旅路にある貴方へ
そちらは少し寒いのではないでしょうか。元気ですね?
昨日ウキウキと出て行く貴方の背中を、少し心配な気持ちと、この人は言い出したらきかないからという諦めの気持ちと、今日から10日間夕飯を作らなくて良いという解放感と、しばらく独りぼっちなんだなあ、という少し寂しい気持ちで見送りました。
数ヶ月前、勤続何周年かの休みがまとめて取れるとわかった貴方は、早速北の大地への気ままな旅を計画してとても楽しそうでした。いつもそうですが、こういう時の貴方は子供のようです。毎日遅くまで色々と準備していましたね。
他人に干渉される事が人一倍嫌いな貴方。旅は一人が良いのだと思います。それに貴方の旅程はいつも強行軍。私はとてもついていけません。だから誘わなくて正解です。
今回もかなり危険で、ハードな計画だと思います。私には無理です。
私は私で、時間を気にせずに思う存分クラリネットを練習したり、一度食べてみたかったデパ地下のお惣菜サラダを食べてみたり、引っ越し以来気になっていた物を片付けたり、ゆっくり本を読んだり、やりたかった事をやろうと思っています。
だから寂しく感じている暇なんかありません。
お互い、自由気ままに好きなように好きな事だけをする時間があるのはなんて幸せな事なんでしょうね。
今日の宿のご飯も美味しそうでしたね。私はエビのアヒージョを白ワインと頂きました。とても美味しかったですよ。貴方がいないと料理はサボるけど、ちゃんと食べているのでご心配なく。
以前の私なら、きっと毎日インスタントラーメンや残り物など、いい加減な物ばかり食べていたことでしょう。
でももう大丈夫ですよ。ちゃんと本当に食べたいものを食べられるようになりましたから。
危険な旅だけれど、貴方に何があってもびっくりしません。
貴方が好きなようにした結果だから、それでいいと思います。勿論無事で帰ってきて欲しいとは思っていますが、それはもう貴方の人生の計画表に神様が書き込んである事ですから、私達が後から変える事は出来ません。
何かあっても事実を受け入れる、それだけです。
無事に越したことはありませんが。
婚約中に姓名判断のおばさんに、
「この人は流れる水のような人。水は流れ続ける事ができないと腐ってしまうから、この人の流れを止めてはだめよ」
と言われた事を思い出します。
ずっとその通りにしてきたつもりです。
当時はこんなに激しい流れだとは思いませんでしたが。
一人にしてごめんね、と言って出掛けて行ったけれど、ちっとも謝らなくて良いですよ。
洗濯物は少ないし、部屋は汚れないし、朝ゆっくり寝られるし。
とても楽です。
でも、この家は一人で過ごすにはちょっと広すぎるみたい。
エビのアヒージョも一緒に食べた方が美味しいみたい。ワインはハーフボトルでも一人では多すぎます。
一人で好きにしたいけれど寂しい時もあるなんて、都合の良い困った甘えん坊です。
一緒に過ごした時間があっという間に四半世紀に迫ろうとしているのも感慨深いです。色々あったけど、結局お互い我慢せず、好きなようにしてきたように思いますね。
今更だけど、ホントにいつもありがとう。
気をつけて帰ってきて下さい。
待ってますよー。