人は勉強ができないと困るけれど、無駄話ができないと死ぬ。
昨日2021年10月23日は、僕の47回目の誕生日だった。
「昔の人は55歳で定年だったんだよ」
「それなのにもう、、、お前ときたら・・・」
「嘘でしょ！」
「55歳で定年だったの？」
「そんなことも知らないのかい？」
「焼津のおじさんだってそうだったじゃない」
「まったくもう、お前ときたら・・・」
「焼津のおじさんは東洋一のマグロ漁師だったんだよ」
「お前ときたら、まったくもう！」
47歳になっても相変わらず風采が上がらないのであるが、それでもこの日は本当に良いことばかりだった。
生徒からプレゼントの「ピュレグミ」をもらえたし、空は快晴だった。
なんだかんだ言っていた母も、豪華な夕食を作ってくれた。
ただ、誕生日割引で行った温泉でふと見た新聞に、
「コロナ発生から、若者の自殺急増」
とあった。遠隔授業になって、孤独になる学生が増えたのだ。
家でテレビをつけても同じニュースが流れたものだから、尚更気になった。
23日、夜８時30分。豊さんと竹内先生がやっているマクルーハン読書会にzoomで参加させてもらうと、驚くべきことに『哲学者マクルーハン』『マクルーハンプレイ』等の著書を持つ中澤豊先生がいらっしゃった。
「松井さん、最高の誕生日プレゼントになったね」
「豊さん、ホント凄いプレゼントですよ！」
「ハハハ」
中澤先生は電電公社入社後、NTTインターコミュニケーション・センターやNTT出版を自らの手で設立され、代表を務められた。トロント大学ではマクルーハンの長男エリック・マクルーハン博士から直接指導を受けているのだ。
なぜ僕ごときがそんな凄い読書会に参加できるのかと言えば、豊さんや竹内先生のお力なわけだけれど、メディア学者のマクルーハン的に言えば、zoom時代の恩恵だってことにもなる。
しかし、その遠隔教育のせいで若い人たちの自殺が急増しているという。
僕はもちろん、中澤先生に聞いてみた。
「無駄話ができないですからね」
先生は端的にそうおっしゃったのだ。
マクルーハンの理論に「図と地」という秀逸なものがある。
例えば、優れた芸術家は絵を指導するときに、
「背景を描け」
と言うことがある。
絵を描くには背景から。図は地があってこそ輝く、という論である。
Youtubeでメイキングを見て驚いたのだが、日本のアニメにしても、あれは影の付け方に特徴がある。アニメの絵柄は光が綺麗なわけだけれど、大切なのは光ではなく影なのだ。
P.F.ドラッカーは日本画を好んだ。「日本画を見ると正気に戻ることができる」からだと妻のドリスが語っている。おそらくだが、空白の背景にその理由がある。
魂は背景に宿る。
授業は正論を学ぶところだが、人は正論だけで生きるのではない。人が寄って立つのは会話であって、正論のみでは会話が成り立たない。人は勉強ができなければ困るが、無駄話ができなければ死ぬ。
我らがなぜ争うのかと言えば、正論のためだ。
ならば、なぜ和するのかと言えば、会話のためだ。
地があっての図、無駄話があっての正論である。
「汝（なんじ）がうしはける葦原中国（あしはらのなかつくに）は、天照大御神の御子が知らす国であると任命された。汝の考えはいかがか？」
地上を治めていた大国主神（おおくにぬしのかみ）に、天照大御神（あまてらすおおみかみ）の使者、建御雷神（たけみかづちのかみ）が述べた極めて有名な言葉だ。
シラス国とウシハク国
大国主尊がされていたのはウシハクという国の治め方だったが、天照大神はシラスというやり方で治めよと言う。だから国を譲るように言われた大国主尊は、素直に譲った。
ウシハクとは領主が正論を吐き、司令を出して統治する国の治め方。
シラスとは会話によってなされる治め方である。
群竜首なきを見る。吉なり。
易経の最初の卦、乾為天（けんいてん）に、こうある。
竜の群れに首領がいない。ならば、登りすぎた竜であっても吉となる。
行き着いた文明においては、司令ではなく会話をなせという話だ。
一枚の写真で世界をまとめるのではなく、仲良くけんかしながら皆が個々の世界を提示するのだ。モザイクやクレイジーキルトのように。
我らは正論でなく会話を探す必要がある。結論ではなく始まりを。
「世界は無駄話の上に存立する」
中澤先生のこの話、千金の価値があった。
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