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#49「顧客(AI)エージェント / DataStoryLogic八の型 / 企業主体ではなく顧客主体エージェントのDX企画」

目次

  • はじめに:なぜ「顧客エージェント」が重要なのか

  • 時代背景:企業主体から顧客主体へのシフト

  • 基本コンセプト:AIエージェントのフレームワーク

    • 3-1. データジョブロジック

    • 3-2. データループシステム

    • 3-3. データインパクトストーリー

  • 顧客エージェントのメリットと価値

    • 4-1. 顧客の購買体験をアップグレードする

    • 4-2. ビジネスへの好影響(ユニットエコノミクス)

  • 実装ステップと失敗パターン

    • 5-1. ステップ:要件定義・モデル開発・PoC・本番運用

    • 5-2. ありがちな失敗例

  • 業界別事例:EC・サブスク・金融・旅行

  • 次世代CDP:企業CDPと顧客CDPの融合

  • 生成AIとの融合と展望

  • 導入成功のポイントとまとめ


はじめに:なぜ「顧客エージェント」が重要なのか

企業がCRMなどを駆使して顧客データを一元管理することは、長らく当たり前だった。しかし近年、顧客自身が「自分のデータを自分のために使う」という動きが加速していると感じる。AmazonやGoogleのような大手プラットフォーマーは膨大なデータをもとにユーザー行動を解析し、レコメンドを出してきたが、必ずしも利用者の意図やコンテキストを完全に尊重しているとは限らない。

ここで台頭してきたのが「顧客エージェント」あるいは「購買エージェント」と呼ばれる仕組みである。これは、ユーザーが自分の嗜好や要求をAIに委ね、最適な商品やサービスを提示してもらうためのAIシステムを指す。企業が顧客データを握り、一方的なマーケティングを行うのではなく、顧客が主体的に条件を設定するという点が画期的だ。

プライバシーへの意識が高まり、利用者が「自分のデータをコントロールしたい」と考える時代背景も、この流れを後押ししている。また、企業としても顧客との対等な関係を築きながらロイヤルティやLTVを高めたいという狙いがある。こうした状況から、顧客エージェントは今後のビジネスモデルを考えるうえで欠かせない存在になると確信している。


時代背景:企業主体から顧客主体へのシフト

データがビジネス上の重要な資産となった時代、企業は自社の利益を最大化する目的で顧客データを活用し、広告やキャンペーンを最適化してきた。プライベートDMPやCDPは、まさに企業が顧客を理解し、効率よくマーケティングを行うための基盤であった。

しかしGDPRなどの規制強化や、iOSの追跡制限といった外部環境の変化によって、データの扱い方が変容している。プライバシー保護が強く求められるなか、ユーザー自身が「どのデータを、どの範囲で使うか」を選択できるようになってきたのだ。この結果、企業主導のデータ活用から、顧客主体のデータ活用へとパラダイムシフトが進行している。

この変化に乗り遅れた企業は、大手プラットフォーマーの提供する広告配信に依存せざるを得なくなり、自社のブランド力や顧客基盤を高めるチャンスを失うおそれがある。一方、顧客エージェントを整備して顧客とデータを共有し、より高度な顧客体験を提供できる企業は、競合優位を確立しやすいと考えられる。これこそが「顧客ファーストの新しいエコシステム」へ移行する大きな理由だ。


基本コンセプト:顧客エージェントのフレームワーク

顧客エージェントの概要を整理するにあたって、以下の3つの柱を挙げたい。

3-1. データジョブロジック

「どのデータを、どのように活用し、いつ提案を行うのか」を設計する部分がデータジョブロジックである。ECサイトなら、顧客が商品ページを閲覧したタイミングや離脱しようとした瞬間がトリガーになる。製造業なら、在庫が規定数を下回る瞬間に自動発注を行うケースが相当する。

従来のロジック設計は企業側が主導権を持ち、顧客には見えにくかった。しかし顧客エージェントが普及すれば、顧客自身が「予算上限」「好みのジャンル」「使用頻度」などを細かく登録し、AIがそれに基づいて提案するかたちになる。企業都合ではなく、顧客都合で動くという点が画期的だ。

3-2. データループシステム

レコメンドが成功したか失敗したか、あるいは顧客がどのような反応を示したかといった情報を学習にフィードバックし、提案精度を継続的に高める仕組みをデータループシステムと呼ぶ。購買データやクリック履歴などを活用し、パーソナライズ度を向上させるサイクルを回していく。

顧客エージェントの場合、企業だけでなく顧客にもフィードバックが見えるようにすることが理想的である。顧客が条件を調整し、AIがそれを学習する「共同作業」のイメージが重要になる。

3-3. データインパクトストーリー

これらが噛み合うと「顧客が納得して商品を購入する→企業は収益や在庫コスト削減などの成果を得る→さらにデータが集まり学習が進む」という好循環が生まれる。これをデータインパクトストーリーと呼んでいる。

社内で顧客エージェントの導入をプレゼンする場合は、このサイクルがもたらすメリットをわかりやすく物語化することが不可欠だ。技術要素だけでなく、「データを活用することでビジネスと顧客体験がどう進化するか」を具体的に描く必要がある。


顧客エージェントのメリットと価値

4-1. 顧客の購買体験をアップグレードする

顧客エージェントが機能すると、顧客は煩雑な情報収集や比較検討の手間を省くことができる。旅行プランの検索や金融商品の選定などは、複数のサイトや口コミを横断する必要が減り、自分の条件をAIが理解してくれている状態で最適な提案を受けられる。

さらに、企業視点だけではなく、顧客視点に立ったレコメンドが可能になる。たとえばサステナビリティに関心のある顧客には環境負荷の低い商品を優先するなど、個人の価値観が尊重されやすい。結果として顧客の納得感や満足度が高まる。

4-2. ビジネスへの好影響(ユニットエコノミクス)

企業にとっての利点は、顧客獲得コスト(CAC)の削減やクロスセル・アップセルの効率化といった点に表れる。顧客満足度が高いほど返品やクレームは減り、リピート率は上昇しやすい。口コミによるブランド力向上も期待できる。

ユニットエコノミクスの視点では、1人の顧客あたりの売上とコストのバランスが改善しやすい。顧客ニーズに即した販売手法なら無駄な在庫リスクや広告費を抑えられるため、収益性と顧客満足度の両立が可能になる。これが顧客エージェント導入の大きな価値である。


実装ステップと失敗パターン

5-1. ステップ:要件定義・モデル開発・PoC・本番運用

  1. 要件定義
    解決したい課題や測定したいKPIを明確化する。どの範囲までAIエージェントに任せるか、プライバシー保護はどう行うかなど、初期段階で整理しておくことが重要だ。

  2. データ準備・モデル開発
    購買履歴や行動ログ、顧客が明示的に入力した嗜好などをクレンジングし、機械学習モデルを構築する。サブスクなら離脱予測モデル、ECならレコメンドモデルなど、ビジネス要件に合わせたアプローチを設計する。

  3. PoC(概念実証)
    全面導入の前に限定的なユーザーや商品のカテゴリで検証し、A/Bテストやアンケートなどを実施して改善点を洗い出す。顧客の納得感を高めるためのUI/UX調整もここで行う。

  4. 本番運用・継続的改善
    ローンチ後も、提案の成功率や顧客満足度を計測し続ける。定期的にモデルを再学習し、市場の変化や新しいデータに適応させる。学習サイクルを途切れさせないことが重要だ。

5-2. ありがちな失敗例

  • データ不足・データ不備
    学習に必要なデータが欠損や重複だらけだと、有効なレコメンドは難しい。

  • 顧客体験を阻害するUI/UX
    頻繁すぎる通知や曖昧なプライバシー設定は逆効果になりやすい。

  • 組織内コンセンサス欠如
    経営層の理解不足や、現場の抵抗感が強いと導入が進まない。

  • 法規制・プライバシー保護との齟齬
    個人情報保護法やGDPRの要件を満たさないと、信頼失墜や罰則のリスクがある。


業界別事例:EC・サブスク・金融・旅行

  1. ECサイト・小売
    Amazonのレコメンドエンジンに代表されるように、顧客嗜好を分析してパーソナライズされた商品を提示できる。顧客エージェント化すると、提案精度はさらに上がる。

  2. サブスクビジネス
    解約率が収益に直結する動画配信や音楽配信で、エージェントが「好みのコンテンツ」を素早く提示すれば長期利用につながりやすい。

  3. 金融業
    オンライン証券のロボアドバイザーのように、リスク許容度や投資方針を設定すれば自動的にポートフォリオを組むサービスが登場している。

  4. 旅行・ホテル業
    ダイナミックプライシングをAIで行うだけでなく、旅行目的や希望条件を加味してプランを自動提案する顧客エージェントが存在感を高めている。


次世代CDP:企業CDPと顧客CDPの融合

顧客エージェントを運用する基盤としては、CDP(Customer Data Platform)の存在が欠かせない。ただし従来の企業CDPだけでなく、顧客自身がデータを保管・管理する「顧客CDP」との連携が今後の潮流になると考えている。

顧客CDPには、購入履歴だけでなくSNSの投稿履歴や興味関心といった情報が集積され、企業CDPには商品情報や在庫データなどが蓄えられる。両者がAPIなどを通じて連携することで、顧客エージェントは「顧客に最適化された情報」をスムーズに引き出せるようになるのだ。

これによって企業と顧客は対等なデータ活用関係を築きやすくなる。企業が顧客を「管理する」のではなく、顧客が自ら管理したデータに基づいて企業とやり取りする構図に変わる。これが「次世代CDP」のコンセプトである。


生成AIとの融合と展望

ChatGPTのような自然言語生成技術が進歩したことで、顧客エージェントに大きな可能性が広がっている。なぜその商品やサービスを勧めるのかを、人間が読みやすい言葉で説明できるようになるためだ。たとえば「以前〇〇な商品を好んで購入しており、環境配慮への関心が高いので、〇〇の認証を取得している製品がおすすめ」という具合に、説得力のあるストーリーをAIが提示できるようになる。

対話型インターフェースの普及も見逃せない。顧客はチャット感覚で要望を伝え、AIエージェントがリアルタイムに提案を返す世界が現実味を帯びている。最終的には決済や予約といったアクションまで自動化される可能性があり、金融や保険、製造業の発注など、大量の事務処理を伴う領域ほど劇的な効率化が期待できる。


導入成功のポイントとまとめ

顧客エージェントによって企業と顧客の関係を進化させるためには、いくつかの重要なポイントがある。

  1. データ基盤とプライバシーへの配慮
    データ品質と保護体制を整えずに導入すると、顧客の不信を招きかねない。必要最小限のデータで最大の価値を生み出す工夫が必要だ。

  2. 顧客にとってのメリットを明確化
    データを提供する代わりに何が得られるのかをわかりやすく示すことが不可欠である。価格面のメリットや時間の節約、パーソナライズされた体験などを具体的に伝えるべきだ。

  3. 小さく始めて大きく育てる
    初期は一部の顧客やカテゴリでPoCを行い、段階的に拡大するアプローチがリスクを抑える。最初からフルスケール導入すると失敗時のダメージが大きい。

  4. 組織文化の変革
    データドリブンと顧客主導の思想を受け入れるには、経営層から現場までの理解と協力が欠かせない。教育と啓蒙、成功事例の共有が重要だ。

  5. 継続的な学習サイクルの運用
    一度導入して終わりではなく、市場や顧客の変化に合わせてAIモデルを更新し続ける必要がある。これを怠るとエージェントの精度はすぐに陳腐化する。

顧客エージェントの普及によって、企業と顧客の関係は「管理される/する」から「協働して価値を創る」方向へシフトする。レコメンドエンジンは企業都合だけを押し付けるものから、顧客に最適化されたパーソナライズドエージェントへと進化していくだろう。そこには、単にテクノロジーの進化だけでなく、顧客の多様な価値観や購買行動を尊重する社会的な変化が背景として存在する。

対等な関係を築いた企業は、顧客からの信頼とリピートを獲得し、結果的に強い競争力を得ることになる。これからは生成AIとの融合がさらに進み、自然言語の対話をベースに自律的な意思決定までも行うエージェントが増えていくだろう。その未来を想定しながらも、まずは小規模な導入からはじめてノウハウを蓄積していくことが重要である。顧客エージェントをいち早く活用し、新たなビジネスチャンスを創出できる企業こそが、次の時代を主導する存在となるはずだ。


顧客エージェントといえそうなサービス

1. 金融領域:ロボアドバイザー(WealthNavi、THEO など)

  • 概要
    投資のリスク許容度や運用方針を、ユーザー自身が事前に登録し、AIがポートフォリオを自動で構築・運用する。

  • 「顧客エージェント」的なポイント

    • ユーザーが「リスク許容度」「投資目的」を設定し、それをAIが学習して運用方針を決める。

    • 投資銘柄の選定やリバランスはAIが担うため、「自分が明示した要望を、エージェントが代理で実行してくれる」構造に近い。

    • 従来型の証券会社や銀行の営業担当(企業エージェント)は、商品販売ノルマに左右されることが多い。一方ロボアドバイザーは、ユーザーの指示が中心にあり、その範囲内で運用を行う。


2. 旅行・ホテル領域:AI旅行コンシェルジュ系サービス(Tabiko など)

  • 概要
    旅行の希望条件(行き先、予算、目的、好みなど)を入力すると、AIあるいはチャットボットがプランやホテル、現地ツアーなどを提案してくれるサービス。

  • 「顧客エージェント」的なポイント

    • ユーザーは「自然や温泉が好き」「予算は○万円」「出発地は〇〇」などの条件を細かく伝えられ、AIがそのリクエストをベースに最適なプランを検索・提案してくれる。

    • 購買(予約)までワンストップで支援し、さらに現地のイベント情報や移動手段もリコメンドしてくれる場合がある。

    • 従来型の旅行サイトは、企業側が販売したいプランや在庫状況を前面に出すケースが多い。それに対し、AIコンシェルジュ系は「自分の要望のみに基づいてプランを組んでくれる」感覚が強い。


3. ショッピング・EC領域:スマートリオーダーやサブスク管理サービス

  • スマートリオーダー例:Amazon Dash Replenishment、Smart Shopping(日本国内)

    • 自動発注機能を使い、洗剤やトイレットペーパーなどの在庫が減るタイミングを察知して再注文してくれる。

    • ユーザーが「定期的に必要なもの」や「どのブランドを選ぶか」を初期設定すると、あとはAIが在庫をモニタリングし、必要なときに注文を実行する。

    • 企業の都合ではなく「ユーザーの生活ペース・消費ペース」を優先して補充される点が、従来型とは異なる。

  • サブスク管理サービス例:Subscript(海外)、サブスク管理アプリ各種

    • 複数のサブスク契約を一括で管理し、料金や契約更新のタイミングを通知したり、不要なサブスクを解約する提案をしてくれる。

    • ユーザーが「いつまでにどのサブスクを継続したいか」「月額予算はどれくらいか」を設定すると、AIが最適なプラン変更や解約のタイミングをサジェストする。

    • 従来型のサブスク提供企業は「できるだけ長く契約を続けてもらう」ことを重視するが、サブスク管理アプリの場合は「ユーザーの最適化」が目的であり、解約提案も辞さないところが「顧客エージェント」の概念に近い。


4. パーソナルアシスタント:Google Assistant, Siri + サードパーティサービス連携

  • 概要
    音声アシスタントが自分の生活リズムやアプリ使用状況を学習し、適切なタイミングでリマインドや情報提供を行う。

  • 「顧客エージェント」的なポイント

    • たとえばGoogle Assistantは、通勤ルートの混雑状況やスケジュールを学習し、「いま出発すると〇分早く到着できる」などを個別に通知する。

    • カレンダーと連携してレストラン予約やチケット予約を代行する事例も増えてきている。ユーザーの許可のもと、サードパーティサービスを横断的に利用してくれる点が重要。

    • まだ企業主導の要素もあるが、ユーザーが明示的にアプリやサービスへのアクセスを許可すれば、音声アシスタントが自律的に操作する仕組みは「顧客の意図をベースに動く」形に近い。


5. 価格比較・保険・公共料金の見直しサービス

  • 例:Compare the Market、MoneySuperMarket(海外)、価格.com、保険比較サイトなど

    • 基本的には「企業エージェント×プラットフォーム型」ではあるが、ユーザー入力による条件カスタマイズを重視し、AIやチャットボットを通じて最適なプランを導き出す機能を強化しているところも増えている。

    • 保険プランの提案に際して、ユーザーの家族構成や健康状態、収入などを入力しておくと、AIが「こういう補償内容があるプランがおすすめ」と理由付きで提示してくれる場合がある。

    • 従来の保険代理店営業は「特定の保険会社の商品を売りたい」という企業都合が働きやすいが、これらの比較系サイトやAIチャットボットは「顧客条件を中心に複数社のプランを並列比較する」点が「顧客エージェント的」といえる。


顧客エージェントの技術解説

顧客エージェントの実装には、データプラットフォームとAI技術、そしてユーザーインターフェースの3つが重要な要素となります。

(1) データプラットフォーム

  • 企業CDPと顧客CDPの連携
    従来は企業が保有する購買履歴や行動ログをCDPとして活用していましたが、今後は「顧客自身が管理するデータ」(顧客CDP)との連動がカギを握ります。

  • リアルタイムデータとバッチデータの両立
    在庫情報やサイト上でのリアルタイム行動ログと、過去の購買履歴や顧客属性などのバッチ処理データを組み合わせることで、タイミングの良い提案と高精度の分析を可能にします。

(2) AIエンジン

  • 機械学習モデル・推論パイプライン
    レコメンドエンジン、パーソナライズモデル、需要予測モデル、離脱予測モデルなど、それぞれのユースケースに応じたアルゴリズムを用意します。

  • 強化学習・自己学習
    提案のクリック率や購買率、顧客評価(フィードバック)を報酬とみなし、エージェントが強化学習的に学習を続けるアーキテクチャも注目されています。

  • NLP(自然言語処理)とNLG(自然言語生成)
    生成AI(たとえばChatGPTのようなLLM)を組み合わせることで、説明文や対話型アシスタントが実現しやすくなります。

(3) ユーザーインターフェース

  • マルチチャネル対応
    Webサイト、モバイルアプリ、SNSチャットなど、多様なチャネルで一貫した顧客エージェント体験を提供します。

  • 対話型UI/音声インターフェース
    将来的にはスマートスピーカーやチャットボットを介して、自然言語で細かい要望を伝えられるようになるでしょう。

  • プライバシー・オプトイン設計
    「どのデータを、どの範囲で使うのか」を顧客が簡単に設定・変更できるようにし、安心感を与えます。


顧客エージェント VS 従来型(企業)エージェント

1. データの管理主体の違い

  • 顧客エージェント
    顧客自身が「どのようなデータを、どの範囲で使ってほしいか」を決定し、そのデータをもとに提案を受ける。顧客の嗜好や価値観が最初から明示的に定義されているため、「自分が本当に欲しい情報」を受け取りやすい。

  • 従来型(企業)エージェント
    企業側が顧客データを所有・管理し、一方的に分析してマーケティングを行う。顧客にとってはブラックボックスに近い仕組みであり、「企業にどう見られているか」がわかりにくいまま商品を提案されることが多い。

体験の違い

従来型の場合、企業のロジックに沿って「これを買ってください」というメッセージが届く印象が強い。一方、顧客エージェントの場合は、顧客の許可したデータのみをAIが用いて提案するため、「自分がコントロールしている」という安心感と納得感が得られる。


2. レコメンド内容とタイミングの違い

  • 顧客エージェント
    顧客の嗜好や条件(予算、頻度、サステナビリティへの配慮など)を事前に登録し、それをAIが継続的に学習する。購入や検討をしたいタイミングで「自分に合った」提案が来るため、過剰な通知や余計なオファーが少なく、ストレスを感じにくい。

  • 従来型(企業)エージェント
    企業が設定したKPI(売上、キャンペーン参加率など)を達成するために、時期や頻度を決めて顧客にアプローチする。顧客にとってはタイミングが合わない時でも通知が来たり、興味のない商品が頻繁に提案されたりして煩わしく感じることも多い。

体験の違い

顧客エージェントの場合は、顧客に必要とされるタイミングを優先し、自分のコンテキストに合った提案だけが届くので「押し付けられている感覚」が薄い。逆に企業エージェントは、「売り手の都合」が前面に出がちなため、顧客が操作を誤解したり、鬱陶しさを感じる確率が高い。


3. 提案の透明性と安心感

  • 顧客エージェント
    「なぜその提案を行うのか」を、AIが顧客の視点で説明できる。たとえば「過去に〇〇を購入しており、現在〇〇への関心が高いと判断したので、この商品を優先表示しています」という具合だ。顧客は自分の意思やデータがどのように使われたかを把握しやすい。

  • 従来型(企業)エージェント
    企業のアルゴリズムはブラックボックスになりやすく、どのような基準で「おすすめ」と表示されたかが不明な場合が多い。顧客には「企業が勝手にレコメンドしている」という印象だけが残り、理由を把握できないため不信感につながるリスクがある。

体験の違い

顧客エージェントでは、提案の根拠が顧客目線で開示されるため、「自分のデータに基づいて必要な提案をしてもらっている」という安心感が生まれやすい。一方、企業エージェントは、顧客が「勝手に解析されている」ように感じることが多く、信頼構築に時間がかかる。


4. 選択肢の提示と自己決定感

  • 顧客エージェント
    提示される選択肢はあくまで「顧客が望むゴール」に沿って絞り込まれる。たとえば予算や好みのスタイル、利用目的などを入力しておけば、その条件に適合する商品やサービスがピックアップされ、必要があれば他のオプションも顧客が自分で探せる。

  • 従来型(企業)エージェント
    企業側が強化したい商品や在庫の回転を促したい商品が、レコメンドで優先されることがある。顧客の好みや利用目的とはややズレがあっても、「企業が推したいラインナップ」が前面に出る形になりがちだ。

体験の違い

顧客エージェントでは、顧客が「自分で選択している」感覚を持ちやすい。企業エージェントでは、「おすすめされた選択肢から選ぶ」だけで、自分の意思決定がどこまで反映されているのか見えにくい場合がある。


5. フィードバックループによる学習の違い

  • 顧客エージェント
    顧客の反応(購入した・購入しなかった・興味を示した…など)を、顧客にも見える形で継続的に学習する。顧客は「この提案はなぜ当たった/外れたのか」を理解し、条件を微調整できる。AI側もそれを吸収し、より精度の高い提案が可能になる。

  • 従来型(企業)エージェント
    企業の方でデータを集約し、次回以降のキャンペーンやレコメンドに活用するという流れが中心で、顧客はその学習プロセスに関与しにくい。「どう学習され、改善されていくか」が可視化されないため、自分の意見や利用状況がどれだけ反映されているか実感しにくい。

体験の違い

顧客エージェントは、「顧客と企業の共同作業」として学習が行われ、提案内容がアップデートされていく。結果、「自分のリクエストが反映され、どんどん快適な体験になる」というポジティブな感覚が生まれやすい。従来型では、顧客はただのデータ提供源にとどまりがちで、どのような変化が起きているかが見えづらい。


6. 最終的な顧客満足度・信頼関係

  • 顧客エージェント
    顧客が自らの意思でデータを提供・管理し、提案の背景を理解したうえで購入につながるため、納得感が高い。企業と顧客は対等に近い関係を築きやすく、ロイヤルティやLTVの向上が期待できる。

  • 従来型(企業)エージェント
    購買やサービス利用が顧客の意思決定というより、企業の仕掛けたシナリオに乗せられた結果になりやすい。結果として、「なんとなく買ってしまった」「うまく誘導された」という印象を持つ顧客もおり、長期的な信頼関係に結びつかない可能性が高い。

体験の違い

顧客エージェントでは、顧客が「自分の意思決定が尊重された」と感じるため、購入後も高い満足度を維持しやすい。従来型の企業エージェントでは、購入時の心理的な負荷や不信感が大きくなりやすく、結果的に返品や解約、低評価レビューにつながるリスクが高まる。


まとめ

顧客エージェントと従来型(企業)エージェントの最大の違いは、**「誰が主導権を握っているか」にある。従来型は企業側が顧客データを分析し、一方的にマーケティング施策を行うため、顧客は受動的な体験をしがちだ。これに対して顧客エージェントは、顧客がデータや条件を能動的に設定し、それをAIが学習することでパーソナライズ度の高い提案を行う。結果的に、「自分のニーズや価値観を尊重してもらえている」**という納得感や安心感が得られ、企業と顧客の間により深い信頼関係が育まれやすいのが特徴である。


専門用語解説

  • CRM(Customer Relationship Management)
    顧客情報や購買履歴などを管理し、マーケティングや営業活動を効率化するための仕組み。顧客との関係をより良くするために利用される。

  • DMP(Data Management Platform)
    ウェブや広告配信、SNSなど多様なチャネルから集めたデータを一元管理・分析するための基盤。オンライン広告や顧客ターゲティングに活用されることが多い。

  • CDP(Customer Data Platform)
    顧客データをリアルタイムで収集し、IDベースで統合・分析するプラットフォーム。企業が自社内で顧客データを管理し、パーソナライズ施策などを実行するために用いられる。

  • GDPR(EU一般データ保護規則)
    EU圏内で施行されている個人データ保護に関する包括的な規則。企業が顧客の個人情報を扱う際のルールを定めたもので、世界各国に大きな影響を与えた。

  • プライベートDMP・CDP
    企業が自社独自に保持・管理するデータ管理基盤。パブリックDMPに比べて自社オリジナルの顧客データを中心に活用する点が特徴。

  • ロボアドバイザー
    投資家のリスク許容度や目標をヒアリングし、それに合わせた資産運用プランを自動提案するサービス。金融業界でのAI活用の代表的事例。

  • LTV(ライフタイムバリュー)
    顧客がある企業やブランドに対して、生涯を通じてどれだけの利益をもたらすかを示す指標。サブスクビジネスで特に重要視される。

  • CAC(Customer Acquisition Cost)
    新規顧客を獲得するために要するコストを、1人あたりや1件あたりで算出したもの。広告費や人件費などが含まれる。

  • NLG(自然言語生成)
    コンピュータが人間の言語を生成する技術。チャットボットや文章作成エンジンに活用される。


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