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天の尾《アマノオ》 第6話 ――『草獣少女』VS『凪和人』――#2
★★★
「昼間に聞いたこの世界特有の戦闘欲求、闘争心。戦いに飢えているのか、ポポラ」
「ごめんね、ナワトお兄ちゃん。そしてありがとう、許可をくれて。騙す形になっちゃったけど、教えてあげる。『決闘』は世界による取り決めだけじゃなく、二者間の合意の上でも行えるんだ。……本当はこんな事したくないけど……。でもボク、今日はまだ誰とも戦えていなくて……」
なのにナワトお兄ちゃんが、よりによって生まれたての火天の鮮赤《センセキ》が、手を伸ばせば届くほど近くに都合よく弱っている状態でいるなんて、ふふ、こんなの我慢できっこないよ。
そう言ってくすくすと笑い、歪に口角を上げる彼女の手には、長槍。
真っ直ぐに伸びた白い木の柄、その先端には、鋭利に尖った緑の宝石が月光の光を反射して美しい。武器と言うよりは装飾品のような美しさを感じるその槍からは少量の赤い液体が付着していた。
俺の血だ。右膝に掠ったのはその槍か。血を見たからか、頭がくらくらする。
「っ……ポポラは槍使いなのか? 似合わないな」
「その通り、似合わないってのはよく言われるけど、これでも結構鍛えてるんだよ? ……これしか能がないとも言えるけどね」
「なあ、素手で戦うくらいならいくらでも付き合うし、後遺症の残らない範囲で暫くサンドバッグになってやる。それで何とか発散できないか?」
「この期に及んでまだ優しいんだね。それとも死ぬのが怖い? 残念だけどナワトお兄ちゃんを殺せばボクは更なる高みに行けるんだ。あは、ボクの成長の糧となって……よっとッ!」
クルリと槍を一回転させ、走り出す。
地面を這うように迫る彼女は小柄な見た目から想像できない程に速い。刺突。夜の冷たい空気を切り裂く穂先が、俺の胴体に吸い込まれるように迫ってくる。的がデカいゆえ、避けるのが難しい箇所だ。
(狙いは正確、突きも速いッ! でも避けられない速度では――)
眼球の前に突然の飛来物。
「ああ……ッ!?」
咄嗟にのけぞった俺の頭上を黒塗りされた2本のナイフが通過していった。
タイミング的に考えて、ポポラが走り出した瞬間に放ったものだろう。
まさか槍の回転に目を奪われた時、夜の闇に紛れる黒色のせいで気づくのが遅れてしまったとでも?
槍しか能がないとは何だったのか。ああ、フェイントか。
思わず後方に跳ぶがこれは――避けられない。
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