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七十二候屏風制作物語八 「再び女神様が現れて完結す」
母校の学科卒業生有志による作品展「すみの会」に出展するための作品制作中、でした。七十二候の書と龍村の帯を表装して屏風仕立てにする作品です。
屏風仕立てをお願いしました表具店から完成のお電話があり早速伺いました。
完成品とドキドキの初対面!屏風仕立てにしてみると私の書の拙さが露呈し、表装された龍村の帯はそれをおおらかに包み込む懐の深さがあるな〜、と感じました。
私がお願いした帯の寸法の取り方がギリギリすぎて本当に成り立つのか何度も計算しなおしたこと、帯が脆弱すぎて触ると破れたこと、裏打ちの和紙にちょうど良い色を探したが見つからず手元の在庫の中からやっと選んだこと、など職人さんは数々のご苦労があったようです。
本紙と帯の重ねしろが5mmしか無かったためその段差が目立たないように、1寸くらい(3cm)の幅で和紙を下貼りして段差を無くして面(つら)を合わせる工夫をしてくださったそうです。
断ち落とした残りの帯は本当にわずか!龍村の帯をなるべく無駄にしたくなく、ギリギリまで寸法を追い込んで図面にした結果です。この残り裂も大切に使おう!と思いました。
奥様からは、大変だったけれど楽しかった、私も気に入っています、と言っていただきました。なんて嬉しい言葉をくださる方なんだろう〜、と再び女神様か?と思いました。
そして数日後に職人さんと奥様が納品にいらっしゃいました。
いつも表具店にお邪魔する度にコーヒーをご馳走になっていましたので、お礼のためにコーヒーをお出ししました。お2人はコーヒーを飲みながら新婚旅行のお話をしてくださいました。
お金を持たずに土曜日からユースホステルに泊まり郵便局が開く月曜日まで泊まったこと、その頃のユースホステルは男女別室しか無く女性は奥様1人だけで怖かったから事務室に泊まったこと、山に行くようなカジュアルウェアだったので新婚旅行とは思われなかったこと、などなど。
記憶に残る特別な新婚旅行でしたね〜、と私。その頃はハワイ行きの飛行機の機内全員が新婚旅行カップルなんていう時代で、赤いスーツを着て行くなんてイヤだった、と奥様。職人さんは黙って頷いて聞いていました。
やりたいことに対して夢中で真っ直ぐ突き進む少年のような職人さんとそれを横で明るく楽しむ奥様。
職人さんの確かな腕を永年支えてきたのは女神様のような奥様だったのだと思いました。
お陰様で、私の拙い書と憧れの龍村の帯を一つの作品として完成することができました。女神様が要所要所に登場して完結した着物がたりです。