麹づくりに納豆菌が厳禁な理由
まずはじめに結論として、納豆菌は麹づくりに持ち込まない方が良いです。
イコールで、酒蔵や麹屋、味噌屋さんを訪問する際に納豆を食べない方がよいです。
なんなら細かいこと言うと、土とか砂、枯れ草、もみ殻みたいなとこにも納豆菌の仲間(枯草菌)は居るので、それらも持ち込まない方が良いでしょう。
これは原理とか機序以前に、訪問させてもらうマナーとして、という話でもあります。
ただでさえ、人間というのは雑菌の塊です。
不特定多数が発酵や醸造の現場に訪れるとそれだけでも影響をうける可能性はあります。
なので、訪問させてもらうという立場であれば食べないようにして然るべきだと僕は思います。
まぁそれはそうなんですが、ここからは原理や理由を掘り下げていきましょう。
実際、納豆菌が麹に混入するとどうなるのか、どんなトラブルな起きるのか、麹造りに納豆菌がはいったらどう対処したらいいのか、など解説していきます。
納豆菌が麹造りの現場に放り込まれるとどうなるか、というと、実は基本的にはどうにもなりません。
前述の通り、納豆菌って別に納豆にだけいるわけじゃなくて、土壌やら枯れ草やらにその仲間がいます。
納豆菌はバチルス属というカテゴリに属していますが、バチルスは枯れ草と書いて枯草菌(こそうきん)とも呼ばれる菌です。
納豆って、別に菌を植菌しなくても、茹で大豆を稲わらに包んでたらそれっぽいものができます。
それくらい、普通に自然界に存在する菌です。
納豆そのものを麹室に投げ込むならともかく、菌が多少入っただけでは淘汰されて繁殖はしないでしょう。
ただ、納豆を食べた時に納豆に触れていたのに手指洗浄が不十分だった、とか顔の周りについていて、服や髪の毛についていた、などは考えられる訳です。
それらが積み重なって枯草菌が蓄積したら、ある日優位になって繁殖をはじめてしまった、ということが起こる可能性はゼロではないでしょう。
だからマナーとして食べないというのは必須です。
もし麹造り中の麹に枯草菌が入ってしまうと、すべり麹とか粘り麹と呼ばれる、ネバネバした麹ができると言われます。
これは僕も実際にみたことがあるわけではないですが、香りも納豆のような香りになるそうです。
枯草菌がよほど混入した場合はそうやって汚染を受けてしまいます。
ただ、米麹の麹造りというのは実は非常によくできていて、実に素晴らしいシステムで成り立っていると僕は思っているのですが、
基本的には、枯草菌による汚染を受けにくい仕組みになっています。
というのも、普通に麹づくりを行うと自然に納豆菌が増えにくい水分活性の数値に安定するようにできています。
麹菌は弱い菌ですが、比較的少ない水分量でも増殖します。とはいえ、少なすぎると繁殖できません。
枯草菌は増えないけど、麹菌は繁殖できる。その絶妙な水分量のレンジに自然におさまるのです。
だから、実はそこまでめちゃめちゃ汚染を受けやすいということはないんですよね。
じゃあなぜそんなに注意して、業界全体で恐れているのかというと、万が一枯草菌に汚染された時のリスクが大きすぎるから、というのがあります。
納豆菌をはじめ、枯草菌は耐熱性菌とも呼ばれます。
耐熱性ってどれくらいの温度に耐えるのかと言うと、納豆菌は特に最強で、
121℃
にならないと死にません。
いや、正確には121℃で20分以上加熱し続ける、です。
なんとアルコールもききません。なんならアルカリ性の薬品(ハイターとか)もききません。
焼くや揚げるでもしないかぎり死なないと思ってもらって差し支えないです。
そんなやつらが、もし麹室に繁殖してしまったら……
対処法として現実的なのは徹底的な洗浄、ということになるでしょう。
枯草菌は洗い流すことができますので、繰り返し繰り返し洗い流すことで減らす、取り除く、ということをします。
もちろん完全に取り除くことはできませんが、そうやって地道に減らしていくしかないかなと思います。
(あとは間欠滅菌するとか…)
もし丸洗いの難しい麹室なら、下手したら新しく立て直す方が早いかも、しれません。
という風に、もし万が一繁殖してしまった場合のリスクが大きすぎるんです。
だから、その万が一を起こさないために「厳禁」としたほうが良いのです。
繰り返しになりますが、ただでさえ人間は雑菌の塊ですからね。
リスクは少しでも減らした方が良いでしょう。
僕も麹が居る期間は納豆は食べません。
ただ、どうしても食べたくなったときはお風呂に入る直前に、細心の注意を払って、そして食べ終わったら速やかにお風呂へ直行、という風にして食べます。
それくらいのことをすれば、麹室に汚染が及ぶという可能性は限りなく小さくなるかな、と思います。
まぁ、「そこまでせなあかんのやったら食べへんわ!」という指摘はごもっともです。
おしまい。