オバサン丸出し
私の居る靴・服飾雑貨のレジには、老若男女、本当に様々なお客様がやってくる。
気難しい方、面白い方、困った方、変わった方・・・この人は普段は一体、家庭で職場でどんな顔をしてどんな方々と過ごしておられるのだろう、と首を捻りながら秘かに想像力を逞しくすることも多々ある。
X様はそんなお一人である。
X様は二ヶ月に一度くらいの頻度で、スニーカーを一足、お求めになる。それは良いのだが、その時必ず
「配送して下さい」
と仰るのである。
紳士物の重い靴や大きな長靴なら分かるが、X様が購入されるのは婦人用の、しかも軽量タイプのスニーカーばかりだ。嵩も低いし、重さもたいしたことはない。
予め、他の売り場でお買い物を沢山されているわけでもない。ウチの売り場の会計を済ませると、さっさと店をあとにされる。
配送先はきまって、隣町にあるご自宅だ。バスだと停留所で四つ分くらいの距離だから、すぐ近所である。持ち歩くのが大変な距離ではない。
配達時間も毎回同じ時間帯を指定される。
時間指定をされるお客様は大抵、
「その時間でないと家に居ないので」
とか
「その時間なら帰ってますから」
等と仰るのだが、X様は何も仰らない。まあ義務ではないから良いのだけれど、こちらはなんとなく心に引っ掛かるものがある。
当たり前だが、お金はいつもキチンと払って下さるし、返品に来られることもない。だから何も問題はなく、店としては上客の部類に入る方だ。
ただこんなに頻度が高いと、『どういう理由で、こんなにいつも配送されるのだろう?』という個人的な疑問が、私の中にフツフツとわいてくる。
荷物の持ち運びに難がある、高齢のお客様が配送を希望されることは割合多い。しかし、X様は恐らく私と同年代とお見受けする。この年代の方が、プレゼント以外で小さな商品の配送を希望された記憶は、このレジに三年居て一度もない。
お身体がご不自由な感じもない。ちょっと見た感じでは、『体育の先生』風である。ガタイがよく、背も高い。
つまり、買った物を持って帰るのに不都合があるようには、どうしても思えないのである。
私の謎は深まるばかりだ。
X様がお買い物に来られる度、私はつい下衆の勘繰りをしてしまう。
実は出勤途中の買い物で、職場に買った物を持っていけないような事情がある?
ロッカーが狭くて小さい?仕事に関係ない私物の持ち込みが禁止されている?
或いは家人に内緒の買い物で、家族が誰もいない時間帯を狙って届けてもらうようにしている?
旦那さんが厳格で、自分の物をなかなか買わせてもらえない?それともX様は買い物依存で、家族が買い物を止めさせようとしている?
自分にプレゼントをもらうような気持ちを味わいたくて、わざわざ手間と費用をかけている?
店員とのやり取りの時間を出来るだけ長く取りたい?
X様は確かにちょっと変わった感じの方ではあるが、ごく常識的な奥様に見える。
どの理由もあり得なくはなさそうだが、どうも現実味に欠けるように思う。
やっぱり不思議である。
最近、ちょっと斬新な?もう一つの理由を思い付いた。
もしかしたら、その時間帯に配送してくれるY運輸のお兄さんが超絶イケメンで、荷物の受け渡しをするのが楽しみなのかもしれない!
そういえば、配送伝票を記入される時のX様はとても嬉しそうである。
今のところ、私の中ではこれが最有力候補である。
にしても、配送料は無料ではない。折角特売品を買っても、毎回六百円近い配送料を払っていては、全然お得にならない。店は良いけど、X様はどうしてそれで良いんだろう?
嬉々として配送伝票に記入されるX様を見ながら、私の謎は相変わらず解き明かされずじまいである。
お客様のプライバシーであるから、ご本人に理由をお尋ねするなんて失礼なことは出来ない。
出来ないと益々気になる。
ああ、こんなしょうもないことが気になってしょうがないなんて、オバサン丸出しだなあ!