小伝馬町の本屋「ほんやのほ」の店主、伊川佐保子さんと、国分寺の「語学塾こもれび」の塾長、志村響さん。「本屋」と「塾」という異なる空間を拠点に活動する二人ですが、ことばを愛し、ことばに対して真摯に向き合う姿勢には共通するものを感じます。 そこでそんな二人に、往復書簡という形で”ことば”と”意味”をめぐる対話をしてもらうことになりました。それぞれのことば、それぞれのアプローチで語られるものからは、きっと何か素敵なものが見えてくることでしょう。
hibiki
アントワーヌ・ド・サンテグジュペリの Le Petit Prince を全訳しました。「0. 献辞」から始め、一章ずつ公開していきます。イラスト付き。
詳しくは無料note「間違えがちなフランス語 0. イントロダクション」( https://note.com/hbkindigo/n/n2de38d9c0d00 ) をお読みください。画像はいつかのモンサンミッシェルにいた猫です。
フランス語との付き合いもけっこう長くなりました。ここらでちょっと振り返ってみようかな、という気持ちではじめたマガジンです。少しでも楽しんでいただけたら。
わかるようでよくわからない「文法用語」を紐解きながら、一緒に言語学しましょう。
ポリグロット(多言語話者)系売れっ子Youtuberが書籍を出すのは、もはやお決まりの流れになったようです。 今年もそんな本が一冊出ました。もちろん中身は読んでいません。 著者のYoutuberさんはもともと知っていて、おすすめタイムラインに上がってくるのでいくつか動画を観たこともあります。 オンライン上で外国人とまずは英語で会話をし、途中で相手の母語に切り替えてサプライズをしかける!という予定調和?は語学力の使い道として僕は好みませんが、 あれが“バズる”のはよくわかる
全4回、都立大オープンユニバーシティ講座「『星の王子さま』を翻訳しよう」の秋期が昨日(12月13日水曜日)最終回を迎えました。 今後の受講を考えている方の参考にもなればと、今の時点での振り返りを書き残しておこうと思います。 まずこちら、13日の講義で最初にみなさんにお渡ししたプリントです。 講義は18:30-20:00の90分、だいたい毎回以下のような進め方です。 18:30-18:50 訳読箇所の読み合わせ、問題となりそうな文法の解説 18:50-19:15 その場で辞
コロナ禍を経て、実に四年ぶりの対面開催となったフランス語スピーチコンクール。 四年前、2019年の様子は別記事にまとめてあります。 今回も上級、中級合わせて15名の決勝出場者が揃いましたが、前回と大きく異なったのはその配分です。 2019年開催時の割合は上級9名:中級6名、今年2023年は上級7名:中級8名で、僕の記憶する限り、中級出場者数が上級を上回ったのは今回が初めてではないかと思います。 なぜか? 2019年の記事にも書いた通り、実際には上級レベルの実力がありなが
たしかに自分は環のなかに入っている。数人で丸いテーブルを囲んでいる。自分に向けられた言葉はかろうじてわかるものもあれば、わからないものもある。ひとたび会話の波が途切れて、違う人同士で会話が始まると、まるで追いつけなくなる。 なつかしいな、と思った。あの頃と同じだ。フランス語を始めて間もない頃、留学してすぐの頃、会話に追いつけなくて、惨めに取り残されて、なにもわからない、ただ手加減をしてくれていることだけはわかるあの感じ。でもそれが不思議と少し楽しかったりする、あの感じ。
これは僕にとって、世界でいちばん美しく、そしていちばん悲しい風景。前のページに描いたものと同じ風景だけれど、しっかり見てもらうためにもう一度描いた。王子さまはここで地上に現れ、そしていなくなったのだ。 いつかアフリカの砂漠を旅するとき、間違いなくここだとわかるように、注意深くこの風景を見てほしい。そしてもしここを通りかかることがあれば、お願いだから、先を急がないで、この星の真下で少し待ってほしい!もしそのとき、ひとりの子どもが近づいてきて、その子が笑い、髪は金色で、あなた
今となっては、はるか六年も昔のこと…。この出来事は今まで一度も人に話したことがなかった。再会した同僚たちは、僕が生きて戻ってきたのを見て喜んでいた。僕は悲しかったけれど、彼らにはこう言っておいた。「疲れが残っていてね…」 今では、少しは慰められた。つまり… まったく悲しくなくなったわけではない。でも僕は、彼が星に戻ったことをちゃんと知っている。だってあの日の夜明け、王子さまの体は見当たらなかったから。そんなに重い体じゃなかったみたいだ…。そして夜になると、星の音に耳を澄ます。
井戸のすぐ側に、さびれた古い石の壁があった。次の日の夕方、飛行機の修理を終えて戻ると、王子さまが足をぶら下げてその上に座っているのが遠くから見えた。そして話し声が聞こえた。 「覚えてないっていうの?」と彼は言っていた。「ここじゃなかったはずだよ!」 なにか他の声が答えたのだろう、彼は言い返した。 「いいや!たしかに今日だけど、場所はここじゃない…」 僕は壁の方に歩を進めた。相変わらず誰も見えないし、誰の声も聞こえない。けれど王子さまはまた言い返した。 「…そうだよ。砂漠のどこ
「人間はさ」王子さまは言った。「特急列車に乗り込んでいくけど、自分たちが何を探し求めているかを見失っているんだ。それでじたばたして、堂々巡りをしている…」 彼は続けた。 「そんなことしなくていいのに…」 僕たちがたどり着いた井戸はサハラにある他の井戸とは違っていた。サハラの井戸はみんな、砂に穴を掘っただけのものだ。その井戸は、まるで村にあるものみたいだった。でも辺りに村なんてない。僕は夢を見ているのかと思った。 「おかしいな」僕は王子さまに言った。「全部揃ってる。滑車も、桶も
砂漠での不時着から一週間、僕はその商人の話を、水の蓄えの最後の一滴を飲みながら聞いていた。 「あぁ!」僕は王子さまに言った。「君の話はどれも素敵だね、でも僕はまだ飛行機も直せていないし、もう飲み水もないし、僕だって、泉に向かってのんびり歩いてみたいものさ!」 「ぼくの友だちのキツネはね…」彼は言った。 「ねぇ少年、もうキツネの話はいいんだ!」 「どうして?」 「このままじゃ喉が渇いて死んでしまうからだよ」 僕の理屈がわからなかったようで、彼はこう答えた。 「友だちができたって
「こんにちは」王子さまは言った。 「こんにちは」商人は言った。 商人は、喉の渇きを抑えるために開発された錠剤を売っていた。一週間に一錠それを呑むだけで、もう飲む必要を感じなくなる。 「どうしてそんなものを売ってるの?」王子さまは言った。 「ものすごい時間の節約になるんだ」商人は言った。「専門家が計算したところ、一週間で五十三分も節約できる」 「それでその五十三分を何に使うの?」 「なんでもしたいことに使うんだよ…」 ぼくなら、もし自由に使える時間が五十三分あったら泉に向かって
「こんにちは」王子さまは言った。 「こんにちは」転轍手は言った。 「ここで何をしているの?」王子さまは言った。 「乗客たちを千人ずつまとめて仕分けているんだよ」転轍手は言った。「彼らを運んで行く列車を右にやったり左にやったりね」 そして特急列車が光って、雷鳴のような轟音が転轍小屋を揺らした。 「急いでいるんだね、あの人たち」王子さまは言った。「みんな何を探し求めているの?」 「運転士にもそれはわからないね」転轍手は言った。 そして反対方向から次の特急が光り、轟音がした。 「も
キツネが現れたのはそのときだった。 「やぁ」キツネは言った。 「こんにちは」王子さまは丁寧に返事をしたが、振り向いても何も見えなかった。 「ここだよ」りんごの木の下から声がした。 「きみは誰?」王子さまは言った。「とても素敵だね…」 「おれはキツネだ」キツネは言った。 「こっちに来て一緒に遊ぼう」王子さまは彼に提案した。「どうしようもなく寂しいんだ…」 「きみとは一緒に遊べないよ」キツネは言った。「飼いならされていないからね」 「あぁ!ごめん」と王子さま けれど少し考えてから
けれど王子さまは、砂や岩や雪の中をさんざん歩いたのち、ようやく道を見つけることができた。そして道はすべて、人間のいるところへと繋がっている。 「こんにちは」彼は言った。 そこはバラの咲き乱れる庭園だった。 「こんにちは」バラの花々は言った。 王子さまは彼女たちを見た。みんな、彼の花に似ていた。 「あなたたちは?」呆気にとられて、王子さまは尋ねた。 「わたしたちはバラよ」とバラは言った。 「あぁ!」王子さまは叫んだ… そして彼は自分をとても不幸に思った。彼の花は、自分がその種の
王子さまは高い山の上に登った。彼がそれまでに見たことがあったのは、自分のひざまで届く三つの火山だけだった。そして一つしかない死火山を腰かけ代わりに使っていた。だから「こんなに高い山からだったら、星全体と人間みんな、一目で見えるかもな」と彼は考えた。けれど視界に広がるのは、針のように鋭く尖った岩山だけだった。 「こんにちは」彼は念のために言ってみた。 「こんにちは…こんにちは…こんにちは…」やまびこは答えた。 「あなたは誰?」王子さまは言った。 「あなたはだれ…あなたはだれ…あ
王子さまは砂漠を横切ったものの、出会ったのは一輪の花だけだった。花びらが三枚の、なんの変哲もない花… 「こんにちは」王子さまは言った。 「こんにちは」花は言った。 「人間はどこにいますか?」 王子さまは恭しく尋ねた。 花はいつだったか、キャラバンが通るのを見たことがあった。 「人間?六、七人はいるんじゃないかしら。何年も前に見かけたことがあるわ。でもどこで会えるかはひとつも知らない。風がさらって行ってしまうの。根っこがないんだから、さぞ大変でしょうね」 「さようなら」王子さま
気の利いたことを言おうとすると、少しばかり嘘がまじってしまう。点灯夫たちの話をしたのも、あまり誠実ではなかった。僕たちの星のことを知らない人には間違ったイメージを与えてしまうかもしれない。人間が占めているのは、地球上のほんの一部の土地でしかないんだ。もし地球に住まう二十億の人々が集会のときみたいに互いに肩を寄せ合って立ったら、縦二十マイル横二十マイルの広場に軽々入ってしまう。太平洋に浮かぶどんなちっぽけな島にだって、人類を詰め込めるかもしれない。 大人たちはもちろん、信じては