D2CブランドにOur Storyは必要か
D2Cブランドが増えた。以前にD2Cに関してのnoteを書いてから、もう2年くらい経っているというのは驚き。
ここ数年でスタートアップが中心だが、大手も参入してD2Cブランドの数は増え、かなり大きな規模になってきているブランドもあるという印象。米国のように、大手ブランドの規模に並ぶD2Cブランドも生まれる可能性もあって楽しみ。
これまで満たされていなかった(ある種ニッチな)ニーズを、D2Cブランドが埋めることが多いため、生活者からすると選択肢が広がるのは良いこと。D2Cブランドを立ち上げる支援サービスも多く立ち上がり、今後もブランドの数はますます増えそうだ。
ある程度の粗利率が確保でき、物流や製造を外部委託できる場合、支援サービスなどを活用すれば、ブランド"立ち上げ自体"のハードルは下がり、カテゴリによってはかなり多くのブランドが立ち上がる可能性もある。実際、米国のマットレスD2Cは数社が有名だが、実はその影に隠れた数百のマットレスD2Cが存在している(存在していた。といったほうが正確?)。
国内でも、今年に入ってからオンライン化の流れの中で既存ブランドのEC参入も増えたこともあり、カテゴリによっては数多くのブランドの広告をソーシャルメディア上で見かける機会が増えた。また、ある程度D2Cのパターンが研究され、フォーマット化されたことで、同じカテゴリだと一見差分がわかりにくくなってしまった部分もある。とはいえ、カテゴリを開拓したオリジナルブランドは強く、類似ブランドが増えるほど、その強さがより引き立っているようにも見える。(類似ブランド参入によって一番恩恵を受けるのはシェアの大きなトップブランドというのはよくある話。)
”プロダクトが最も大事”というのが大前提だが、D2Cブランドが機能やスペックを前面に出すというよりは、ストーリーや想いに共感してもらうことで支持を集めることが多いため、ブランド間での違いを"頭"で論理的に理解することはより難しくなり、ブランドのイメージやUGCによって、なんとなく好きなブランドがある、という状態。
ただ、イメージによる訴求は本来大手企業の方が強い。お金がかかったクオリティの高いブランドコンテンツはイメージに強く残る。Coca-ColaなどのCMがまさにそうだ。本来、スタートアップがECで売りやすいものは論理に訴求(ここが他社と違うのでこれだけ良い結果が得られる。)するような、機能がウリの健康食品や化粧品などだが、プロダクトのユニークさと創業ストーリー「Our Story」をソーシャルなどを絡めて共感を集めてきたのがD2Cとも言える。
とはいえ、一部のブランドを除き、Our Storyだけで購買まで結びつくことは多くないため、D2C以前からある、ある種伝統的な縦長のLPやアフィリエイトを使いつつ、ブランドのテイストとは若干異なる課題訴求で頭に訴え”別途”コツコツとユーザーを増やすことも多い。未だに効果が高いし、頭で理解しながら購入したい層にとってはそういった広告の方がフィットしているのかもしれない。(この手法を否定しているわけではなく、イメージ訴求と論理訴求の両方の使い分けが正解な可能性もあると考えている。)
そうなってくると、顧客からするとブランドが増えるにつれて、選ぶ負担が増える。あるカテゴリで一つのD2Cブランドしか存在しなければ良いが、ブランド数が増えてくるにつれて、いろんなブランドがデジタル上で自分を売り込んでくるようになる。
そんな中、 自分自身が、いち生活者としてブランドのストーリーに若干疲れてしまっていることに気がついた。ストーリーの押し付けとまではいかないけど、ストーリー疲れ。同カテゴリに何ブランドも存在するようになると、全てのブランドのwebサイトを隅々まで見るだけで疲れてしまうし、結局名前を知っている大手のブランドがAmazonで売っていたらそっちに手が伸びてしまうこともある。D2Cブランドは創業メンバーや開発者の課題や想いがベースにある事が多いけど、中には、ビジネス観点から、市場性を分析した参入で、取ってつけたような(どこかで聞いたことのあるような)ストーリーが語られていることもあり、スートリーのコモディティ化が起きているような気もしている。いち生活者の立場では”プロダクトが良ければそれで良い”と感じることも。実際に創業ストーリーなどour sotryを知らなくても好きなブランドはたくさん存在する。
そもそも、ブランドはブランド側から「自分たちはこうゆうブランドなんです」と語ってもダメで、顧客が感じたものがブランド、ということを最近になって強く認識するようになった。なので、本来は直接的に「我々のブランドは・・・云々」と語りすぎるべきではないのかもしれない。語ってもよいが、プロダクトやサービス、広告やコミュニケーションのディテールを通して顧客に伝わり、顧客の中にできた期待値の総和がブランドとなる。
ストーリーに関しても、「ブランドが持っているストーリー = our story」と言うよりは、本来的には主語が顧客の「顧客の自分ごと化されたストーリー」なのではないか。ブランドがプロダクトやサービスと通じて顧客のストーリーに変換される。創業者のストーリーに共感し、自分ごと化される場合もあるし、ブランドの持つストーリーとは違うが、顧客自身の中で何かしらのストーリーとして形成されることもある。
過去に何度もnoteで紹介しているDaisy Cakesの例もそうだ。その場には大きな冷凍ケーキがあるだけで、そこにみんなが集まり、顧客自身のストーリーが生まれる。そう考えると、なぜDaisy Cakesを作ったのかというストーリーは、ブランドとして語る必要はないんじゃないかという気さえもする。シーンの提案さえできれば。(確か、Daisy Cakesは自宅で作って家族と食べていたケーキを売り始めたのが始まりだった気がするので、創業ストーリーと顧客のストーリーが一致しているのかもしれない。Daisy Cakesについては事例がどこかに乗っているわけではなく、創業者の話を聞いてきたので記憶が曖昧。)
同じプロダクトやサービスであっても顧客によって共感ポイントやストーリーが異なる。D2Cがフォーマット化される中で、ストーリー性や背景が大事、ということが強調され(過ぎ?)た結果、なんとなくふらっと入った洋服屋さんで店員さんに熱心に話しかけられて「あ、見てるだけなんで大丈夫です!」状態にしてしまっているんじゃないかと。
逆説的になってしまうけど、ブランドが自分たちのストーリー(our story)を語るほど顧客固有のストーリーが生まれるのを阻害してしまう気もする。そう考えると、ブランドにour storyは必ずしも必要なく、顧客が自分ごとのストーリー化しやすい状況であれば良いんじゃないかとも考えられる。顧客が自分ごと化できる”余白”が大事。もちろんカテゴリやそのカテゴリにおけるプレーヤー数、ステージにもよるので一概には言えないけど。
そもそも、ブランド側が想定していたストーリーと、顧客が感じているストーリーが異なることも多々ある。顧客インタビューをしている中で、あらためて自社ブランドがどのように捉えられているかに気がつくことも多い。ブランドを運営しているメンバーは、概して”自分が憧れている/好きなブランド”に自社ブランドを寄せて考えてしまうことがある。特にローンチから時間が立つと、企業側が考えているブランドと、ユーザー側の認識しているブランドに乖離が生まれている可能性もある。
そういったことをぐるぐると考えているとき、新ブランドのローンチが重なった。
・ブランドは当面プロダクト作りにフォーカス
・ストーリーやプロダクトについてあえて自らはあまり語らない
・顧客こそがブランドを正しく把握しているので観察する
・観察の中で生まれてきたストーリーをより多くの方に感じていただけるようにプロダクトやサービスを改善をしていく
という方針でブランドをローンチしてみようと考えた。our storyを強く訴求するのではなく、顧客それぞれのストーリーが積み重なりながら、新しいストーリーが生まれてくるイメージ。顧客側の期待値や認識の総和がブランドだとするならば、最低限の土台だけ用意して、観察することでブランドをチューニングしていく。(ちょっと抽象的な話で何を言っているかわからなかったらすみません。。)
さすがにコンセプトがないとブランドの土台を作るのが難しいのでコンセプトは決めた。家に届いていると(いつもよりちょっと良いお酒を買って)早く家に帰りたくなるようなブランド。キーワードはGo Home。それだけ良いプロダクト(生ハムの原木のような、、)を作らないといけないことになる。
ということで、our storyが無い新サブスクブランド「otuma.me(オツマミー)」↓を11/23(いいおつまみの日)にローンチしました。いろんなストーリーが生まれると良いな。