一番大切なミッション

よくよく考えてみれば、私には自分の立場に応じて日々、沢山のミッションがある。
妻ミッション。夫の食事の用意をする。汚れた衣類を洗濯する。着て行く服にアイロンをかける。こういったことは多分、今時の男性なら自分でやる方も多いのだろうが、夫の頭の中では妻ミッションに分類されている。やってくれれば嬉しいが、別に現状でも不満はさして感じていない。毎日発生するミッションで、面倒と言えば面倒ではある。
嫁ミッション。姑を老健に入れる手伝いをするなど。そんなに度々あるミッションではない。尤も、夫の姉が数えきれないくらい沢山代行してくれているので、私はなすべきミッションの半分も遂行できていないことになる。だからまだこのミッションのちゃんとした概要を知らない、と言った方が良い。
母ミッション。息子に仕送りと下宿の家賃や学費の振り込み。あとは信じて見守る。最近やっと出来るようになったミッションである。
主婦ミッション。自治会の役員など、地域のお付き合い。関西程濃密ではないので、極めて楽であるが、一応あるにはある。税金の支払いなど。遅れることはできない。買い物。食べるものの調達は必須である。掃除。汚い家には自分も住みたくない。
パートミッション。朝のレジ開局。床掃除と鏡拭き。レジ対応。接客。ご案内。商品整理。電話応対。ラッピング。両替。レジローテーションの作成。決められたミッションを粛々とこなす。
人間ミッション。起きる。服を着る。食べる。排泄する。歯を磨く。顔を洗う。風呂に入る。寝る。
女ミッション。化粧をする。髪を整える。香水をつける。加齢臭対策である。
ここまでは義務的ミッションであって、やらないと死ぬことはないけれど、色々と日常生活に支障が出るミッションである。

ここからは完全に自分の好きで課しているミッション。
楽器練習。何か書く。録画しておいたドラマやアニメを観る。好きなマンガを読む。好きな曲を聴く。楽団の練習に参加する。
しなくても生活に支障は一切でない。生きていくのにも困らない。しかし、私が私で居られる為に、どれも絶対必要なミッションである。

こうやって自分がどのように二十四時間を過ごしているのか見てみると、義務的ミッションが大半を占めていることにあらためて驚く。
これで良いのか、と思うこともある。

自分が心地良いと感じる事のみをやって暮らせたら、物凄く幸せだなと思う。
しかし実際には様々な義務的ミッションを必要に迫られてしている。というより、『私はこのミッションを遂行するのが嫌かどうか』に焦点を合わせていない。
何故合わせていないのか。自分のやりたくないことを我慢してやるより、『支障が出る』のが怖いからである。

放って置けば、夫は自分で食事の支度くらいするだろう。しわくちゃのシャツが嫌なら、アイロンがけだってすると思う。自治会の役員だって、しょうがなければするだろうし、家事炊事は必要に迫られればやるだろう。
パートミッションは、究極は私がいなくても誰かがする。誰でも出来るが、「今は」私が請け負っている、というだけだ。
つまりこれらのミッションの大半は別に私固有のものではない、ということになる。

人間ミッションは私固有のものだ。これはやらないわけにいかない。誰かが私の代わりに眠ってくれても、私が気分爽快になることはない。
女ミッションは捨て去ることも可能だ。だがその時点で、何か納得できない思いが頭をもたげてくるだろう。年齢的なものもあるとは思うが。

それでも『支障が出る』怖さをちょっと捨ててみたい気分のときは、こっそりとミッションの遂行度合いを下げてみることにしている。
夕飯に一品、調理しなくて良い品を加えてみる。アイロンをしっかりではなく、さっとかける。パート先で人に頼めることはお願いしてみる。たまには四角い部屋でも丸く掃く。
どのミッションも、『完璧に』『自分の力だけで』やろうとしない。小さくても『遂行できたこと』を喜び、自分をほめる。
それで十分である。

この上で、好きで課しているミッションを遂行する。そうするとスルスル進む。色々良いほうに向いてくる。自分にも周りにも笑顔が増える。すると新たな義務的ミッションも遂行しやすくなる。

そんな数あるミッションのうち、私の一番重要なミッションは『いつも上機嫌でいること』である。
これは簡単なようで、常に心掛けておかないとついうっかり忘れてしまう。でもこれさえ遂行出来れば大抵のことはそこそこうまく行く。
今日もゆるっとミッション遂行、頑張ろう。