマる。須田剛一節とでも言うべきだろうか。
それにしてもこの須田剛一節というのが、前作よりもかなり度数強めになっており、後述する展開の破茶滅茶さもあって素面でトリップさせられるような強烈な酩酊感さえ覚える。
かなり臭みやクセの強い代物で嗜好さえ合えばハマるのだけれども、受け付けられない人にとってはとにかく拒絶感が酷いだろう。
俺は大好きだけどね。
「殺戮ギグ」なんてワード、素面じゃ出てこないって。
異常な都市の住人たち
都市がイカれているならば、そこに住む間もイカれているわけで。イカれた人間を相手にする刑事たちもまたイカれてなければやっていけない。そんな「Correctness」編のキレた登場人物たちがこちら。
左上の白髪の男が前述した「シロヤブ・モクタロウ」
「Correctness」全体を通じてほぼ主役とも言える男だ。同僚達からはなぜか「ジャブロー」と呼ばれては上司にガンダムネタを擦られながらパワハラされてる。「シロヤブ」だから「ジャブロー」って無理がある。須田剛一がガンダム好きなだけじゃねえか。
刑事だということもあるけど、あんまりな巻き込まれ体質持ち。とはいえ凶犯課の刑事としての実力や凄味も持ち合わせており、基本的にはやる時はやる男だ。
あとなんか唐突にハゲる。ほんとなんで?
次にこちらがジャブローの直属の上司である「クロヤナギ シンコ」
ジャブローへのパワハラの主犯でもある。
とにかくこの女、言動の全てが常識では測れないというか、何を考えてるのかわからない。型破りというか、端的に言うと倫理観というものが金星あたりまでかっ飛んでる。前述したように、隙あらばガンダムネタでシロヤブにパワハラをしかけてくし、何なら職務時間中にエステにしけ込む。
とはいえ、刑事としてはかなり優秀なようでシロヤブをぐいぐい引っ張っていくバイタリティがある。
最後に一番真ん中の黒尽くめが主人公ウエハラとなる。一応とはいえ主人公とされているが、主人公っぽいことはほとんどせず、むしろ物語を観測するプレイヤー視点のカメラ役に近い。ただし、最終盤を除いて。
というか、名前が「ウエハラ」って時点で確信犯でしょ。
また時系列無視してメタい北野武映画ネタを擦る同じ凶犯課の「アカマ」と「アオヤマ」。そして課長の「ハトバ」によって、前作にも負けず劣らずの愉快な仲間たちが揃うことになる。
彼らの他にもスナッフフィルムを収集してる検視官だの、機密資料である操作書類をバイク便で運んでいる女子高生だの、胸焼けがしそうなメンツだ。
そして「correctness」編で忘れてはならないのが、対立組織である「郵事連」の存在だ。
郵事連はその名の通り25区内の郵便事業を担っている組織だが、その裏では25区の住人を監視・管理している。その役割から凶犯課とは縄張り争いが絶えず、物語中でもジャブローと衝突を繰り返していく。
「25区」はほとんど独立国家の様相を呈しており、郵事連が実質的に実権を握っている。「監視・管理」と前述したが、実際のところは「25区」の秩序を乱す人間を「調整」という体で殺害・処分している有様だ。
「配達屋」と呼ばれる現場要員によって問題のある住人が処分されているのだが、その理由も「不在届がなかった」「配達が遅かった」とクレームを出した人間、さらには住民間でのゴミ出しトラブルなどといった、「たかがそんなことで?」というような理由で「問題有り」とした住人を殺戮して回っている。
その上不気味なことに、「25区」の住民たちは管理・調整の下にちょっとしたことで公僕による殺人が行われているのに、特に気にした様子も無く、日々の生活を送っている。明らかに郵事連による殺人が行われていることを公然となっているにも拘わらずだ。
それにしてもどうして郵便事業が監視社会を構築するまでに至ったのか。奇しくもオリジナルのアプリ版の「シルバー事件25区」がリリースされた時期は郵政民営化が行われた直後なのだが、どうしてそんな郵便事業をディストピア社会を構築する存在に仕立て上げたのかも、いまいち理解できない。
個人情報を取り扱い、そこに住む人々を見て回るから郵便事業を監視役に据えたのだろうか。それにしても突飛だなと思うので、単に郵政民営化にインスパイアされたものと考えるのが自然かもしれない。
ただこの郵事連も郵事連でそこで働く人間たちにも事情や哀愁を抱えていたり、「カムイ」の存在があることが「Match maker」編で語られている。
閉じた世界の終わらない異常な日々
タワマンで発見された変死体から事件は思いも寄らない形で「カムイ」へとつながっていく。無論、この25区における「カムイ」もまた、前作同様にその定義が曖昧としている。このあたりは前作をプレイしたプレイヤーにとっては慣れたものだ。ほんと何がどうなってんだ、いい加減にしろ須田剛一。
都市が「カムイ」を生み出すのか、「カムイ」によって異常な都市が生まれるのか、そもそも正常と異常の境界線とはどこにあるのか。
次々と繰り出される突飛な展開、整合性の取れていなかったり意味不明だったりする登場人物たちの証言とで、この「25区」の物語と詳細と全貌を掴むのはかなり難しい。
前作同様、登場人物たちは皆「信頼のできない語り手」であり、本当のことを言ってるようでもそれは「その人物の主観による真実」であり決して事実とイコールとはならない。
そもそもの時点で、プレイヤーが目にする次々と発生する不可解な事件でさえも、事実ではなく真実の一つに過ぎないとも言える。
「何がどうなってんの?」という描写や展開を登場人物たちはすんなりと受け入れていることが多い。果たして狂っているのはプレイヤーなのか、それとも「25区」なのか。
そんなカオスがユニークすぎる登場人物と語り口、そしておおよそシラフで考えたとは絶対に思えない演出によって矢継ぎ早に展開されていくので、なんだか変にトリップしていくような感覚を覚えてしまう。理屈じゃねえんだ。考えるな感じろ。
凶犯課と郵事連の対立は「日常を殺す者」と「日常を生かす者」の対立とも言える。そしてこの両者どちらに対しても、「カムイ」の影響のようなものが存在している。
林立するタワマンで頻発する奇怪な犯罪、その「真実」を追う凶犯課、その凶犯課と対立する郵事連、不気味なほどにこの異常を「日常」としている「25区」の住人たち。
明らかに異常な都市である「25区」だが、それは「25区」そのものがそうあれかしと生み出されたものなのか、それとも「カムイ」によって「25区」という都市は異常と化したのか。
都市は最初から異常だったのか。あるいは「カムイ」というトリガーによって異常となったのか。いや、トリガーは「カムイ」とは違う別の要素か。
前述したが、はっきり言ってこの「correctness」の物語の全貌と詳細を全て理解することはかなり難しい。なぜならプレイヤーが目にしているのは、「数多ある真実の一つの側面」でしかないのだから。
少なくともこの物語の中で一つ言えることは、この「25区」では人々が正常を目指すほどに人々自身も状況も、そして都市そのものも異常へと転げ落ちていく、ということだ。
そして、この「真実」を「観測」しているプレイヤーの「25区」における正常と異常の境界線を問うてくる。
その異常な日々を終わらせられるのは、文字通りプレイヤーである自分自身の手だった。しかもメタ的な手法で。
それは全てのエピソードを終えてから解禁される「black out」をお楽しみに