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ペルソナの作り方

ペルソナとは

本記事で取り上げるペルソナについて、最初にその定義を明確にします。

まず、セグメントとは、市場を分類したグループを指します。そして、そのセグメントの中から自社が狙う特定のグループをターゲットと呼びます。このターゲットを具体化し、詳細に描写するためのツールがペルソナです。

特に大企業では、製品やサービスの開発に関わる部署が多くなりがちです。そのような状況で、例えば、ターゲットユーザーを「20代女性」といった曖昧な粒度で設定していると、各部署の担当者が思い描くユーザー像が異なってしまいます。結果として、誰もが「ユーザーのために良いものを作りたい!」という想いを持っていたとしても、それぞれが異なるユーザー像を基に頑張ることになり、次のような問題が生じます。

  • 誰に向けたものか分からない、ちぐはぐなアイデアがでる

  • 部署間で意思疎通がしにくくなる

  • 各部署が必要と考える機能が積み重なり、仕様がてんこ盛りになる

  • 各担当者の思い込みのユーザー像での評価になってしまう

  • ユーザーが使いにくい製品やサービスが生み出される

ペルソナは、こうした問題を防ぎ、ユーザーにとって本当に価値のある製品やサービスを作るための重要なツールなのです。
※ペルソナには別の使い方もあります。

参考にしたペルソナの作り方

ペルソナにはさまざまな作り方がありますが、私は以下の論文を参考にしています。ただし、ペルソナを作る目的によっては、この方法が適さない場合もあるのでご注意ください。

参考文献
山崎 和彦:「ユーザーセンタード・デザインの展開(3)ペルソナ手法の活用」,日本デザイン学会 研究発表大会概要集,54,pp.88-89,2007.

本記事では、恩師であり、人間中心設計(HCD)/UXデザインの道へと導いてくださった山崎和彦先生の方法をベースに説明します。

ステップ1 ペルソナの属性の抽出

システムキッチンを例にペルソナの作成手順を説明します。システムキッチンのターゲットユーザーと一口に言っても、さまざまなケースがあります。例えば、BtoCの場合、新築を検討している人、リフォームを検討している人などが挙げられます。一方、BtoBの場合、住宅メーカーや建設会社、リフォーム会社などが顧客となります。

ここでは、BtoCを想定したペルソナの作成手順を説明します。

まず、ペルソナの職業や年齢といった属性を考えます。その際に参考になるのが、製品のスペック表です。これは、人間中心設計の観点からは少し外れるかもしれませんが、製品開発でのペルソナ利用を意識するなら、製品のスペックを決める際に役立つペルソナを作ることが重要です。ペルソナが完成しても、「で、これって何に使えるの?」と思われてしまっては、その後のプロセスにつながりません。

属性の抽出例
では、実際に属性を抽出してみましょう。以下のように、ペルソナの特徴を製品仕様と関連づけて考えます。

  1. 収納の種類と容量、作業スペースの広さ

    • 関連する属性:家族構成、部屋の間取り

    • 具体例:共働き夫婦の場合、時短調理がしやすいレイアウトと、効率的な収納が求められる。

  2. コンロの数

    • 関連する属性:家族構成

    • 具体例:大家族なら3口以上のコンロを必要とする可能性が高い。

  3. 収納の高さやバリアフリー設計

    • 関連する属性:身体的特徴(身長や高齢者向け配慮)

    • 具体例:高齢者や車椅子ユーザー向けに手の届きやすい高さが求められる。

  4. 耐久性

    • 関連する属性:利用頻度

    • 具体例:毎日使用する家庭には、耐久性の高い素材やメンテナンスが簡単な仕様が適している。

ここで注意しなければならないのは、ペルソナからすべての仕様が決まるわけではないということです。建築基準法や防火基準などの法規制、省エネ性能などの環境配慮、さらには競合とのスペック比較など、ユーザー視点以外の要素が仕様決定に大きく関わる場合がほとんどです。

ペルソナの役割は、仕様をユーザーの利用状況に合致させること、そして1つか2つのセールスポイントとなる特徴を生み出すことにあります。この特徴を生み出すために特に重要な属性が2つあり、それは役割ゴールです。この2つの属性がなければ、それはペルソナとは呼べないと言ってもよいでしょう。

人間中心設計(HCD)やUXデザインにおけるゴールは、ユーザーに嬉しい体験を提供することです。つまり、ユーザーが役割を果たし、ゴールを達成する過程で、どれだけ嬉しい体験が得られるかが重要になります。

ステップ2 属性のパラメーターの抽出

属性を出し切ったら、属性ごとのパラメーター(取り得る値)を抽出していきます。例えば、家族構成であったら、単身世帯、夫婦のみ、夫婦+子供(小さい子供)、夫婦+子供(中高生)、大家族(親+子供、祖父母)、二世帯住宅、シニア世帯(高齢者のみ)といった感じです。

属性とパラメーター

表が大きくなりすぎると作業が大変になるため、あり得ない値(例:0歳がキッチンを使うことはない)や、分けても意味がない値(例:4LDKと5LDK)は記載しなくて構いません。代表的なものだけを記載すれば十分です。

ステップ3 キャストの作成

ペルソナの候補をキャストと呼びます。出演者のようなものですね。このキャストの中から主人公(ペルソナ)を選ぶことになります。ここでは、キャストの作成方法を説明します。

まず、属性の中からキーとなるものを選びます。これは、製品群を考えた際に「この属性ごとに異なる製品を提供する必要がある」と判断されるものです。ここでは、キー属性として家族構成を選んでみましょう。

例えば、「夫婦+幼児」というパラメーターを選んだとします。そして、妻を想定すると、以下のように具体的なパラメーターが次々と決まっていきます。

  • 勤務形態: 時短勤務

  • 外出の時間帯: 朝~夕方( 保育所に子どもを迎えに行く)

  • 年代: 30代

このように、キー属性を起点にパラメーターを設定することで、キャストが具体的な人物像として形作られていきます。

キャスト(作成中)

顔写真などを選べばキャストの完成です。セグメンテーションと言い換えても良いかもしれません。

キャスト(完成)

ステップ4 ペルソナの選定

キャスト(出演者)が決まったら、この中からペルソナ(主役)を選びます。どのキャストをペルソナにするかは企業の戦略となります。狙いたい市場、競合との差別化、自社の強みとの一致、収益性の見込み、実現可能性、将来の市場規模拡大への期待などなど、ペルソナの選定は製品やサービスの方向性を決める重大な決断なので、関連部門で集まって合意の上、決定することが望ましいです。なお、ペルソナは一つだけに絞る必要は無く、優先順位を付けていくつか選んでも構いません。主演、助演のような感じですね。これを、ターゲッティングと呼んでも良いでしょう。

仕様を検討する際には、可能な限り全てのペルソナのニーズを満たす設計にします。しかし、相反する場合もあると思います。その場合は、ペルソナの役割は1つか2つのセールスポイントとなる特徴を生み出すことにあるので、優先度の高いペルソナにとって特別に嬉しい体験になることを重視しつつ、別のペルソナに不満が生じないような設計を検討することになるでしょう。

ペルソナの選定

ステップ5 ユーザーリサーチの実施

これまでに作成したペルソナは、仮説に基づくものであり、属性のみを記載した浅い内容に過ぎません。そのため、仮説の検証を行うとともに、ペルソナの本質を明らかにするためのユーザーリサーチが必要になります。

具体的には、ペルソナに近いユーザーをリクルートし、半構造化インタビューを実施します。このインタビューでは、利用状況を確認し、困りごとを深掘りします。利用現場を観察できる場合は、行動観察によって潜在ニーズを発見することにも挑戦しましょう。こうしたユーザーリサーチを通じて、ユーザーの行動の背景にある動機や価値観を探り、より深い理解を得るようにします。

なお、山崎和彦先生の論文では、キャストを作成した時点で、各キャストに近いユーザーをリクルートし、リサーチを行うとされています。しかし、仮にキャストごとに3名のユーザーリサーチを実施すると、この例では15名になってしまいます。実際の製品企画・開発のスケジュールの中では、この人数でのユーザーリサーチは実施が難しい場合が多いです。

そのため、私の場合は、まずペルソナを選定し、それに基づいてユーザーリサーチを行うようにしています。この方法により効率的に進められる半面、ユーザーリサーチの結果として「そんなペルソナは存在しなかった」や、「ペルソナが2パターンに分かれてしまった」といった事態が発生することもあります。それはそれで、ユーザーの理解が深まったので良しとしましょう。

ステップ6 ペルソナの完成

ここまできたら、ペルソナを端的に表すキャッチコピーやセリフを付けたり、感情移入しやすいように名前を付けたり、年代を具体的な年齢に変えたりして仕上げます。よく「36歳ではなく35歳じゃダメなの?」と聞かれることがありますが、どちらでも問題ありません。ペルソナの本質は、その人物の価値観や行動の背景を明らかにすることにあります。

そのようなペルソナを作ることで、ユーザーがどんな問題を抱えていて、それをどう解決したいのかを深く理解できます。また、製品やサービスの仕様に複数の選択肢がある場合、どの方向性がユーザーに最も適しているかを判断する助けにもなります。さらに、新しい機能やサービスを考える際に、それがユーザーにとって本当に価値があるかを評価することが可能です。

ペルソナは、ユーザー中心の視点を確立し、チーム全体で共通の理解を深めるための強力なツールとして活用できます。

ペルソナ

山崎和彦先生は、以下のようなペルソナの効果を示しておられます。

  • ユーザー理解: 専門家でない人にとってもユーザー情報が分りやすい。対象ユーザーを常に意識して企画・設計・開発ができる。

  • コラボレーション: 部門間で共通の対象ユーザーを意識できる。社内の異なる部門間でコラボレーションしやすくなる。

  • アイデア創出: 開発者やデザイナーの創造的な活動に直結する。より革新的な提案をできるようになる。

  • ユーザー評価: 共通のユーザー像をもとに評価することができる。評価協力者のリクルーティングに活用できる。

実際にはこんな作り方もある

ペルソナの作り方を説明してきましたが、実際には下図のようにエイヤーで作ってしまうことも多いです。

エイヤーで作ったペルソナ(仮説)

後継製品の開発時には、エイヤーで作ったペルソナでも問題ないと思います。ただし、ペルソナはあくまでも事実に基づいて作られた具体的なユーザー像であり、ユーザーリサーチを行って完成させることが重要です。ただし、ここでいう「完成」とは、製品開発を進める上で一旦、合意したものという意味で、肝に銘じておかなければならないのは、ペルソナに完成はないということです。

よく見かけるのは、昔々にユーザー訪問した際の経験をずっと語っている人です。「今でもそんなユーザーがいるのか?」と疑問に思うことはありませんか? 仮に、以前の製品開発時に作成したペルソナがあったとしても、それをそのまま使うのは、まるで過去の経験を語り続けているのと同じです。常に最新の事実を集めるという姿勢を忘れてはいけません。

おわりに

ペルソナは、製品やサービス開発においてチーム全体の共通認識を深め、ユーザー中心の視点を確立するための有効なツールです。ただし、その作成や運用には柔軟な対応が求められます。本記事が皆さまの取り組みに少しでも役立つヒントとなれば幸いです。具体的な事例に合わせたアドバイスやサポートが必要な場合は、ぜひお気軽にお声がけください。一緒に、利用者に嬉しい体験を届け、より良い社会を創り上げていきましょう。


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