気軽にしないで
一度買った商品を店に返す、というのは普通あまりしたくないことだ、と私なぞは思っていた。だが、今の職場にいるとあまりにも安易に返品に来られる方がいらっしゃるのに驚かされる。
店側の瑕疵がある場合は当然受け付けねばならない。だがそうでない場合、再販可能であることと、レシートをお持ちであること、セール品などの返品不可商品でない事、など、受け付けるにあたっては色々な制約がある。
これらを全てクリアしないと返品は受け付けられない。店だって、慈善事業をしているのではないのだ。
本来返品をするというのはイレギュラーなことで、恐れ入るのはお客様の方である筈である。
現に、
「ごめんなさいね、勝手なことをして」
と恥ずかしそうに、申し訳なさそうに仰る方もある。しかし大半は、『商品を戻すのだから金を返せ』的な、態度のデカい人である。
返品は確認事項が多くなるから、レジ作業は時間がかかる。伝票番号や商品番号に相違がないか、金額は間違えていないか、決済方法は合っているか、再販可能な状態か、いちいち確認をしなければならないからだ。
だから返品が来るとレジが混む。レジ係が二人いれば良いが、いなければお客様にはお待ち頂くしかない。お買い上げなら兎も角、店の利益にならない返品作業の為に混むのはかなり鬱陶しい。お買い上げのお客様にも申し訳ない。
だから私達はお買い上げの時に、死ぬほど確認する。
「サイズは〇センチでお間違いないでしょうか」
「靴は箱を処分しますと、返品できなくなりますがよろしいですか」
「キャリーケースはお買い上げ後地面を引いていきますので、すぐにご使用済みとなります。この為返品交換の対象外となりますので、ご了承下さいませ」
「ハンカチは衛生商品のため、返品交換は承っておりませんがよろしいですか」
「こちらは特別価格でのご提供品の為、返品交換には応じかねます。ご了承下さいませ」
ぱっと思いつくだけで、これだけの『返品交換』に対する注意喚起を行っている。毎日毎日、舌を噛みそうになりながらやっている。
それでも来る人は来る。
先日は買ってすぐのセール品のブーツを、
「色がやっぱりこっちの方が良いと思って。交換してもらえない?」
と平気な顔で来られたお客様がいらした。
「お値下げ品ですので、お客様都合での返品交換はご遠慮頂いているのですが・・・」
というと、
「どうして?いいじゃない!さっき買ったばかりよ!汚してないから良いでしょ!」
とキレる。
どうしてもこうしても、さっき私返品交換あかんで、って言うたばっかりやろ?あんたハイって言うたやん!まだ舌乾いてへんで!!わしゃ嫌や!
と心の中で叫びつつ、丁重にお断りする。
ウチのレジには時折、化粧品の精算に来られる人がある。化粧品売り場が同じ階の近くにあるのだが、レジの場所がわかりにくい為、ウチに持ってこられるのだと思う。黙って精算しているが、これもこっちに返品に来られることがある。
実はむき出しのマスカラ、口紅などは返品不可商品である。常識で考えればわかるだろうが、これを返品に来る輩が存在する。当然女性である。同じ女性として、感覚を疑ってしまう。
あんたねえ、誰が使ったか分からん口紅、お金出して買う気する?つける?と言いたくなるが、彼女たちは自分の返した商品を再び買う人のことまでは全く思い至らないようだ。平気であくまでも自分の意思を通そうとする。
手に負えないので化粧品カウンターに行って頂くことにしているが、いつも嘆かわしい思いがする。
平気で返品に来る人は『他者から見た視線』を持つことが出来ない、或いはそういう感覚を元々持ち合わせていない、人なのだと思う。
返品すれば店は困る。他のお客様に迷惑になることもある。そこに思いが至らない。
そして自分の利益が侵害されることを異常なまでに恐れる。絶対に損したくない。その為には周りにどれだけ迷惑をかけたってかまわない。自分が気に入らない商品を買わされるリスクに比べたら、周りの迷惑なんて吹けば飛ぶようなものだと感じている節がある。
究極の『ワガママ』、『自己中』である。
一年で一番金離れの良くなる時期を迎えたけれど、お客様にはどうかお買い物は慎重にお願いしたいものだと思っている。