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話題の商品

「あのさあ、そっちに在庫ない?出荷制限かけてるの?ちょっとまとまった数入れられないかなあ?早急にお願いしますよ」
先日レジシフトを入力する為、生鮮事務所(食品の人だけが主に利用する)のパソコンを借りて作業していたら、隣の席でグロサリー担当のS主任が電話を架けていた。
「こうあちこちでグラグラ揺れちゃうと、みなさん『買わなきゃ』ってなるみたいでねえ。どこも同じだと思うんですけど、なんとか出来ませんか?ウチとしては今非常に欲しい商品なんで。兎に角頼みます!」
何の話か、グロサリー出身の私はすぐわかった。
『缶入りカンパン』である。

世の中色々進んできて、非常食も沢山の種類がある。ローリングストックなんて言葉も随分定着した感がある。なのにカチカチでお茶なしでは食べることが難しそうなシロモノを、災害があるとなぜか皆さん、我先にお買い求めになる。特にご高齢の方のお尋ねが多い。

袋入りカンパンは一応常時陳列しているが、普段はバカスカ売れて売れて困る、という商品ではない。だが、グラッとどこかで大きく一揺れすると、翌日は棚から消える。あっという間に在庫切れになり、メーカーも受注が急に増えるので生産が追い付かないのか、入荷は遅くなる。やっと入る頃には需要の波もひと段落していることが多い。
賞味期限はかなり長く、品質管理をする上では楽な商品だが、普段定番の棚に入れるなら、店としてはもっと回転の良いものを並べたい。だから大抵の店では最下段とか最上段の隅っこに、『取り敢えず』置いている商品である。
缶入りは更に賞味期限が長く、未開封で五年程度である。九月の防災週間などに少し入ってくることはあっても、ウチの店には普段は置いていない。
どの店も事情は同じようで、『缶入りカンパン争奪戦』になっているようだ。このブーム?も、何もなければ一週間もすれば収まるだろう。

何かで話題になった食べ物が、一斉に売り場から消えるのはよくある話だ。グロサリー担当だった頃は本当に何度も経験した。
今時はSNSという、あっという間に情報が広まる厄介なブツがある。「ブームだ」という情報を店側が入手するより、お客様の方が圧倒的に早いのである。
皆さん一様に、スマホの画面を見せて
「これ、ありませんか?」
と聞いてこられる。アップされた日なのか、同じお問い合わせが急に一日に何件もきて、「なんで?」とこちらが狐につままれるということが良くあった。
『パラサイト 半地下の家族』(2019年)という韓国の映画が話題になった時、よく聞かれたのが『チャパゲティ』という即席麵である。映画の中に出てくる家族が食べていたらしい。普段の売れ行きは普通であるが、この時は何かで紹介されたのか、あっという間に品切れになってしまった。
韓国の製品は当然輸入品である。入荷は時期、量ともに何故か不安定で、客注は受けられないことになっていたのだが、皆さんそれを伝えるととても残念がられるので、対応に困ったものである。

この商品を
「ありませんか?」
と聞いてくるお客様は、不思議と似たような外見の方が多かった。
二十代から三十代くらいの若い女性。短いパンツをはき、ラグラン袖のトップスを着ている。髪は中途半端に不思議な色で染めており、爪は派手だ。キラキラしたもののついた、あまり高級そうでない(失礼)鞄を斜め掛けにしている。くっきりとした色の口紅をさし、目元はパール系のメイク。厚底の靴を履いている。
オバサンの偏見だと言われてしまいそうだが、本当にそんな感じの方が多かった。韓流ファッション?だったのだろうか。そこら辺は全く詳しくないので、よくわからない。知ろうとも思わなかったので、疑問のままである。

今ウチの靴売り場には、靴べらなしでもサッと履ける靴、というのがある。私は観たことがないのだが、どうもテレビでCMをやっているらしく、お尋ねが多い。
この商品、スーパーにしてはかなり高級品である。電話などでも取り扱いの有無を聞いてこられるが、お値段を言うと大抵皆さんびっくりされる。
購入される方は、予め買うことに決めて来られる方が大多数である。ご存知なのか、あまり値段を見ずにさっさとレジに持ってこられる。買うことに逡巡するような方はいらっしゃらない。お財布の中味に余裕のある方が多いように思う。

話題になる、ということは、それだけみんなの興味と関心を集める要素がある、ということである。何かしらの隠れたニーズがあって、そこに上手にマッチすると、ドンドン売れるのだろう。
様々なニーズがあることに、単純に感心して面白がっている日々である。