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#116「いつの間にか“ツケ払い”だらけ? 見えないお金が世界を変える――BNPL・埋め込み金融・AIエージェントの行方」
デデデータ!!〜“あきない”データの話〜第82回「金融業界における「お金」の見え方が変わる──データがもたらす三つの変化」の台本の話の台本・書き起こしをベースに、テキストのみで楽しめるようにnote用に再構成したものです。
見えなくなっていく金融:インビジブル・ファイナンスの世界
お金の姿がここ数年で変わりつつある。キャッシュレスの普及、BNPL(Buy Now Pay Later)の急拡大、サブスクの全盛――いまや「いつ支払っているのか」を意識しにくいサービスが無数に登場している。しかも、その裏側ではビッグデータとAIが猛烈なスピードで働いていて、人の与信をリアルタイムに評価したり、レコメンドをしたり、あらゆる支払いを自動化したりしている。
私は、この現象を「インビジブル・ファイナンス(Invisible Finance)」という言葉で捉えている。
「デジタルが生む“見えないお金の世界”」と聞くと、SFみたいに感じるかもしれないが、実は誰でも普段から使っている。
たとえば「タッチ決済」で改札を一瞬で通り抜けるとか、NetflixやSpotifyのサブスクが毎月何千円か引き落とされているとか、Amazonでの買い物で後払いを選択するとか――これらの積み重ねで、気づくと財布の現金がほとんど減っていない一方、口座やカード明細をのぞけば引き落としだらけ、というわけだ。
今回は、そうした変化を「キャッシュレス/サブスク/BNPL」「埋め込み型金融」「AI与信とマイクロファイナンス」という三つの視点から概観しながら、2030年以降のAIエージェントの未来像までを描いてみる。
そこから見えるのは、もはやお金が生活の裏側へ溶け込むだけでなく、金融サービスがいつの間にか自分の行動や経済を管理してくれる世界かもしれない。
「インビジブル・ファイナンス」の急先鋒BNPL
BNPL(Buy Now Pay Later)。日本でもPaidyやメルペイスマート払いなどが知られているが、世界規模で見るとKlarna(欧州)やAffirm(米国)などが成長著しい。従来の「後払い」とどこが違うのか。いちばん大きいのは「決済ごとのリアルタイム審査」が行われる点だ。
クレジットカードの場合、入会時の審査に通れば与信枠が決まり、その範囲で決済できる。だがBNPLは、買い物ごとにユーザーの過去の支払い履歴やネット上の行動などをAIが即座に分析し、数秒でOK/NGを出す。だから短期分割でも「金利ゼロ」のようなお得感を実現できるし、利用者も気軽に使いやすい。
ある大学生が3万円のヘッドホンをBNPLで買った瞬間、裏側では「同年代の過去遅延率を照合」「SNSの公開情報から行動パターンを推定」「既存のEC購入歴をチェック」……といったデータ解析が走る。結果的に「この人はだいたい90%以上遅延しないだろう」と判断されれば承認。これが5分どころか1分、あるいは数秒で決まるわけだ。
利用者にとっては「あまり審査された感覚がない」のが特徴だ。気づいたら支払い手続きが通っているし、金利や手数料は低いかゼロ。これはとても便利だが、同時に支払い意識が薄れる危うさも内包する。あるいは「こんなに分割払いが増えて大丈夫なのか」と思う人もいるだろう。そういう意味では、インビジブル化が生む恩恵と危うさは表裏一体である。
お金が埋め込まれる世界:ECや法人カードにも広がる
BNPLは個人利用のイメージが強いが、埋め込み型金融(エンベデッド・ファイナンス)は法人にも広がっている。
たとえば「バーチャルクレジットカード」を部署やメンバー単位で瞬時に発行し、経費管理まで自動化するサービスだ。私はスタートアップを経営しているが、一人ひとりが別のカード番号を使って決済すれば、誰が何に使ったのかリアルタイムに可視化される。従来は経理が月末にカード明細を取り寄せて、一個一個「これは何だ?」と調べなければいけなかったのが、大幅に省力化できる。
バーチャルカードの背後では、もちろんAIが不正利用をチェックしたり、決済と同時に会計ソフトへデータを流し込んだりしている。これも「お金の動き」がシステムに埋め込まれることで、手間なく決済が終わり、手間なく経費精算が済む。気づけば決済管理・経費承認・予算管理・内部統制のプロセスがDXしているわけだ。
ECプラットフォームでも、ShopifyやAmazonが自社出店者向けに融資(Shopify Capital、Amazon Lending)を展開している。売上履歴や在庫回転率をAIが読み取り、「今あなたにはこのくらい貸せる」という提案がダッシュボードに出る。事業者側はあえて銀行へ足を運ばずとも追加資金を手に入れ、そのまま在庫仕入れに回せる。ECと金融が渾然一体となり、中小企業のキャッシュフローを支える時代なのだ。
新興国のマイクロファイナンスに潜むイノベーション
先進国だけでなく、アフリカをはじめとする新興国でのマイクロファイナンスも熱い。ケニアのM-Pesaは銀行口座を持たない人でもモバイルマネーを使えるサービスとして大成功を収めたが、近年はそこにAIが加わっている。電気代や水道代の支払い実績、位置情報、端末の通話履歴までを総合的にスコアリングし、少額の融資が即時にOKされる例が増えている。
興味深いのは、「家畜をIoTで管理し、そのデータを与信に使う」という事例もあることだ。ヤギや牛の健康状態、ミルクの生産量をセンサーで測定し、それが貸し倒れリスクの低さを示す材料になる。普通なら銀行が「あなたはどこで働いてる? 年収はいくら? 担保は?」と聞いて回るところを、家畜データという“別の信用力”を活用して融資を決めるわけだ。結果として、多くの人が初めて正式な金融サービスへアクセスできる。これこそデータが生み出す新しい金融包摂の形だろう。
支払いが“見えない”時代のリテラシーはどう変わるか
インビジブル化のメリットばかりを語るのは簡単だが、私は「じゃあ自分がお金を払いすぎないか?」という問題にも注目している。たとえば毎月どれくらいサブスクに払っているか即答できる人は少ないだろうし、BNPLで分割払いをバラバラに組むと合計額が分かりづらくなる。ササッと買えるのは良いが、あとから未払い分がどっと重なる可能性もある。
実際「便利すぎる」と、請求書を後で見て驚くケースもある。AIは単に“貸してくれる”だけではなく、家計の可視化や節約のアドバイスも提示してくれるはずだが、そこまで活用している人は少数かもしれない。言い換えれば、“インビジブル化”を受け入れるなら、自分からAIレコメンドを活かしていかないとマネーリテラシーが追いつかない可能性がある。
保険やサービスも気づかないうちにセットでついてくる
埋め込み型金融は保険分野でもユニークだ。たとえばピザの宅配が遅延したとき、ワンクリックで適用される遅延保険がある。20分を過ぎたら自動的に半額になる仕組みで、裏側では「過去の配達データから遅延確率を算出→保険料金を数十円に設定→宅配が遅れた場合、保険金がEC事業者に支払われる」という流れが構築されている。利用者はまったく保険の存在を意識しないが、“安心”だけは享受している。
旅行サイトでは、最後のステップで「キャンセル補償付きプランに切り替えませんか?」というメッセージを目にすることも増えている。ここでもAIが渡航先や時期、ユーザー属性を考慮して、最適な補償プランをレコメンドする。これが当たり前に進むと、保険加入そのものが行動に紐づいて自動で発生するような世界になるかもしれない。
AIエージェントが家計や企業財務を丸ごと管理する未来
こうして「どんな支払いでもデータが裏で動き、いつの間にか決済とリスク管理が終わっている」状況が加速すると、次は何が起こるか。
私は「AIエージェントが家計や財務を自動で動かす世界」がやってくると考えている。たとえば家計簿アプリと連携し、銀行口座や証券口座のデータをすべてAIがリアルタイム分析。子どもの進学や住宅購入のタイミングを予測し、「今から貯蓄を増やしておきましょう」と提案する。あるいは生活費の支払い履歴から「電気代が上昇傾向なので、別のプランへ乗り換えを推奨」など、細かいところまで自動アドバイスが届く。
企業財務の世界でも、各種APIを使って会計ソフトと銀行が24時間同期し、キャッシュフローを常に監視。経営者が寝ている間にAIエージェントが「来月は資金繰りが逼迫しそうなので、融資を申し込みますか?」と提案してくれるかもしれない。すべてがデジタル化されていれば、社内承認まで含めて即時に完了。もちろん、その裏には不正検知モデルが動いていて、おかしな資金移動をブロックする。ここまで徹底すると、会社のお金はほぼ放っておいても回り続ける。
責任は誰が取る? AI時代の金融リスク
とはいえ、AIがすべてやるなら「投資に失敗したらどうなる?」「融資を受けすぎたら?」という問題も浮上する。自動化は便利だが、失敗時の責任の所在が不透明になりがちだ。ビッグデータが誤った推定をしてしまえば、個人が一生背負う大きな借金を抱えるリスクもゼロではない。さらに「アルゴリズムバイアス」が潜めば、特定の属性の人だけ融資が通りにくくなったり、保険料金が高くなったりする危険もある。
お金の世界にAIが深く入り込むほど、法律や規制はどう整えるか、誰が監査をするか、どこまで技術を信頼するか――そうした議論はますます必要になる。便利な新サービスの裏には、必ず倫理やプライバシー、社会的責任が絡んでくるわけだ。
“信用”と“契約”の概念はどう変わる?
最後に「信用」や「契約」がどう変わるかにも触れておきたい。銀行が黙認していた“水道代の支払い実績”や“家畜のIoTデータ”といったものが与信を左右する時代になれば、「信用できる人の基準」がぐっと広がる可能性がある。もしかしたら、いままでは見落としていた優良顧客が大量に世の中にいたのかもしれない。
一方で、「SNSの行動を常に監視されている」という圧力を感じる人もいるだろう。従来なら銀行から「あなたの信用は〇〇点です」と突きつけられるだけだったが、これからはどんなデータもスコアリングに使われるかもしれない。そうなると、契約とは何か、信用とは何か――その根本から問い直す大きなうねりが来ると感じている。
「お金は“見えない”方が便利だし、データ活用で与信や支払いがスピーディーになるのは素晴らしい。一方で、見えないからこそのリスク、AIによる過度な自動化のリスクもある」というのが私の結論だ。もはや不可逆的に広がっているインビジブル・ファイナンスの潮流は、個人のマネーリテラシーや企業の財務管理スタイルに大きな変化をもたらす。
ちょっと前までは「キャッシュレス後進国」と呼ばれた日本も、気づくとクレジットカードやコード決済だけでなく、BNPLやエンベデッド金融が着実に浸透しつつある。スマホ一台で融資の審査が終わり、大企業に勤めていなくても“ちゃんと支払いしてる”実績さえあれば十分信用が得られる。そう考えると、長い目で見れば金融サービスの“開かれた可能性”は世界中に広がっている。
お金はなくならないが、お金の姿が変わることで、われわれの信用や契約、リスクの取り方が進化するのは間違いない。BNPL、埋め込み型金融、マイクロファイナンス、AIエージェント――この四拍子で、2030年までには「いつの間にか支払いや投資が最適化されている」世界が見えてくるだろう。それが希望か恐怖かは、人それぞれの使い方次第だ。
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資料: 新時代の金融サービス詳細解説
金融テクノロジー(フィンテック)の進化がめざましい。従来の銀行やクレジットカードを通した決済が当たり前だった時代から、今や「後払い(BNPL)」や「埋め込み金融(エンベデッド・ファイナンス)」、「マイクロファイナンス×AI」といった新しい金融サービスが急速に普及している。ここでは、世界各地での最新事例をもとに、それぞれの特徴をまとめてみる。
1. Buy Now Pay Later(BNPL)事例
Paidy(日本)
決済ごとにリアルタイム審査を行う「あと払い」サービス
手数料ゼロ円の短期分割オプションを用意
クレジットカードを持たない層にも利用が拡大している
加盟店にとっては新たな売上機会を創出
Paidyは、日本特有の“現金志向”が根強い市場にも受け入れられ、若年層のユーザーを中心に急速に拡大した。2021年9月、PayPalに買収されたことでも話題を集めている。短期分割が手数料ゼロという使いやすさは消費者にとって大きな魅力だろう。
Klarna(スウェーデン)
欧米を中心にユーザー基盤を拡大したBNPL大手
「後払い」や「分割払い」をECサイトと連携して表示
リアルタイムで購入履歴・返済履歴などをAI分析
2~4回払いなど短期分割中心
Klarnaは、顧客の購入データや支払い履歴をAIで分析し、審査を実施している。スウェーデン発のスタートアップでありながら、欧州や米国でも大手ECと提携を進め、世界的な後払いブームを牽引している存在だ。近年は規模拡大の一方、審査の甘さや過剰利用などの問題が指摘され、各国で規制強化が進むなど、市場環境は変化している。
Affirm(米国)
家電や旅行など高額商材も分割払いが可能
即時審査で利用可能額や金利を提示
従来のクレジットスコア以外の行動データも参照
EC事業者向けにレポーティング機能を提供
Affirmは、クレジットカードを持たない消費者向けの分割払いプランをインターネット上でシームレスに提供する。高額決済向けにも対応可能な設計が特徴だ。米国ではAmazonなど大手ECとの連携も進み、BNPLの活用範囲がさらに拡大している。
2. エンベデッド・ファイナンス(埋め込み型金融)事例
Shopify Capital
Shopify上のEC出店者に対して売上データなどをもとに融資
ダッシュボード上でオファーを確認し、承認後は売上から返済を自動天引き
小規模ECでも銀行を経由せず追加資金を調達できる
Shopifyは中小EC事業者を多数抱えており、それらの販売データを基にした独自融資サービスが「Shopify Capital」である。売上の一部を返済にあてる仕組みのため、キャッシュフロー管理がシンプルな点がメリット。Shopifyはさらに決済サービス、ウォレット機能なども展開し、ECプラットフォームに金融サービスを組み込む典型的な例となっている。
Amazon Lending
Amazon出品者向け融資サービス
販売実績や在庫回転率、レビュー情報などをAIで分析
借り入れ金は売上からの差し引きで返済
Amazon Seller Centralからワンクリックで申し込み可能
Amazon市場内での実績データを基にスコアリングを実施し、一定の水準に達した出品者には低金利の融資を提供している(地域や時期により条件は異なる)。出品者にとってはビジネス拡大のための資金が手軽に得られ、Amazonとしては優良セラーを支援できる仕組みだ。
Brex / Ramp(法人カード)
部門・従業員ごとにバーチャルクレカを即時発行
利用上限やカテゴリ制限を柔軟に設定
リアルタイムで支出を会計ソフトと連携し経費管理を自動化
AIが不正利用や重複契約を検知
SaaS型の法人カードサービスは、スタートアップを中心に急拡大している。BrexやRampは特に米国のテック企業から高い支持を得ており、経費管理の効率化や与信のスピード感は、従来の銀行が提供していたビジネスローンやカードサービスとは大きく異なる体験をもたらしている。
3. マイクロファイナンス(新興国での少額融資×AI)事例
M-Pesa(ケニア)
携帯電話のSMSで送金・決済ができる仕組み
銀行口座不要で、地方の農家や個人事業主も利用可能
サービス上の取引データを基に小口融資へ発展(M-Shwariなど)
M-Pesaは2007年にケニアで始まったモバイル送金サービスで、多くの人々が「銀行口座を持たずとも携帯電話でお金をやりとりできる」という革命を体感した。現在はサブサービスとしてM-Shwariなどの融資機能があり、ケニアのGDPの大部分がM-Pesa上を流通しているといわれるほどだ。
Tala / Branch(アプリ型ローン、アフリカ・アジア中心)
スマートフォンの利用履歴やソーシャルデータをAIが分析
数十~数百ドルの小口融資を即時審査
返済履歴が良好だと限度額アップ
ケニア、タンザニア、ナイジェリア、フィリピン、インドなどで展開
TalaやBranchはモバイルアプリで完結できるマイクロローンを数分で審査・実行するのが特徴。高い金利を設定しているケースもあるが、それでも従来の闇金融等と比べれば利便性や安全性が高いという評価がある。返済実績を積めば、限度額や条件がどんどん改善されるスキームも多い。
家畜データ融資(IoT活用)
農家の牛やヤギにセンサーを装着し、健康状態や生産量を記録
収集データが“信用力”として評価され、小口融資を受けやすくなる
担保を持たない農家がIoT技術で融資機会を拡大
IoTを用いて家畜の状態や作物の生育状況を可視化し、データをもとに融資審査を行う取り組みがアフリカや東南アジアで行われている。農業生産の予測が立てば、金融機関としても貸し倒れのリスクを算出しやすくなる。こうした「データが担保になる」モデルは、今後さらに広がっていくだろう。
4. インビジブル化した決済・保険・サブスク
タッチ決済(Apple Pay / Google Pay)
端末をかざすだけで精算完了
従来の現金やカード利用と比べ支払意識が希薄に
交通機関やコンビニなど日常利用で普及
タッチ決済は一見地味だが、支払いの「摩擦」を極限まで減らし、使う側が意識しないまま決済を済ませられる。Uberでの配車やSuica等も同様で、「いつ支払ったのか分からない」というレベルで決済がシームレスに行われている。
サブスクリプションの自動支払い(Netflix / Spotify / Amazon Primeなど)
月額課金をクレジットカード・後払いに紐づけ
自動引き落としで利用者は“いつ支払っているか”意識しにくい
何本も契約し、合計額に気づかないケースも増加
サブスクブームは利用者にとって継続的に楽しめる反面、管理を怠ると「使っていないのに課金されている」リスクを抱える。自動課金の便利さは大きな魅力だが、定期的な見直しが欠かせない。
ピザ宅配+遅延保険
配達が○分以上遅れた場合に自動で割引・返金されるサービス
保険会社と宅配事業者がAPI連携し、過去の遅延確率データで保険料を算出
ユーザーはワンクリックで“安心”を買う形
保険に加入している意識も薄いまま、“配達遅延時のペナルティを保証”という仕組みが成立している例だ。ユーザーは知らぬ間に「補償」され、保険の煩わしさを感じない。
旅行キャンセル保険(Expedia / Booking.comなど)
予約時に保険を追加すると、キャンセル時の返金補償が得られる
渡航先や期間、ユーザー属性からAIが保険料を動的算出
ユーザーは決済画面で一括処理、保険加入も“ついで”に済ませる
旅行予約サイトで「キャンセル保険をプラス○円で追加」する流れは、インビジブルな保険の典型例だ。従来の手間をかけた契約プロセスがなくなり、数クリックで完了する。
5. AIエージェントと家計・企業財務の自動化
家計簿アプリ × データ連携(Personeticsなど)
銀行口座やクレジットカード履歴を一括管理
「今月の支出カテゴリ分布」「来月の貯蓄目標」などをAIが自動提案
サブスクの自動解約提案や保険見直しレコメンドなども行う
家計簿アプリは、単に支出を記録するだけでなく、AIが学習して支出の最適化や契約の見直しまで提案してくれる時代に入ってきた。金融リテラシーを自分でつけるのが難しい人でも、ある程度はアプリにお任せできるようになっている。
企業のキャッシュフロー管理
API連携で銀行口座やクレジットカード、会計ソフトを常時同期
AIが資金繰りを予測し「融資を受けたほうがいい」「在庫発注を抑えるべき」などアドバイス
不正取引が疑われる支出があれば即時ブロック
BrexやRampの例が示すように、法人カードや会計ソフトをAI連動させると、経理担当者が手作業でやっていたことを大幅に効率化できる。AIが不正利用を検知してアラートを出す仕組みも、コスト削減の大きな助けだ。
投資や保険の自動購入
ユーザーの支払いパターンやリスク許容度を把握して、最適な投資商品や保険商品を提案・自動購買
AIが継続的に学習し、将来のライフイベントや市場変動に応じてプランを切り替える
ロボアドバイザーのように、投資先を自動でリバランスするサービスはすでに日本でも普及し始めている。今後はライフプランに合わせて必要な保険を自動追加したり、逆に使わなくなった保険を解約する、といったこともAIが勝手にやってくれる時代が来るかもしれない。
おわりに
BNPLからエンベデッド・ファイナンス、マイクロファイナンス、インビジブル決済、AI財務管理まで、近年のフィンテック事例をざっと見てもわかる通り、お金にまつわるサービスは多様化し、さらに「使うのを意識させない」という方向へ向かいつつある。
本来、金融サービスは高度な審査や手続きが必要で、面倒なイメージがつきまとっていた。しかし、デジタル技術やAIの進歩により、ほとんど背景処理で完結し、気づいたら「支払いが終わっていた」「保証が受けられていた」という流れになっている。
便利である一方、ユーザーがどこまで把握しているかが不透明になる可能性もある。支出管理や契約内容の確認など、必要な可視化は適切に行い、消費者は賢く付き合っていく必要があるだろう。企業にとっては新たな収益機会が広がる一方、サービス品質やセキュリティ、規制対応がますます重要になる。
金融がここまで「自然に溶け込む」存在になるのは、まだ道半ばかもしれない。それでも、これらの事例が示すように、世界のフィンテックはユーザー体験の向上と金融包摂の拡大に向けて止まることなく進化を続けている。