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シャンソンを歌えるひとになったんだから。

10月23日付の中日新聞の「中日春秋」では、
【双子のタレント「おすぎとピーコ」の兄で、
 ファッション評論家のピーコさんは
 野球があまり好きではない/特に
 長嶋茂雄さんをあがめる人たちが嫌いだという。
 コピーライター糸井重里さんが聞き手になって書かれた
『ピーコ伝』にあった/なのに、野球の試合経過を
 独特の記号で記録するスコアブックは書ける。(以下略)】
と書かれておりまして、そのお話などなどのことが
いろいろ気になってきて、先日、この
『ピーコ伝』(2001年刊行)を図書館で借りて読みました。

中日春秋で紹介されていた野球とスコアブックのこと、
だけでなくって、たとえば、ピーコさんの
ご両親と二人のお姉さんのこと、おすぎさんのこと、
「おすぎとピーコ」のお二人が
どのようにして芸能界へと入られたのか、
などなどのお話、おもしろかったなあ〜。

とくにはね、おすぎさんとピーコさんのことで糸井さんが
【でも、お聞きしているうちに、
 ピーコ=兄、おすぎ=弟、って気がしてきました。
 たしかにおすぎさんの生きかたは
 次男っぽいし、静と動でいうと
「動」ですよね。ぜんぜん違うなあ。】
と伝えると、ピーコさんは
【まったく違うわよ。顔も似てないし。】
とおっしゃったすぐ、糸井さんの
【似てます(笑)】
ということばに対してすかさず、
【あんた、どこに目をつけてんのっ!
 ぜんぜん似てないわよっ!
 まあ向こうも、おんなじこと言うと思うけど(笑)
 世間のひとはなんでまちがうのかしら。
 タクシーに乗るたびに、運転手さんと
「すごいファンです。映画評論の……」
「それはおすぎですっ!」なんてやりとりばっかりしてる。
 もうイヤよね。
 ぜったいに一緒にされたくないわ。】
(『ピーコ伝』日経BP社、113-114頁より)
のところは思わず吹き出してしまったなあー。

そしてまた、
ゲイと差別のこと、病気と左目と義眼のこと、
シャンソンと美輪明宏さんとのこと、さらには
理想の死に方のこと、などなどなどなど。
巻末の「あとがきのかわりに」にて、
【これを読んだ人は、「あ、ハダカでいる!」みたいに
 感じるんじゃないかしら。】
(同著272頁)とのようにおっしゃっていて、
現在42歳のぼくは、ピーコさんについて、
書籍でもお話しされているお昼の
ワイドショー番組の「ファッションチェック」、及び、
「笑っていいとも!」で出演されている印象が強いですが、
「ハダカ」とおっしゃるのも、
わかります、と申しあげますか。
うまくは言えないけれど、
ピーコさん、素敵だなあ、
かっこよいなあ! と存じました。

そのなかでもね、ぼくが
とくに強く想いましたお話は、
「シャンソン」と「美輪明宏さん」とのことで。
以下、少しばかり長い引用になるですが、
今回のブログは、この
引用を申して書き終えたいと存じます。。。

 一九九五年一月十七日夜、わたしは渋谷の老舗「ジァン・ジァン」で、シャンソンのコンサートを開いたの。
 お気づきかと思うけど、阪神大震災があった日だったんです。
 コンサートの朝、テレビをつけたら、ビルがどんどん燃えている映像が目に飛び込んできた。
 呆然としてしまいました。神戸には親しいお友だちがいっぱいいるし、わたし自身も好きな街でしたから。
 電話にかじりついて、あらゆる知り合いに電話をしたけど、だれとも連絡がつかない。一方で、テレビではつぎつぎと悲惨な状況が報道されてる……。
 七百キロ離れた東京で、なにもできないのがくやしくて、不安がいっぱいで、とてもステージに立てるような心理状態ではなかったけど、コンサートを止めるわけにはいかないでしょ。
 神戸のお友だちのことが頭から離れないまま、ステージに立って、まず、『雪が降る』を歌ったんです。
 そうしたら、最初の「雪が降る」という声が出ない。
 なんべん、やり直しても、出てこない。
 歌がうたえない。
 わたし、ステージでぼろぼろ涙を流して、お客さんに謝りました。
「ごめんなさい、今日は覚えてきたものをぜんぶ忘れてしまいました。歌詞を見ながら歌いますけど、許してください」
 すると突然、暗い客席から、
「ざまあみやがれ!」って声が聞こえたの。
 美輪さんだった。
 おわったあとに美輪さんが、
「ざまあみやがれ、って言ったのは、もっとラクに歌えるだろうとおまえが思っていただろうからだよ。でも、おまえ、これもいいんだよ、こういうのもライブっていうんだ。歌なんてそんなに甘いもんじゃない。
 客にあやまることなんてないんだよ。おまえが歌えなかったっていっても、じゅうぶんにライブなんだから。だから気にしなくていい。おまえはいろいろなことを体験してきて、もう、シャンソンを歌えるひとになったんだから」
 そう言ってくださったの。
 すごく楽になりました。

ピーコさん著・糸井重里さん聞き手『ピーコ伝』日経BP社、245-246頁

令和6年11月16日