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【エッセイ】「勧酒」に寄せて
「勧酒」
于武陵(井伏鱒二訳)
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトへモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
酒を飲む者にとってこの「勧酒」は身に沁みる。人生が行き交う酒の席。下戸の人はこの席に同席しているだけでいい。無理に飲む必要はない。要は互いの人生を語り合えればいい。これは各々の信念に関わるところ。そこへ「コノサカヅキヲ受ケテクレ」と自分の好意を示す。「ドウゾナミナミツガシテオクレ」。思い余ってのことだ。表情こそ変えないが、その手酌に相手への並々ならぬ想いがあふれている。相手との濃い付き合いが見えてくる。「ハナニアラシノタトエモアルゾ」。生きていると順調なときばかりではない。逆境に吹きさらされることもある。お前は耐えられるのか。何かあるなら、俺に言ってくれ。「「サヨナラ」ダケガ人生ダ」。人は皆いつか死ぬ。それは変えられない。ならば、自分のできることで生き抜こうじゃないか。限られた人生、精一杯やればいい。こうして共に飲めるのも一期一会だ。この夜は格別だ。こんな席は二度とないと思え。なあ、もう一杯、どうだ。