#45「判断支援コンシェルジュ / DataStoryLogic四の型 / AIでソートロジックを変え、インパクトを創出するDX企画」
近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉がバズワードとして広く使われている。しかし、その真髄は単なるツールの導入ではなく、業務プロセスや組織文化を含めた根本的な変革にある。AIや機械学習を活用して組織の生産性や品質を高めようとする動きは数多いが、多くの企業が抱えるジレンマとして「どこから手をつけてよいのか分からない」「思ったほど成果が出ずにプロジェクトが頓挫してしまった」という問題がある。
そうした背景の中で、「判断支援コンシェルジュ」というフレームワークを提唱する。データを活用するDX企画の中でも、最も効果が出やすいフレームだからだ。
これは、多岐にわたる業務の中で、優先順位付けや対象の絞り込みといった“選択と決定”を、AI技術によって支援する仕組みを統合的に捉えた考え方である。組織内には多種多様なデータが眠っており、うまく活用すれば意思決定を加速し、生産性を大きく向上できるはずだ。その実装形態はさまざまだが、本質は以下の3点に凝縮される。
予測や分類(スコアリング)を活用して優先度を自動化する
必要に応じて、人間が最終判断するプロセスを残す
結果をフィードバックして継続学習することで精度を高める
この3点を軸にDX企画を考えることで、段階的かつ実務的にAI活用を推進しやすくなる。以下では、この判断支援コンシェルジュを活用したDX企画の立て方や導入ステップ、そして4つの具体例を紹介する。
判断支援コンシェルジュとは何か
判断支援コンシェルジュとは、「大量のデータを用いた優先順位付けや対象絞り込みなどの一連の処理を自動化し、人間の意思決定をサポートするためのフレームワーク」のことを指す。従来、人間がExcelを使ったり、各種ツールを使って手動で行っていた処理を、機械学習モデルやスコアリングシステムに任せるイメージである。
ポイント1:自動化と人間の最終判断の両立
判断支援コンシェルジュは、すべてをAIが勝手に決定するわけではない。実務においては、コンプライアンスや企業文化、顧客との関係性といった数値化が難しい要素が必ずある。したがって、AIが弾き出した優先度やスコアを最終的に採用するかどうかは、人間が責任をもって決めるプロセスを残すのが望ましい。一方で、複雑なロジックや大量データの解析は、機械学習の得意分野である。両者の利点を組み合わせることで、より効率的なオペレーションが実現できる。
ポイント2:継続的な学習サイクル
AI導入は一度限りのイベントではなく、導入後に発生する運用データが宝の山となる。多くの企業では、AI導入時に作ったモデルを放置してしまい、精度が劣化していくケースが少なくない。判断支援コンシェルジュでは、運用した結果得られたデータをフィードバックし、モデルをアップデートしながら最適化を図るサイクルを重視する。これにより、導入初期は期待したほどの成果が出なかったとしても、徐々に制度や仕組みを洗練していくことが可能になる。
ポイント3:スコアリングの可視化と社内波及
最終的には、「優先度が数値として可視化される」ことが非常に重要である。既存の業務フローに自然な形で組み込み、かつ、誰でも「この案件はなぜスコアが高いのか」を把握できるようにしておくことで、担当者レベルや管理者レベルでも納得のある意思決定ができる。こうした可視化が成功すると、他部門でも「うちの業務も優先順位を自動化できるのでは」といった具合に横展開が進みやすくなる。
判断支援コンシェルジュを活用したDX企画立案のステップ
判断支援コンシェルジュの導入を考える際、一般的には以下のようなステップで企画を立てるとスムーズである。
課題の洗い出し
まずは、社内のどの領域で優先順位付けや対象の絞り込みが属人的になっているかを洗い出す。たとえば、営業先のフォロータイミング、顧客問い合わせのリソース配分、メンテナンスの保守計画など、それぞれの部門が「データはあるが、意思決定が煩雑になっている」領域が候補となる。KPIの設定
優先度を自動化することによって何が改善されるのか、その指標(KPI)を明確にする。たとえば顧客満足度(CS)の向上、リードの成約率アップ、メンテナンスコストの削減、回収率の向上など、具体的な成果指標を決める。必要データの確認と収集
AIが優先順位をつけるためには、学習や推論に用いるデータが必要になる。社内に既存のデータがあるのか、ないならどうやって収集するのかを検討する。センサーやIoTデバイスの導入が必要な場合もあれば、すでにCRMやERPに履歴データが溜まっているケースもある。モデルの設計とPoC(概念実証)
過去データを使って、機械学習モデルを作成し、実際にスコアリングの精度を検証する。PoC段階で精度が十分でなくても、改善のためにどのような変数(特徴量)が必要か、どういった追加データがいるかの目星をつけることが重要である。本番環境への組み込みと運用フロー整備
PoCでスコアリングの有用性が確認できたら、本格的に業務フローに組み込み始める。どのタイミングでスコアを生成し、誰がそのスコアを使ってどう判断するのかを明確化する。あわせて、運用後のデータを自動的に学習モデルへフィードバックする仕組みを用意すると、長期的な運用に耐えられる。効果測定と継続的アップデート
最終的に、導入したフレームワークがKPIにどの程度貢献しているかを測定し、継続的にモデルをアップデートするサイクルを回す。運用の中で得られたフィードバックを踏まえ、改善策を練り、さらなる最適化を図る。
具体例1:カスタマーサポートのチケット優先度スコアリング
概要
大手企業のコールセンターやサポート部門には、顧客からの問い合わせが絶え間なく届く。メール・チャット・電話など問い合わせチャネルが増えるにつれ、優先度を人力で判断することが難しくなっている。たとえば、先着順で対応していた結果、本当に深刻なクレームや重大な不満を抱えている顧客を放置してしまい、問題がさらに拡大したというケースもあり得る。
AI導入による変化
テキスト解析と感情分析によるスコアリング
問い合わせ内容を自然言語処理(NLP)で解析し、感情指標を数値化する。過去のクレーム履歴なども踏まえて、「不満の大きさ」や「緊急性」を推定する仕組みを作る。これにより、深刻度の高い問い合わせほど優先度を高く設定できる。担当者/チームの自動振り分け
問い合わせの種類や難易度に応じて、過去の対応履歴を学習し、「この問い合わせは○○チームが得意」「△△担当者が短時間で解決している」という知見をモデルに反映。最適な担当を自動的に提示することで、担当者のアサインミスや負荷偏りを低減する。VIP顧客やSLA順守の加味
重要顧客はスコアを上乗せするなどのルールを設定し、先に対応すべき顧客を自動抽出する。SLA(サービスレベルアグリーメント)違反を未然に防ぐことも可能になる。
効果
初動対応の高速化
優先度の高いチケットが上位に並ぶため、問題の深刻化を防ぎやすくなる。顧客満足度(CS)向上に直結する。オペレーター負荷の平準化
最適な振り分けが行われるため、特定の担当者だけに問い合わせが集中するリスクを軽減できる。結果として、チーム全体の対応効率が上がる。マネジメントの可視化
スコアリング結果や対応状況を可視化することで、マネージャーは優先すべき課題や滞留リスクを早期に把握し、適切な対策を打てる。
具体例2:セールスリード(見込み客)優先度スコアリング
概要
マーケティング部門やインサイドセールス部門には、展示会・ウェブサイト経由で日々多くのリードが集まる。しかし、すべてに同じ熱量でアプローチするのは非効率だ。多くの担当者は自分の経験や直感で優先度をつけてしまいがちだが、データを活用すれば客観的に優先度を算出できる。
AI導入による変化
過去の受注データや行動履歴の学習
過去に成約したリードの属性や行動履歴を学習し、「どのような業種・規模・役職のリードが成約率高いか」「どの程度ウェブページを閲覧したら興味が高いか」といったパターンを抽出する。リアルタイムなスコアリング
新たなリードが来るたびにモデルがスコアを算出し、その瞬間に優先度の高いリードを特定できる。これにより、スピーディなフォローが実現する。メール・電話フォローの自動化
スコアが高い見込み客には重点的に電話やメールを行い、低スコアのリードには自動化されたメールやチャットボットフォローを使うことで、人的リソースを最適配分できる。
効果
フォロー効率の向上と成約率の向上
成約に至る可能性の高いリードに集中するため、時間とコストを無駄にしにくい。結果として売上や成約率の向上に寄与する。リードナーチャリングの自動最適化
スコアに基づいて、どのコンテンツをどのタイミングで提供するかを細かく制御できる。興味が高まった段階で、人間が直接コミュニケーションをとるなど、ハイブリッドな対応が可能になる。データドリブンなセールスマネジメント
スコアが定量データとして可視化されるため、上司や経営層に対しても「なぜこのリードに注力するのか」を説得しやすい。予算配分や営業リソースの再調整も柔軟に行える。
具体例3:メンテナンス業務の優先度スコアリング(製造業・建設業など)
概要
製造業や建設業では、稼働中の機械・設備のメンテナンスをどう計画するかが事業に直結する。従来は経験豊富な技術者が故障リスクを推測していたが、近年はセンサーやIoTデバイスによるデータ収集が普及し、AIによる予測診断が実用段階に入っている。
AI導入による変化
センサーやIoTデータの収集
温度・振動・音響など多様な情報をリアルタイムに取得し、それらの変化パターンを学習する。人間の目視点検では捉えられない微小な異常を検知できる可能性が高まる。異常検知アルゴリズムによる予兆診断
過去に故障したパターンを学習し、同じ兆候が現れたときに「危険度スコア」を算出する。スコアが高い機器や部品を早めに優先してチェックすることで、ダウンタイムを最小化できる。重大度・コスト面を考慮した修繕優先度設定
もし故障が起こった場合の被害額や安全リスクが高い設備は上位に設定するなど、単なる故障確率だけでなく、ビジネス上のインパクトを統合的に評価する仕組みを作る。
効果
重大なトラブルの未然防止
故障リスクが高い設備を先にメンテナンスするため、大きな事故やライン停止が起きる前に手を打てる。ダウンタイム削減や安全確保に直結する。メンテナンスリソースの適正配分
保守担当者のスケジュールを適切に組めるようになる。緊急修繕への対応が減るため、計画的な保守によりコスト削減も見込める。予防保全の最適化
故障しそうな部品のみ早期交換するなど、部品寿命の延長と在庫管理の最適化が進む。結果として設備全体の寿命を伸ばすことが可能になる。
具体例4:請求・債権管理の優先度スコアリング(金融・小売など)
概要
金融機関や小売・サブスクビジネスでは、毎月大量の請求が発生する。期限を過ぎても支払いがない顧客には督促を行う必要があるが、全員に同じ連絡をしているとコストがかさむうえ、回収率も最適化されない。AIによるリスクスコアリングを活用すれば、どの債権に優先して注力すべきかを明確にできる。
AI導入による変化
支払い履歴や顧客属性の分析
過去にどういう顧客がどの程度の遅延を起こし、回収率がどうだったかを学習し、支払い意志・能力の見込みを推定する。最適な督促方法・タイミングの提案
電話やメール、書面通知などの接触手段、連絡する時間帯をスコアに基づいて決定。人手をかけるべき債権と自動督促ツールに任せるべき債権を仕分けすることで、督促業務の効率化が進む。リスクスコアに応じた社内ワークフロー
リスクが高い顧客に対しては法務部門へのエスカレーションを早めるなど、社内ルールを自動的に適用することも可能になる。
効果
回収率の向上
重点的にアプローチすべき顧客を優先し、入金機会を高める。結果としてキャッシュフローも改善する。督促対応コストの削減
優先度の低い顧客には自動化された手段で連絡を行い、人間の工数を最小限に抑える。高リスク案件に人的リソースを充てることで効果が上がる。顧客体験の維持
“たまたま支払いが遅れただけ”の顧客を過剰に追い回さないなど、適切なコミュニケーションを図ることでブランドイメージの毀損を防ぐ。
優先度を変えるだけでインパクトを生み出す
判断支援コンシェルジュというフレームワークは、さまざまな業務領域における「選択と決定」をサポートするための統合的な考え方である。特にデータが大量に存在する企業や、属人的な優先順位決定がボトルネックになっている現場では、導入することで劇的な生産性向上が期待できる。
一方で、導入にはいくつか注意点もある。たとえば、データを適切に整備・収集するための基盤構築が必要だったり、社内の理解を得るためにPoCを小さく始めて徐々に範囲を拡大する戦略が求められる。また、導入後は運用データを継続的にフィードバックし、モデルのバージョンアップを怠らないことが重要だ。
AIがすべてを決定してしまうのではなく、あくまでも人間の判断をサポートするコンシェルジュという位置付けにすると、現場からの反発も少なくなる。業務プロセスの一部をAIが担い、最終的な判断は人間がコントロールする形が多くのケースで適切だろう。
DXを推進する上で、意思決定プロセスにフォーカスすることは非常に重要だ。なぜなら、企業のリソースには限りがあり、「どれを優先し、どこに資金や人材を投下するか」がビジネスの成否を大きく左右するからである。判断支援コンシェルジュは、その意思決定をより正しく、より高速に行うための基盤として機能する。これからDX企画を立てる際は、ぜひこのフレームワークを参考に、自社の優先度設定や判断プロセスを見直してみてほしい。
機能解説
判断支援コンシェルジュとは、「膨大なデータを収集・分析し、優先度や対象を自動的に絞り込むことで、人間の意思決定をサポートする統合フレームワーク」のことである。たとえば以下のような機能が該当する。
予測・判別
AI(機械学習モデル)が与えられたデータをもとに、未来の結果やカテゴリーを確率的に予想する。スコアリング(ランク分け)
予測結果を数値(スコア)として可視化し、優先度や重大度の順番を明確にする。自動タグ付け
テキスト解析や属性分析により注意すべきキーワードを抽出し、強調表示して人間の意思決定をサポートする。
判断支援コンシェルジュが目指すのは、「すべてをAIが決める」のではなく、「最終判断は人間が行うが、その手前の複雑な条件整理や優先順位付けをAIが補助する」という形である。実務上、コンプライアンスや社内ルール、企業文化など数値化しづらい要素を考慮する必要があるため、人間の役割は依然として残る。一方で、データを大量かつ高速に処理して最適解を提示する部分は、AIが担うのが合理的といえる。
技術的な補足:データベースソートと機械学習(ロジスティック回帰)のスコアリング
データベースソートの基本概念
企業が使う顧客管理(CRM)や在庫管理などのシステムでは、ExcelやSQLなどを用いてよく「ソート(並び替え)」を行う。たとえば「売上が高い順」「在庫残数が少ない順」といった並び替えだ。これは人間が指定した単一の条件(または複数条件の優先度)に基づくルールベースのソートである。
機械学習スコアリングの考え方
AIや機械学習では、ルールベースではなく「学習モデルが導き出した確率や重み」を使って、スコア(得点)を与える。典型的なアルゴリズムの一つがロジスティック回帰である。ロジスティック回帰とは、ある結果(たとえば「契約成立」「故障発生」「支払いが滞納する」など)の確率を0〜1の間で算出するモデルだ。
特徴量(説明変数)
ロジスティック回帰が扱う入力データ(例:顧客の年齢、購買履歴、閲覧ページ数、機器の温度など)目的変数(ターゲット)
二値(例:契約に至る・至らない、故障する・しない)や多値分類の場合は、目的変数を複数に設定するケースもある
学習によって得られた回帰係数を使い、新規のデータに対して「どのくらいの確率で○○になるか」を予測し、それをスコア化する。従来のデータベースソートは静的な条件指定にとどまるが、機械学習スコアリングは過去の実績を踏まえた確率値に基づく動的な並び替えという点が大きく異なる。
PDCAを回す仕組み
機械学習を導入したあと、その予測が的中したかどうか(実際に契約成立したか、事故が発生したかなど)という新たなデータが蓄積していく。これを再び学習モデルに取り込み、回帰係数をアップデートすることで、徐々に精度を高められる。つまり、「予測(Plan)→実務運用(Do)→結果検証(Check)→モデル改修(Act)」という一連のPDCAが、スコアリングシステムを使った業務フローの中で自然に回る。これが判断支援コンシェルジュの最大の強みでもある。
採用管理の優先度スコアリング導入企画書
1. プロジェクト概要
1.1 背景
新卒・中途問わず、人気求人では応募者が一度に大量に集まるが、採用担当者が「優先度の高い応募者」を早期に見極める基準が明確でない。
応募者の書類審査は担当者による属人的な判断に頼ることが多く、見落としや判断ブレが発生している。
応募から面接設定までのリードタイムが長いと、優秀人材が他社に流れてしまうリスクが高まる。
1.2 企画のねらい
判断支援コンシェルジュの仕組みを用いて、応募者の優先度スコアを自動で算出し、人事担当が短時間で候補者をスクリーニングできる状態を作る。
「どの応募者から先に連絡・面接調整すべきか」を明確にし、採用効率・クオリティを高めると同時に、見落としや書類選考の偏りを防ぐ。
採用管理システムと連携し、PDCAサイクルを回してモデル精度を継続的に高めることで、採用コスト削減や優秀人材の内定確率向上を狙う。
2. 対象業務とスコープ
2.1 対象業務
採用管理業務全般(新卒採用・中途採用)
具体的には「応募受付」「書類選考」「一次面接設定」までのプロセスを対象とし、優先度スコアリングを導入する。
今回はあくまでも書類選考~一次面接への“トリアージ”を主眼に置く。
2.2 スコープ
データ連携
自社の採用管理システム(ATS)から応募情報を取得する。
候補者の基本属性(学歴・年齢・職歴など)やエントリーシートのテキストを抽出。
過去の採用実績データ(応募→内定→入社→定着)も参照する。
スコアリングモデル開発
ロジスティック回帰を中心に、必要に応じて決定木モデルなども検証する。
書類審査の通過率や内定確率を0~1の確率(スコア)で算出する。
可視化・レポーティング
採用担当者のダッシュボード上で、リアルタイムに候補者の優先度を表示。
担当者はスコアが高い順に書類チェック・連絡を実施可能にする。
3. 導入メリット
優秀人材の確保率向上
スコアが高い応募者に対して早期連絡・早期面接を行うことで、他社に流れる前に内定までのプロセスをスピードアップできる。書類選考の効率化
担当者が書類を一件ずつ精読する必要がなくなり、日々の書類審査時間を大幅削減できる。選考基準の客観化・標準化
属人的だった採用判断をデータドリブン化し、評価軸のブレや漏れを防止。採用コストの削減
採用エージェント頼みの状況から、自社内で効果的に候補者を“発掘”・“育成”し、内定率を高めることで、エージェントフィーや広告費を最適化できる。ブランディング・候補者体験向上
連絡が早くスムーズな選考は候補者からの印象も向上し、内定承諾率アップにも寄与する。
4. システム全体像とワークフロー
ATSから応募データを取得
定期的(あるいはリアルタイム)に応募情報をスコアリングエンジンへ送信
スコアリングエンジンで自動採点
学習済みのモデルを用いて「通過確率」「内定確率」などを数値化
ダッシュボード・通知機能
スコアが高い応募者をリスト上位に表示し、担当者にメール通知などを行う
担当者の実アクション
担当者は上位応募者から書類審査を行い、面接設定などに移す
評価フィードバックとモデルアップデート
実際の面接結果や入社率をモデルに再学習させ、精度を高める
5. 技術的アプローチ
5.1 データ構造
応募者属性
年齢、学歴、職歴、希望ポジションなどの基本情報
テキスト情報
志望動機、自己PR、スキル要約
行動データ(応相談)
応募フォーム入力タイミング、閲覧ページ数、応募前の企業HP滞在時間など(トラッキングできる場合)
5.2 スコアリング手法
ロジスティック回帰
“採用成功(内定&入社)”を1、“不採用または辞退”を0とした二値分類の確率予測。
シンプルかつ解釈性が高いというメリットがある。
テキスト解析(NLP)
志望動機や自己PRの内容を形態素解析・ベクトル化し、ポジティブ/ネガティブワードの出現頻度や文章構造をモデルに取り込む。
PDCAサイクルの実装
面接結果(一次合格/二次合格/最終合格/内定辞退など)を収集し、月次または四半期ごとにモデルを再学習。
5.3 データベースソートとの違い
従来のDBソート:
「最終学歴順」「職歴年数順」などのルールベース
機械学習スコアリング:
過去の合格実績と照らし合わせた“採用確率”を自動計算
多変量を総合考慮して“合格の可能性”を定量的に示す
6. 導入ステップとスケジュール
1. データ準備
1ヶ月
- 過去の応募データのクリーニング
- 欠損値やラベル(合否結果)整合性確認
2. PoC開発
1〜2ヶ月
- ロジスティック回帰モデルの試作・検証
- テキスト解析(NLP)のテスト実装
3. システム連携
2〜3ヶ月
- ATSからのデータ連携API開発
- スコアリングエンジン&ダッシュボードのUI設計
4. 運用テスト
1ヶ月
- 実際の応募者データを用いたトライアル
- 担当者フィードバックを受けUI改修
5. 本番稼働
以降継続
- PDCA運用
- 面接結果の再学習
- 精度レポート作成と改善提案
7. 期待効果(ROI試算)
7.1 投資コスト
450万円(初年度目安)
7.2 リターン例
工数削減効果
書類選考が月300件→スコア上位50件を優先精査し、残りはざっと確認する運用に変更
1件あたり平均10分を5分に削減 → 月300×(10-5)分 = 1,500分(25時間)/月 → 年間で約300時間の削減
時給3,000円換算で約90万円/年のコスト削減
採用成功率向上
早期アプローチで優秀人材の内定獲得率を上げ、年間5人分の採用成功(1人あたり年間生産性100万円相当の価値を想定) → 500万円相当の価値創出
内定辞退率の低下
スコアに基づくフォローアップが効果を発揮 → 辞退リスクが高そうな候補者には面接後のフォローを強化し、辞退率2%減 → 年間採用目標100名中2名の余計な取りこぼし回避 → およそ200万円相当の価値
7.3 ROI試算
リターン(年間合計イメージ):
工数削減:90万円
採用成功率向上:500万円
内定辞退率低下:200万円
合計:790万円/年
投資コスト:450万円/年
ROI = ((790 - 450) / 450) × 100% ≈ 75%
※数値はあくまでもサンプルであり、実際は企業の募集規模・採用単価などに依存する。
8. リスク・課題
データ品質・データ量の不足
過去の応募データに抜けや重複がある場合、学習精度が低下する。
モデルの過学習・偏り
特定の属性に偏った判定が行われないよう、バイアスチェックや公平性の確保が必要。
担当者の抵抗感
「AIに頼りすぎると人を見る目を失う」という懸念など、変革に伴う社内合意形成が必須。
システム連携の難度
既存採用管理システム(ATS)がクローズドな場合は、APIの整備やシステム改修にコストがかかる可能性。
9. 今後の展開
運用開始後のPDCA
毎月・四半期ごとにモデル精度を確認し、面接通過率や内定率などの実績データを再学習へ反映する。
担当者への定期ヒアリングも実施し、UI改善やアラート機能強化などを検討する。
応募者行動分析の高度化
Webサイトでの行動解析やSNSエンゲージメントを取り入れ、スコアリングをさらに精緻化する。
関連部門への波及
入社後の評価・配置などにも拡張し、「入社後の活躍度」を予測するモデル開発につなげる。
10. まとめ
本企画は、判断支援コンシェルジュの枠組みを利用して、人事部門における採用管理プロセスを「データドリブン」に変革するものである。ロジスティック回帰を中心とした機械学習モデルを構築し、書類選考・面接設定の優先度を可視化・自動化することで、以下の効果が期待できる。
優秀人材の早期確保
書類選考・アプローチ工数の大幅削減
採用基準の客観化と不公平感の是正
内定率・承諾率の向上による採用コスト抑制
初期投資に対するROIは、短期的な工数削減や内定率向上だけでなく、長期的には企業のブランド価値や人材活躍度にまで波及する可能性がある。今後はPoCを通して詳細なデータを収集・検証し、着実にシステム連携と運用設計を進めていくことが成功のカギとなる。組織としては、人事担当者の業務効率を上げるだけでなく、採用戦略のレベルアップや優秀人材の定着促進にも注力し、総合的な採用力強化を目指したい。
専門用語解説
機械学習(Machine Learning)
AIを実現する手法の一つ。大量のデータを分析し、そこからパターンを学習して新たなデータを予測・分類する。ロジスティック回帰
二値(例:1/0、Yes/No)のカテゴリを予測する際に用いられる統計モデル。入力変数(特徴量)をもとに、その事象が起こる確率を算出する。NLP(Natural Language Processing)
自然言語処理とも呼ばれ、テキストや音声など人間の言語を解析・生成する技術。感情分析やチャットボット、文章要約などに応用される。SLA(Service Level Agreement)
サービス提供者と顧客との間で取り決められたサービスの品質や対応速度などの合意指標。PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)
計画→実行→評価→改善の流れを繰り返すことで、業務やシステムを段階的に洗練させるフレームワーク。CRM(Customer Relationship Management)
顧客情報や購買履歴、問い合わせ履歴などを一元管理し、マーケティングや顧客サポートに活かすシステムや思想。