「つかみ」を揃える
吹奏楽をやっている人なら誰でも一度は演奏したことがある、という曲は沢山あるだろうが、中でも『宝島』(和泉宏隆 作曲、真島 俊夫 編曲)は多くの人に愛されている曲だと思う。
私も最初にお世話になったバンドから始まり、三つのバンド全てでこの曲を演奏している。最初のバンドでは1st、次のバンドでは2nd、次のバンドではバスクラをやったので、あとやっていないのはエスクラだけになる。
どうも今いる四つ目の楽団が、来年の演奏会のアンコールでこれをやりそうな雰囲気なので、そうなると目出度くクラリネットの全パート制覇?をすることになる。
元々はT-SQUAREの曲だったものを、故・真島俊夫氏が吹奏楽用に編曲したものなのだが、今時の中高生は原曲を知らない子が殆どだそうで、純粋に吹奏楽の為に書かれた曲だと思っている子も大勢いる、なんて聞いたこともある。そう思ってしまうのもよくわかるくらい、実に華々しい、楽しい編曲である。
途中の金管楽器のユニゾンもワクワクする(しかも大抵は金管全員がざっと一斉に立ち上がって立奏するので、ビジュアル的にも映える)し、パーカッションのサンバ調のセッションも聴いていて楽しい。アルトサックスのソロもしびれるほど格好良い。このソロはバリトンサックスで吹く場合もあるが、個人的には絶対アルトサックスの方がカッコいいと思う。
場が盛り上がるので、アンコールやオープニングによく演奏される。吹奏楽に馴染みのない人でも十分楽しめる曲だと思う。
しかし実はクラリネットにとってはたいして『美味しい』所はなく、金管楽器やサックス族の『お飾り部隊』的役割の曲だ。バスクラリネットも同様で、動きはほぼバリトンサックスやチューバと同じである。
大体いつも真島さんの曲は、クラリネットセクションはしんどいばかりであんまり美味しいことがないことが多いから、セオリー通りとも言えるだろう。
簡単でわかりやすいメロディーだし、色んな団体がこぞって演奏している。が、前に居た楽団の音楽監督は
「素人の団体のまともな『宝島』を殆ど聴いたことがない」
と仰っていた。
監督が仰るには、
「雰囲気にのまれてなんとなく演奏してしまい易いが、それでもそれなりに盛り上がる。だがリズム、特に休符の後の『つかみ』がキチンと揃っている楽団はなかなかない」
そうである。
特にポップスを演奏する時の『つかみ』は、揃えるのが難しい。他の人が出るのを見計らっていると出遅れるし、直前の休符を短くとらえすぎると勇み足になってフライングしてしまう。
フライングするよりはちょっとくらい出遅れた方がマシではないか、と思うかもしれないが、この一人一人の「ちょっとくらい」が全体の『キレ』を悪くする。
「ノリノリ」にならない。「スカッ」としない。ポップスに於いて最も致命的なこと、と言って良いかもしれない。
休符を「ウン」ではなく「ウ」で取れ、とか「ス」で取れとか言われるが、頭でわかるのは簡単でも身体に覚えこませるのは難しい。
休符を感じることはとても大事である。ポップスの演奏に於いて、特にそう思う。指導の先生によっては
「休符を演奏しているつもりになって下さい。休符は『お休み』『休憩』ではありません」
と仰る方もいるくらいだ。
「若くないから」
と言って『つかみ』の演奏を苦手そうにする人もいるけれど、私が見たところ年齢は関係ない。音楽的運動神経の良さというか、瞬発力の有無と言うか、が大いに関係している気がする。私は勿論、抜群にこれが悪い人であるから、『つかみ』をキレキレに演奏するのは苦手である。
お陰で毎度毎度、苦労している。
「宝島」は楽団全員が一つになる感覚を味わえるし、客層を問わず客席との一体感を肌で感じることができる曲である。
演奏する人も楽しく、聴衆も楽しい。そういった曲は、ありそうでなかなかない。
キチンと演奏するのは難しいし、たいして美味しい所はないが、私にとって「宝島」はいつでも演奏してみたい、大好きな曲である。