DAHLIA -止まった時計-

有谷 真琴 ( Makoto Ariya ) …………

日野 緋音 ( Akane Hino ) …………


野田 樹生 ( Tatsuki Noda ) …………

有谷 奏 ( Kanade Ariya ) …………

日野 翼 ( Tsubasa Hino ) …………





樹生「なぁ、お前いい加減いつまでつけてんの?」

真琴「え…なにが……」

樹生「何ってその時計だよ、それ」

真琴「あ、あぁ……」

樹生「なんでそんなの付けてんの?」

真琴「え?」

樹生「その中途半端な時間で止まった時計」

真琴「あぁ、だって……知ってるでしょ」

樹生「いやだとしても
そんな時計、時計としての役果たさねえじゃん」

真琴「まぁ、時間は携帯でも見れるし...」

樹生「えっ、時計の意味なくね?」

真琴「とにかく、良いの。これは」

樹生「そういうもんかね。」

真琴「そういうもんだよ……」

樹生「ふーん。それ、もはやお守り?
イマドキ女もんの時計付けてるやつなんていねーよ。」

真琴「はぁ……」

樹生「あぁいや、悪かったよ。
なんだかんだ言って俺だって…
忘れられるわけねぇから。」

真琴「いいんだよ、これはただの俺の自己満だから……」

樹生「……あれ、何年前だっけ。」

真琴「...丁度○年前かな……
こんな話聞きたがるの樹生だけだよ。」






緋音『真琴!……ふふっ』








幼い頃から仲のいい女友達がいた。


親同士で仲が良かったらしく、物心が着いた時から一緒にいて、気付けば恋愛感情を抱いていた。



緋音『って事があってさー、ん?聞いてる?』

真琴『あっあぁ…
田中先生のズラがズレたって話でしょ』

緋音『そうそう!(笑)
アレもうほんっとヤバかったんだから!』



相手がどうなのかわからなかったが、いつかはこの想いを伝えるつもりでいた。


家も隣同士で、小中と一緒に進み、高校も彼女に合わせ、少しレベルを落とし同じところへ行った。



緋音『おはよう!』

真琴『おはよ…』

緋音『今日うちのクラス体育あるんだ
こんな暑い中やってたら日焼けしちゃうよ』

真琴『…一緒にサボる?』

緋音『えっ、ホント!?』

真琴『うん、俺も授業受けるのめんどくさいし…』

緋音『やったぁ!真琴と一緒じゃなきゃ
授業なんてサボれない!一気に3時間目が楽しみ!』










『あれ、緋音どっか行くの?』

緋音『うん、お腹痛くて…保健室!』

『ふ〜ん、そっか分かった!先生に伝えとく』

緋音『ありがとう!!行ってきます!!』

『あんな元気な腹痛がありますか、ありゃ真琴くんだな』



樹生『何お前どこ行くの?』

真琴『……保健室……?』

樹生『なんだよなんで疑問形なんだよ。(笑)』

真琴『保健室』

樹生『分かった分かった、先生に言っといてやる』

真琴『ん』

樹生『へっ、分かりやすいヤツだぜ』





無邪気で、いつも元気な彼女がとても好きだった。

他の誰にも向けられない、俺だけに見せてくれる笑顔が可愛くて特に大好きだった。


高校の合格発表の次の日、意を決して告白した。







緋音『どうしたの?話なら電話でも…』

真琴『あの、さ…』

緋音『ん?』

真琴『直接、話したいことがあって』

緋音『うんうん。』

真琴『小さい頃から...
ずっと、緋音のことが好きだった』

緋音『えっ……?』

真琴『……緋音に俺の彼女になって欲しい』

緋音『……ほんとに?』

真琴『うん…』

緋音『ねぇ、どうしよう』

真琴『え、な、なにが?』

緋音『私、今 世界で1番幸せかもしれない』

真琴『えっ』

緋音『私もずっと真琴のことが好き』

真琴『……!!』

緋音『よろしくお願いします!』






幸せだった。

今まで生きてきた中で、多分この日が一番幸せだったと思う。


それまでもそれからも、毎日一緒に登校しては帰り道に寄り道したり 時には休みの日にデートをしてみたり...。

ごく普通の高校生のような生活を送っていた。




樹生『お前最近どうなの?』

真琴『どうって、何が……』

樹生『何もクソも緋音ちゃんだよ
上手くやってんの?』

真琴『まぁ……樹生に心配されなくても大丈夫だよ』

樹生『アッ言ったなコイツ』

真琴『人の心配より自分の心配しなよ
こないだもB組の女の子にフラれてたじゃん』

樹生『傷口に味噌塗るようなこと言いやがって…
あの子はあの子でいーんだよ!なんか……アレだよ
部活頑張りたいとかっつってたからよ』

真琴『何部?』

樹生『家庭科部』

真琴『……』

樹生『なんっだよ真琴テメェその顔やめろ!!』





そして付き合い始めてもうすぐ1年というところで、緋音がずっと欲しがっていたものをプレゼントした。




真琴『はい、これ…』

緋音『えっ!なになに!!』

真琴『明日で1年だから』

緋音『えー!!何それサプライズじゃん!
開けてもいい?』

真琴『うん。絶対似合うと思うから、開けてみて』

緋音『なんだろう……あっ、これ!』

真琴『ずっと、欲しいって言ってたから…』

緋音『見てた通り、すっごく可愛い!
ねぇほんとに嬉しい!!どうしよう!!』

真琴『落ち着きなよ……』

緋音『落ち着いてられない!!
これから毎日だってつけたい〜!!』

真琴『ふふっ……よかった、喜んでもらえて』

緋音『ていうか、好きな人から貰ったものならなんでも嬉しいよ!』

真琴『なにそれ...』



なにそれと照れながらも、喜んでくれた彼女がとても可愛くて、愛しかった。

そう言って笑う彼女が夕陽にてらされて、すごく綺麗だった。


その時は、このままこの時がずっと続くのだと信じて疑わなかった。

あの事が、起こるまでは…









事の発端は、些細なことでのケンカから始まった。





緋音『何で分かんないの!真琴のばかちん!』

真琴『ちょっと待ってよ、あれは緋音だって…』

緋音『もういい!』

真琴『あっ...どこ行くの』

緋音『どこだって良いでしょ!着いてこないで!』

真琴『……』








緋音『もう、真琴ってばホント分かってない!』

緋音『はぁ〜喧嘩なんてしたかった訳じゃないのに』

樹生『アレっ、緋音ちゃん?』

緋音『ん?……あ、樹生くん!』

樹生『何してんの?真琴は?』

緋音『あんな分からずやもう知らない。』

樹生『は〜ん、喧嘩したわけね』

緋音『ちょっとは1人になって頭冷やしたらいいの!』

樹生『まぁ、ちょっと頑固な所はあるわな』

緋音『どうせ行くとこないし
いつもの公園で私も頭冷やすことにする』

樹生『すぐ帰ってやれば?』

緋音『イヤだね。しばらく帰ってやんない!』

樹生『おーおー、女は怒ると怖いねぇ
ま、俺塾あっから行くな!また遊ぼうぜ』

緋音『うん!3人で花火でもしよ!』

樹生『いいね!じゃあな!』

緋音『バイバイ!!またねー!!』








そう言って家を飛び出した緋音を、




どうして追いかけなかったんだろう。

どうして引き止めなかったんだろう。





緋音が出てしばらくしてから、1本の電話が入った。






prrrr... prrr...





着信画面を見ると、電話は緋音のお母さんからだった。

なぜだか、心の底から嫌な予感がしてたまらなかった。
なぜだか、その電話を取るのがすごく嫌だった。

でも、取らなきゃいけないような気もしてならなかった。






真琴『…もしもし…』

緋音 母『もしもし、真琴くん!?今どこ?』

真琴『家、ですけど...』

緋音 母『あ、緋音が...…!』

真琴『え……?』

緋音 母『とにかく今すぐ来て、○○病院 わかる?』

真琴『わ、かります』

緋音 母『今そこにいるから、お願いね。』

真琴『ちょっと待ってください
何があったんですか?』





それからおばさんから詳しく話を聞くと、どうやら緋音が事故にあったとのこと。


家を飛び出して 交通事故でトラックに撥ねられて、病院に運ばれた...?




ケンカして飛び出して、事故って

どこのマンガや小説なんだか…全く勘弁してほしい。


そう思って、信じたくなかった。



病院に行っても、ケロッと元気ないつも通りの緋音がいるに違いない。

喧嘩で俺が緋音を怒らせたから、仕返しでしょ?



緋音『びっくりしたでしょ!
もう、私を怒らせたらこうなるんだから!!』





そう言って、またあの笑顔を見せてくれるでしょ?

ねぇ、緋音



はやく病院に行って緋音に謝ろう。
仲直りしよう。



だから、だから…



お願いだから、いかないで













病院に到着して 救急搬送される入口からはいると
そこにはおばさんの姿があった。




緋音 母『あっ、真琴くん』

真琴『あの、あ 緋音…は…?』

緋音 母『緋音が、緋音が...…!』

真琴『今、どこにいるんですか』





そう聞くと、おばさんは首を振り 何かが切れたように膝から崩れ落ちた。





嘘だ。



嘘だ、こんなの信じない。




最後の最後にケンカ別れ?

まだ仲直りもしてない。
まだ、まだ…

まだやり残したことがあるだろう?




いや、こんなことを考えている場合じゃない。
一刻も早く、緋音に会いにいかないと。



顔を、見て、

謝って抱きしめるんだ。








気付くと走っていた。

院内は走るなと言う声は気に止めている暇なんてなかった。



どこだ、緋音いる部屋は、どこだ。


院内を走り回って、やっと見つけたその部屋は行き止まりの場所にあった。



落ち着け。こんなの、手の込んだドッキリすぎる。

緋音は本当に...こんな時まで俺のこと驚かさないでよ











真琴『はぁ、はぁ…は……』








そっと扉を開けて部屋に入った。

目に飛び込んできたのは…







真琴『あか、ね…?』








顔に白い布をかけられ、ベットに横になっている緋音だった。

喉からヒュッと息を吸う音が鳴った。

心臓はバクバク高鳴り、息が荒くなる。








真琴『おい…おい!緋音!
ねぇ、勝手に飛び出していって勝手に事故にあって…』

真琴『勝手に死ぬなよ!』






顔にかけられている布を剥ぎとり、必死に緋音に声をかけた。




事故にあった時のものだろうか、頬に傷があった。
こんな傷まで作って、なにしてるんだよ。





真琴『緋音!起きてよ、ねぇ!
ドッキリもいい加減に……』





そう言いながら緋音の頬に手を当てると、あまりの冷たさに驚いた。




冷たくなった青白い顔。

持ち上げても、だらんと下がる腕。




どれだけ呼びかけても返事をしない


もうこのまま起きることは無い緋音






真琴『あか、緋音…あ、かね……』






もうどれだけ呼びかけても緋音は帰ってこない。


必死にゆすった。必死に呼びかけた。


でもその呼びかけに応えてはくれなかった。




そう、いつもの、ように...












緋音『真琴!おはよう』


緋音『また授業サボってたでしょ!
樹生君から聞いたんだからね!
も〜、私も誘ってよ!!』


緋音『あはは!
真琴、顔におべんとつけてどこ行くの!』


緋音『どうしよ…また赤点とっちゃった…
真琴先生、助けて〜!』






緋音『ねぇ、真琴?』

緋音『へへっ、大好き!』








あの可愛い笑顔も

あの元気で無邪気な姿も

あの優しく俺を呼ぶ声も

その全てが、何もかも





緋音『ねぇほんとに嬉しいよ
これから毎日だってつけたい!!』





全て、帰ってこないものだとわかった。





緋音『真琴のばかちん!』





途端、俺の中で何かが崩れた。








真琴『あっ...あぁああぁあ!!!!』



もう起きない緋音に縋りついた。

手を握って、頭を撫でて、頬を優しくさすった。




顔が青白いだけで、また起き上がってきそうな いつもの寝顔。



長いまつ毛も最近整え始めた眉毛も、サラサラの長い髪の毛も、何も変わらずいつも通りだった。






真琴『緋音、緋音、お願いだから帰ってきて
ねぇ、ごめん。俺、もう寝坊なんてしないから
早起き頑張るから、緋音が行きたいって言ってた
遊園地だって、チケット買ってくるから
あそこの新作も飲みに行くんでしょ
ちゃんと着いていくから、だから...』

真琴『俺の事置いていかないでよ……』





最後に呟いた言葉は冷えた狭い白い部屋にとけていった。




泣きながら 横になっている緋音を抱きしめていた。

左手に、微かに重みを感じた。



持ち上げて 余計に涙が止まらなくなった。




緋音の左手首に着いていたのは、あの1年記念の日に渡した緋音の欲しがっていた時計だった。





渡してから緋音は本当に毎日欠かさずこの時計を付けていた。

学校で没収されても、いつでも彼女の左手首にはこの時計がついていた。





そして時計は18時28分辺りで止まってしまっていた。きっとこの時間に、緋音が事故に...






嗚咽混じりの声で呼び掛けながら、ずっと彼女を抱きしめてあたため続けていた。


緋音が、最期まで寒くないように。






そして、緋音の冷たくなったくちびるに


そっと最後のキスをした。












それからのことは もうよく覚えていない。

きっと医者とおばさん、看護師が来て

色々としたんだろう。








家に帰ると 緋音の置きっぱなしだったカバンと上着が目に入った。




カバンも上着も置きっぱなしで、どこに行くつもりだったの?


喧嘩したらいつも夜 1人で行ってた公園に行くところだったのかな




そこで、俺が迎えに行くのを待つつもりだったのかな






色々考えて頭をめぐらせていると、また涙が溢れてしまいそうだった。








それから 緋音の家族や俺がやっと落ち着き始めた頃、遺品の整理が始まった。



その中で、俺がプレゼントしたあの時計だけはこれからもずっと持っていたいとお願いした。




おばさんは きっと真琴くんが持ってるのが1番良いわね、あの子も空で喜んでるはず、と 時計を渡してくれた。







真琴『すいません、わがまま言って...』

緋音 母『良いのよ
緋音ね、本当にその時計 大切にしてたの。』

真琴『...そうだったんですか』

緋音 母『何回同じ話を聞いたかしら
一年記念日に真琴がプレゼントしてくれたのって。
ずっと欲しかったの。って...』

真琴『……緋音は、本当に...
俺の中で1番大切な人でした……』

緋音 母『あの子のこと、大事にしてくれて
ありがとう。でも いつかは真琴くんも...
新しく大切な人を見つけて幸せになってね』


真琴『.........はい...。』











20✕✕年、現在









真琴「緋音、おはよう」

緋音『真琴!おはよう、今年も来てくれたの?』

真琴「当たり前じゃん。
今年は咲良が好きなガーベラだけじゃなくて
向日葵もキレイだったから買ってきたよ」

緋音『うわぁ!大きな向日葵!』

真琴「でしょ、キレイだよね」

緋音『うん、すっごくキレイ!
それでそれで?食べ物は!?』

真琴「ちょっと待ってよ、掃除してお花飾ってからね」

緋音『はぁーい、早くしてよ〜』

真琴「おばさん達は...?もう来たの?」

緋音『うん!お母さんもお父さんも、来てくれたよ』

真琴「そっか、この花もキレイだね」

緋音『でしょう、お母さん、センスいいもん』

真琴「うん、俺もそう思うよ
あれ、もしかしてこのお団子もおばさん達?」

緋音『え、うん。なんで?』

真琴「被った、俺もお団子買ってきちゃった…...」

緋音『あー!真琴やったなー!』

真琴「し、仕方ないでしょ。
俺エスパーじゃないんだし」

緋音『あ〜あ、もう、いくら好きだからって
こんなたくさんのお団子食べきれないよ!』

真琴「じゃあ、持って帰るね?」

緋音『あ、うそうそうそ!
持って帰っていいなんて言ってないもん!』

真琴「冗談だよ...ねぇ、緋音
まだ、怒ってる?」

緋音『もう、いつまでその話するの?』

真琴「だって、さ...」

緋音『怒ってもないし、恨んでもない
真琴が毎年会いに来てくれるだけで充分だもん』

真琴「そう……」

緋音『でもさ...もう私のことなんか忘れて
早く幸せになって欲しいって思ってるんだよ』

真琴「もうちょっとだけ、待ってよ...…
今はまだ、緋音のこと好きでいさせて」

緋音『...…もう、仕方ないな〜』

真琴「...じゃあ、そろそろ帰るね」

緋音『えっ、もう行っちゃうの?』

真琴「あんまり長話もなんでしょ、お団子食べなよ」

緋音『じゃあ、真琴の買ってきてくれたお花で
お花見でもしながらお団子食べようかな』

真琴「うん、じゃあ...また来年ね」

緋音『今年も、来てくれてありがとう』














真琴「って、話聞いてる?」

樹生「だってよ〜、お前よ〜...
俺、直前に緋音ちゃんに会ってたからよ。」

真琴「いや、泣きすぎだから。他の人の視線が...」

樹生「ずっと緋音ちゃんのこと好きだもんな。
あんな子他にはいねぇよ」

真琴「ほんと、俺にはもったいないね...」

樹生「ちくしょう!俺も彼女ほしい!!」

真琴「話の趣旨、変わってるし...」

樹生「あ〜、人並みの恋愛、頑張ってみっかぁ」

真琴「わかったから。ほら、4限始まるよ」

樹生「やべっ!単位落としたら卒業できねぇ!」

真琴「卒論もまだ書いてないんでしょ、ほら行くよ」

樹生「忘れてた〜!!」

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