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オーバーパンツの季節

私は秋の訪れを身体で感じる。
この時期になると、太腿の付け根部分が痛むようになるのだ。骨が痛いわけでも筋肉が痛いわけでもないので、多分『坐骨神経痛』というヤツなのかな、と思っている。
二十代の頃からのことなので、加齢による痛みではなさそうだ。
冷えやすい脂肪が身体じゅうで一番沢山くっついている臀部が、僅かな気温の低下を敏感に感じ取って、神経を通じて『冷えてますよ』とサインを送っているのだろう。

私の場合、温めるとこの痛みはすぐに消えてしまう。
手っ取り早いのはオーバーパンツを着用することだ。
大昔なら『毛糸のパンツ』一択だったろうが、今は色んな素材やデザインが沢山出ている。
生地の厚いものが必ずしも温かいとは限らない。私の尻はそんなに大きくない方だとは思っている(あくまでも自己基準)が、あんまり尻の辺りがモゴモゴとしているのは、いくらこの歳でも自分が許せない。
だからなるべく薄手で、温かいものを選ぶことにしている。

私くらいの年齢以上の女性向けの、こういう類の肌着はいくらでも売られているが、あのピンクと薄紫と肌色(敢えてベージュとは呼ばない)の中間みたいな色の、へろっと薄い肌着は選ばない。
買って着用してみたことはある。確かに薄くて温かく、上の服には響かない。
しかしこれらの肌着は、残念ながら洗濯に弱いものが多いように思う。
ちゃんとネットに入れて洗うのであるが、何回か洗うととっても哀愁を帯びた、生活臭のするよれ加減になってしまう。
毎日穿くものなのだから、洗濯に弱いのは頂けない。

じゃあ私がこの時期何を穿いているかと言えば、所謂女子中高生向けの『オーバーパンツ』と呼ばれるものである。
色は私は黒しか見たことがない。丈は色々あって、太腿をすっぽり覆うものからショーツと変わらないものまで、様々だ。
私が穿くのはショーツより少し長めの丈のものである。
暑すぎず、寒すぎない。ズボンの上に線が響かない、優れものである。
買う時は、さも『娘のを買いに来ている』風を装う。
こういうオーバーパンツには可愛らしいタグが付いていたり、提げ手に『スカートの裾から見えないよ!』などというカジュアルな言葉と共に、制服姿の女子学生が描かれていたりする。手にすると気恥ずかしいというか、頬とお尻の辺りがちょっとモゾモゾするが、冷えを撃退するにはこれが良いんだ、大丈夫、誰も『それ貴女が穿くの?』なんて訊きやしない、と自分に言い聞かせながらレジに向かう。
製造している会社も、まさか孫があってもおかしくないくらいのオバサンが買うとは、あまり予想していないのに違いない。
いいんだ、お金さえ払えば。

学生が毎日穿き替えることを想定しているのか、これは洗濯にめっぽう強い。ネットに入れる必要もないし、毎日洗濯しても全然よれない。
何年も穿いていると流石にゴムがダメになって、腰のあたりにお花が咲いたような感じになってしまうが、こうなるにはかなりの年数を要する。
こんな丈夫な肌着はあまり知らない。

季節がさらに進んでもっと寒くなれば、これを穿いていても坐骨の辺りが痛みだす。
こうなるとオーバーパンツはそれだけでは役目を果たせなくなり、足首まで覆う『パッチ』の出番になる。オーバーパンツはパッチの上から穿く。
腹にカイロでも貼れば、無敵の温かさである。
しかし、今の季節にパッチを穿くのはちょっと暑い。まして異常な暑さが続く今年、パッチの出番はまだまだ先であると思われる。

今秋も『オーバーパンツ着用すべし』のお知らせが坐骨付近から来たので、既に毎日穿いている。
尾籠な話で恐縮だが、これを穿くとトイレに行く回数が極端に減る。仕事柄
あまり頻繁にトイレに行けない為、とても助かる。もよおして睡眠を妨げられる回数も減り、快適だ。

冷えは女性の大敵。
オーバーパンツには冬中お世話になる。もう何回も買い替えていて、これまで数えきれないオーバーパンツとさよならしてきた。
暑い暑い夏だったけれど、ちゃんと季節は移って行くんだな、とオーバーパンツを穿きながらしみじみと感慨深い今日この頃である。






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在間 ミツル
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