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僕の服を捨ててくれた【彼女】へ

社会人3年目。彼女が出来た。
友達の紹介だった。

革ジャンをかっこよく着こなし
当時流行ったばかりの小さなバッグをもっていて
ショートカットだが、インナーを刈り上げた髪型に、大きなイヤリングをしていた。

初見は怖かった…。正直、タイプではなかったのかもしれない…。
でも、一番長く付き合った。


彼女の仕事は【ファッションデザイナー】だった。
休みのデートは、毎回おしゃれをして、どこかに出かける。
そして、帰りには必ずアパレルショップを巡って、流行を眺めながら帰った。

始めはそんなデートなんて面白くも何ともなかった。
デートに行く服を選ぶのすら憂鬱だった。
服やファッションなんて興味がなかったから。


付き合って1ヵ月半
突如、服を捨てられた。

サイズの合わない大きなTシャツ
当時は時代遅れだった、ダボダボのデニム
大きなロゴの入ったブルゾン


「まだ着れるじゃん!」と嘆いたのを覚えている。
そんな僕に、彼女が言い放った一言を、僕は一生忘れない。


『あなたは、体形の無駄遣いをしている。服が泣いてる。』

最初は意味が分からなかった。
お金とか、食材とかに使うべき言葉だと思っていた【無駄遣い】の言葉を、まさか、自分の体形にぶつけられるとは…。

そして唐突に右手を突き出し、

「10000円」

「え?」

「10000円!」

「…?」

急なカツアゲに、僕の頭の中は「?」で埋め尽くされた。
彼女が怖かったので黙って10000円を用意した。

「10000円で5コーデ作ってあげる。出かけるよ!」


そう言って、捨てられる服の中で比較的まともな服を見繕って僕に着させて、そのまま、近くにある
『赤い背景に白い文字』『青い背景に黄色文字』のファストファッション
のお店に駆け込んだ。


そこからは流れ作業だったのを覚えている。
「あ、着せ替え人形ってこんな気分なんだろうな」という、怒涛の試着タイムを過ごし、服をチョイス。


あっと言う間。
彼女は用意した10000円分で【僕の体形に合った服】を用意した。

・パンツが2本
・シャツが2着
・Tシャツが3着

これらの組み合わせで出来上がる5コーディネート。
感動にも似たその気分は今でも忘れない。


『体形に合った服を着なさい。せっかくの身体や服が台無しになる。』


この出来事から、僕もファッションの虜になった。

彼女と一緒に流行を追い、ウィンドウショッピングで色について話したり
ファッション雑誌を眺めてコーディネートについて語った。

楽しい。毎日が楽しい。
自分に合った服を見つけて、それを着られれば気分もアガル。
少し嫌な事があっても、忘れられる。

あの時彼女に服を捨てられていなかったら、きっと出会う事のなかったであろう気持ち。そして興味。思考。

残念ながら、彼女とは別れてしまった。
どこで何をしているかは全くわからない。


でも、きっとどこかで、流行を追っていると思う。
もしかしたら、それを作っているかもしれない。


あの時言えなかった感謝を、どこかで言いたいと思っています。
僕を、服好きにしてくれてありがとう。

今では、服を選ぶのが毎日楽しくて仕方がないよ。

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