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恩送り

最近、姑に少し認知症の症状があらわれている。
先日などは世話になった整形外科の担当者に電話を架け、
「あんたがおかしな治療をしたから、私はこんなにいつまでも身体が痛い。元に戻してくれ」
と激しい口調でクレームを入れたらしい、と姉から連絡が入った。
驚くと同時に、ふと若い頃に仕事先で経験したある出来事を思い出した。

仕事で伺っていたお得意先のUさんは、とても仲の良いご夫婦だった。息子さんと娘さんが一人ずつ、それぞれもう独立しておられ、お孫さんもいらしたと思う。
私が前任者から引き継いだのは、お二人共永年勤めた市役所を定年退職し、年金生活に入られて数年経った頃だった。
穏やかで笑顔を絶やさない明るい奥様と、冗談好きで大きな声でガハハと豪快に笑う朗らかな旦那様で、誰が見てもお似合いの夫婦だった。
前任者からも『凄く素敵なご夫婦』と引き継いでいた。
かなりの金額のお取引を頂いている先だったから、私はいつも丁寧に対応していた。外回り中に見かけると気さくに声をかけて下さり、畑から直接野菜をもいで渡して下さったりと、かなり親しくして頂いていた。
私も大好きなご夫婦だった。

そんなある日のこと、奥様から突然、私宛に電話が架かってきた。

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