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D2Cってモデルじゃなくて思想なんじゃないかという仮説

過去2回ほどD2Cについてのnoteを書いてみて、いろんな方からフィードバックを頂いた。
D2Cという幻想
D2Cモデルを2年行ってみてわかったこと

同じような課題感を持っている方も多く、とても参考になり、またもう一段D2Cについて深く考えるきっかけにもなったので、あまりまとまりは無いけど思うところを書いてみた。

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いつも困るのが、D2Cという言葉の定義。「自社で商品を企画・開発し、ユーザーに直接販売する事業モデル」という感じで考えていたのだけど、結局本質的なところってなんなんだろう、と考えたときに「バーティカル」という言葉が浮かんだ。正確に言うとVertical integration。つまり垂直統合

バーティカルというと、MBA的にいわゆるバリューチェーンを考えたときに、どの部分を自社で持つのかというモデル、というように考えることができる。
「自社で商品を企画・開発し、ユーザーに直接販売する事業」という定義もその考えがベースになっていて、バリューチェーンのうち商品開発、マーケ、販売、サービスあたりを行うモデルということだ。

|商品開発 > |生産 > |マーケ > |販売 > |サービス

これまで商品開発をメインに行っていたプレーヤーがマーケでソーシャルなどを活用しつつ、自社で販売も行い、CSも熱心に行うとD2Cモデルに近づく気がする。

なんとなく正しいように見えるけど、これはサプライヤー視点でのバーティカルであまり本質的ではないんじゃないか。

・メーカーとして商品開発を行っていたが、直販も行うことでバリューチェーンを拡大でき、顧客接点が持てる!
・小売やメディアとして顧客接点をもっていたが、オリジナル商品を創ることによって、粗利が上がる!(もしくはマネタイズができる!)
・生産を外部委託していたけど、自社工場を持つことで粗利を上げられる!

というように、どれも主語はサプライヤー側だったりする。(もちろんコストを下げることで、価格を下げ、顧客メリットも出すことができるので一概には言えないけど。)

じゃあどんなバーティカルがD2Cの本質かというと、”ユーザー体験のVertical integration”ってことなんじゃないかと。モノだけではなく、なるべく多くのタッチポイントを持つことによって、よりよりユーザー体験を提供する。つまり、メーカー的なモノを創る機能と、小売としてユーザーとの接点を持つことができるため、より深くユーザー体験を設計することができる。ソーシャルもタッチポイントの一つで、D2Cブランドがインスタなどのソーシャルメディアを中心にグロースしているのも体験設計の一部なのではないか。

そういった意味で、米国のD2Cブランドが、リアル店舗を持つという流れは自然で、リアルの場を持つことでよりリッチな体験の提供が可能になる。そもそもリアル店舗を単なる販売の場と捉えておらず、ユーザー体験をリッチにするための場と捉えていることも多そう。

そもそもリアルの場が販売の場である必要はなく、業種にもよるけれど、体験の場としてカフェやサロン、ジムなど複数のオフラインのタッチポイントを持つようになることも今後進むだろう。

顧客体験 = 購買体験 + スタッフ + 創業ストーリー +モノ + デリバリー +サービス +カスタマーサポート + 様々なリアルの場・・

Verticalという観点で、最も先を言っているD2CブランドはPelotonだと思う。彼ら自身「Vertically Integrated Approach」と言っていて、そこでバリューチェーンに言及するのではなく、

- Hardware
- Software
- Contents&Streaming Media
- E-commerce & Retail
- Logistics

のタッチポイントすべてを抑えることで、ONE PRODUCT EXPERIENCEが提供できると強調している。ユーザー体験のためにバーティカル統合を行っている。

ちなみに、Pelotonについて、このnoteを読んでいるようなマニアックな人には説明の必要はなさそうだけど、フィットネスバイクというハードウェアを起点にブティックのようなフィットネス体験を提供することを目指しており、2012年創業ですでに調達額が10億ドル近く(バリュエーションじゃなくて、調達額、、)という怪物D2C。2014年にサービス利用し始めた人の96%が現在も有料会員という信じられない会社。
去年、イベントでCOOのプレゼンを聞く機会があったのだけど、NPSが80-93くらいで、しかも10人くらいのユーザーがPelotonのタトゥーを入れてるんだぜ、と自慢げに語っていた。(Apple、Teslaに並ぼうとしている。)
そんな高い満足度を提供できている源泉がVertically Integrated Approachとのこと。

ざっくり言ってしまうと、フィットネスバイクというハードウェア上でコンテンツやサービスも提供している会社なのだけど、コンテンツやサービスへの力の入れ具合が半端ない。

NYCに撮影スタジオがあって、1日40時間分のコンテンツを配信しているらしい。当然、人気のフィットネスコーチによるライブ配信も行っている。
プラットフォーマーとして、ハードウェアとアプリストアを作って、その上で3rd partyのアプリやコンテンツが動くのではなく、最高のユーザー体験を提供するために、コンテンツやアプリも自社で作ってしまっているハードウェア会社であると同時に、ブロードキャスティング事業者でもある
当然、全米に体験にフォーカスした自社店舗を持っていて、イベント等も行われ活発なコミュニティを持っている。
さらに、商品を届ける瞬間も重要なタッチポイントである、という思想から、購入者への商品の発送も自社のトラック(というかバン)で行っている

CEOも”We control every touch point of consumer journey”と言っていて、顧客体験をより良くするために、顧客との全てのタッチポイントを重要視している。もともと、ファウンダーが感じていた「ブティックのようなフィットネス体験を家庭でも体験したい」というニーズを元に生まれたサービスで、体験づくりに強いこだわりを持っている。

だから、D2Cというのはモノを作りつつ販売も行うというバリューチェーン的なモデルの話でもあるのだけど、「顧客中心に考えて、モノを起点に顧客にどのような体験提供したいのか」という思想なんじゃないかという気がしている。そう言ってしまうと、それはどんな事業やサービスにも当てはまるんじゃないか、という感じだけど、ソーシャルやwebサービス、数々のプラットフォーマー、小回りの効く商品開発、リアルな接点などによって、体験の設計をフレキシブルに行えるようになった。その結果、点ではなく、バーティカルな体験設計ができるようになり、それを実現しているのがD2Cなんじゃないかと。ユーザー体験のバーティカル統合のレベル感によって、D2Cとしての深みが決まってくる。

Pelotonのように、体験にフォーカスして、ユーザー視点でのバーティカル統合を全てにおいて行うことが必ずしも正解ではないが、
・どのようなユーザー体験を実現することを目指し
・そのために自分たちで持つべきタッチポイントはどこで
・それぞれのタッチポイントでどのような体験を提供するのか

という思想を持つことはD2Cを行う上で必須だと思う。D2Cだからまずネットで売って、そこそこ売れたらリアル店舗いるよねー、とか、コンテンツが揃ってきたからそろそろD2Cでものを売ろう、という話ではなく。


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