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脱1人ビジネスして仕組みで回る事業を作る4ステップ|自分が倒れたら終わり…を抜け出す方法

はじめまして、ビジネス投資家の林周平です。

僕は現在、ビジネス投資家・事業家として10社のグループ会社の経営に関わっており、企業共創支援機構の理事であり、グロースハックアカデミーの代表講師もしています。

僕が一般的な事業投資家と少し違うのは、会社の実務までハンズオンで踏み込んでいる点で、現場で起こる事細かな課題まで一緒に頭を悩ませながら伴走しています。
 
また、スタートアップに限定した投資をしているわけではなく、1人ビジネス(フリーランス・1人社長・ほぼ社長で回っている零細企業)の事業化をサポートしているため、僕のグループの代表たちはみんな個人の才覚を活かした受託ビジネスから始めており、将来を見据えた事業展開を目指して頑張っています。具体的な事例については、後ほど詳しく説明しています。
 
この記事では、副業やフリーランス・1人社長などの個人型のスモールビジネスをされている方を対象に、脱1人ビジネスをテーマに会社として成長するためにはどうすればいいのか?というテーマで、僕が思う具体的な指針を網羅的に説明します。

  • 現在は実質フリーランスであるが、ゆくゆくは人を雇って会社として経営していきたい

  • 経営者と言ってるけど、実態はほぼ自分ひとりで会社を回している

  • 自分がいなくても仕事が回るような会社にしていきたい

  • 今のままだと自分が倒れたら終わりなので不安がある

  • とても忙しく、既に売上の限界が見えてしまっている

という課題を抱えている方に対して、解決策の指針となる内容になっています。

長文ですので、先に各章のまとめをするとこのような内容です。

1.「1人社長」と「事業」の違い
●1人社長は労働時間の限界から売上の天井が見えてしまう
●受託ビジネスでは資産が作れないため未来が描けない

2.受託ビジネスから事業を作る4ステップ
●受託ビジネスから4ステップで事業を作っていくことで、会社として成長できる
●4ステップにはそれぞれの異なる課題があり、解決手法もある

3.会社に資産価値が生まれる
●事業化できると資産価値が生まれM&Aの対象になる
●事業が経営者を成長させ、BS経営を意識するようになる

4.事業家になってビジネスを楽しもう
●スタートアップとは異なる、受託ビジネスから事業を作るメリット

※この記事の内容は動画でも解説していますので、
文章よりも動画が良い方はYouTube動画(36分)をご覧ください。



自己紹介


ビジネス投資家の林周平と申します。10社のグループ企業の経営とグロースハックアカデミーの代表講師をしています。

詳細なプロフィールはこちらを御覧ください

「1人社長」と「事業」の違い

1人社長の実情を知る手がかりとして、僕の知り合いの話を少しさせてください。

名前は仮に鈴木君とします。

鈴木君はコンサル会社で働く20代後半。彼は非常に優秀な人で、顧客からも社内からも高い評価を得ており、本人もプライドを持って働いていました。

ゆくゆくは独立したいと考えていた鈴木君は、知り合いから案件を紹介してもらい副業でコンサルを始めました。3件ほど案件を受ける中で給料を超えそうな報酬を手に入れました。

「これなら独立しても十分やっていけそうだ」と、手応えを感じた鈴木君は、会社を辞めて念願の独立を果たしたのです。

さらに実績をつくろうと、SNSで見込客を探したり、スキルシェアサービスを利用したり、経営者の交流会に顔を出したりし、徐々に仕事が増えるようになりました。

ところが、久々に会った鈴木君は浮かない顔をしています。話を聞くと、独立したはいいものの、とても忙しくて売上の天井が見えてしまい、今後どうすればいいか悩んでいるというのです。
 
僕は、鈴木君のようなケースを何人も見てきました。
彼らに共通するのは、「そこそこ上手くいっている」ということです。
スキルもある、仕事も途切れず来る、収入も横ばいだがそれなりにある。素晴らしいですよね。
ただ、それで終わりなのです。
鈴木君も、「本当はコンサル以外にやりたいことがあるし、億を超える売り上げもつくりたい」という願望がありましたが、現実問題として新しいフィールドに行くためのアイデアもなく、忙しくて余白が作れない状態でした。
 
鈴木君の例に、「自分も同じだ」と、ドキリとした方もいるのではないでしょうか?
なぜ頭打ちの1人社長になってしまうのか。それは、1人社長がやりがちな「受託ビジネス」の本質を紐解くことでわかります。

受託ビジネスの本質

鈴木君のような1人社長はほとんどのケースで受託ビジネスを行っています。
 
受託ビジネスの例としては、コンサル、ウェブ制作、ライター、業務の運営代行、秘書、広告代理業などがあります。要は「顧客から依頼された仕事を行うビジネス」です。
 
受託ビジネスの本質は、「自分の時間の切り売り」することで成り立っています。
基本的に、自分が稼働している分だけ報酬をもらえるため、逆に言えば稼働が終われば報酬も途切れます。こういうモデルを『労働集約』といいます。
 
コンサルは時給1万円を超えることもあり、2000万円を超える年収も狙えるビジネスです。ただ、あくまでも高級な労働集の受託ビジネスであることには代わりありません。
具体的に試算してみましょう。1時間1万円のコンサルを提供しているとします。月間に20日、1日あたり8時間働いたとしたら月の労働時間は160時間です。そのうち、半分の80時間を役務提供時間に当てられたとして、80時間×1万円で80万円が月商の上限になります。年収に換算すると1000万円なのですごいことではありますが、それ以上になることはありません。
年収1000万円あれば個人としてはそこそこ裕福ですし、日本人の中でもトップ5%に入ります。しかし、実態としては、オフィスは借りれない、スタッフは雇えない、全部自分でやらないといけない、という現実が待っています。個人としては豊かであっても、会社としてお金が回せる状態ではありません。
 
「個人は豊か、経費が使えない、時間がない」
これが1人社長から抜けられない理由です。

受託ビジネスでは未来が描けない

さて、鈴木君に話を戻します。彼はなぜ売上がそこそこあるのに不安なのでしょうか?

  • 売上の天井が見えてしまっている

  • 経費が使えずすべて自分ひとりで仕事をしている

  • 忙しくて考える時間がない

このような不安は未来が描けないから生まれます。ではなぜ未来が描けないのか?
その答えが「受託ビジネスでは未来が描けない」というビジネスモデル上の構造にあります。
 
 受託ビジネスは時間の切り売りだと前述しましたが、別の角度から見ると「委託者の事業を手伝うこと」とも言えます。
これの何が問題かと言えば、委託者の事業は長期的に成長していきますが、受託者は成長が早い段階で頭打ちになってしまうことです。事業の成長は市場のシェアを取り尽くすまで成長し続けますが、受託者が労働する時間はあっという間に限界に到達してしまいます。

さらに受託ビジネスには致命的な欠点もあります。
もし鈴木君が、顧客の事業の立ち上げをゼロから支援し、結果的に100億円規模の事業に成長したとしても、それと鈴木君の報酬は関係しません。むしろ事業が成長することで顧客は業務を内製化していくため、いつか鈴木君の契約は感謝とともに切られてしまいます。
 
この点は1人社長がよく勘違いしている重要なポイントなので抑えておいてください。なぜか事業が大きくなったら自分にもリターンがあるかのように錯覚している人が多いのですが、受託先に利権は発生しません。もし顧客が上場しても、売却して利益を得たとしても、それは鈴木君には全く関係のないことです。
 
労働集約というのは労働に対して対価があり、役務提供をやめると売上もなくなります。まさに「働かざる者食うべからず」であり、事業成長に連動したインセンティブは発生しません。業績に連動する成功報酬であっても、あくまでも短期的な契約であり未来永劫続くものではありません。
 
鈴木君が評価されコンサル単価を1万円から2万円にアップしてもらえることはあるかもしれませんが、10万円になることは無いでしょう。たかが2倍の単価になったところで、年商1000万円が2000万円になるだけで、現実は何も変わりません。
 
 ここで断っておきたいのは、僕は受託ビジネスを否定しているわけではありません。受託ビジネスはある程度社会人経験がある人にとっては最初の一歩として始めやすく、利益率も高く、顧客から直接感謝を得られるビジネスです。
ただ、豊かな起業家人生を歩むためにも、ビジネスモデルの構造上、受託ビジネスだけでは将来が描けないのは理解しておいた方が良いという信念をもっています。
 
受託ビジネスからスタートし、経験を積んで、そこからどんな事業を展開するか。これが成長戦略の指針です。実際、僕のグループ会社には鈴木君のような人物ばかりでしたが、次の章で伝えている4ステップで受託ビジネスから初めて事業へと発展しています。

「事業」の定義

ここで「事業」の定義をしておきます。ここでは「社長個人の力に依存せずに利益拡大できる状態」とします。例えば、「社長が営業マンかつ制作ディレクターで制作スタッフを5名雇っている」というのは事業と呼ばず受託ビジネスとします。もし営業もディレクターも社長がタッチしていないのであれば受託事業とします。

まとめ
●受託ビジネスの本質は自分の時間の切り売りをすること
●労働集約モデルは労働しなければ売上にならない
●受託者が委託者の事業成長による恩恵を受けることはない

受託ビジネスから事業を作る4ステップ

ではいよいよ本題の成長戦略を解説します。

  • 事業を作りたいけどどうしたら良いのかわからない

  • もっと大きな仕事をしたい

  • 仕組みで回る会社を作りたい

などの課題を抱える1人社長が今やっている仕事から無理なくリスクを低く事業化していく4つのステップを説明します。

【ステップ1】受託

まずは受託ビジネスから始めましょう。
 
今まで本業で培ってきた経験やスキルを他社に提供してあげましょう。受託ビジネスの本質は労働力の提供なので、今の時代で人に困っていない会社はいませんし会社側も業務委託を活用する商習慣も定着してきているので、より好みしなければ仕事は努力することできっと見つけることができるはずです。
知り合いに紹介を依頼したり、ランサーズやココナラなどのスキルシェアサービスに登録して始まるケースが多いです。
 
この状態は1対1のフルカスタマイズの受託ビジネスです。はじめは効率や単価などあまり考えずに何でもやってみることをオススメします。その中で経験を積んで、何が求められているのかがわかったり、自分の強みや弱みが見えてきたりして、次からの仕事の進めるフォーマットや実績が積み上がっていきます。

この時期に大事なことは、何より経験を得ることです。ノウハウが身につけば仕事の幅が広がりますし、実績があれば次からの案件獲得がしやすくなります。たまには背伸びをして案件を受けて、炎上しそうになりながらも死ぬ気でコミットしてなんとかする。そういった繰り返しの中で揉まれるプロセス自体を大事にしてください。

僕もそのような下積み時代が2年ほどありました。23歳の頃、新卒で研修中に会社を辞めて、見た目も中身も学生あがり丸出しでした。実績もノウハウもなかったので、成功報酬という言い訳でなんとか案件をもらったのが、出版したばかりの著者の方から読者のコミュニティを作りたいと依頼でした。HTMLもわからない中で学習しながらサイトを作り、読者向けイベントを企画し、SNSや広告の運用を学びながら実践して集客し、イベントの司会や、しまいにはサブ講師までやりました。なんとか目の前の課題を必死で形にする中で起業家に必要なサバイバル力を身に着けました。

著者のプロモーターとして2年ほど死ぬ気でやったものの僕の報酬は最低時給の10分の1にも満たなかったですが、報酬には変えられないかけがえのない経験を得ることができ、その後のステップアップに繋がりました。

【ステップ2】パッケージ化

次のステップはパッケージ化です。「案件をいろいろやってみた結果だいたいこのパターンの依頼が多いな」という内容をメニューにしていきましょう。
 
商品名をつけて、内容を定めて、単価を決めます。メニューの上位版と下位版を作って松竹梅で展開するのも有効です。パワーポイントでしっかりと価値や内容を伝える資料を作って、見込客にどうしたら刺さる説明ができるかを何度も試して改善しましょう。サイトを作ったり、SNSで発信したり、チラシを印刷したり、告知をするための努力やコストも必要になります。
 
パッケージ化するメリットは人に伝えやすくなることです。
その結果、自分でも営業しやすくなりますし、依頼内容もパッケージメニューに偏ってきます。また、副産物として、紹介がもらいやすくなることもあります。紹介する立場にとっても「○○さんは良いですよ」というざくっとした人物紹介ではなく「○○さんがやっている○○ってのが○円くらいでオススメですよ」という具体的な商品がしやすくなるからです。また予めパッケージ化されているため、商談時にも無駄な駆け引きも必要なくて値下げ交渉なども回避しやすくなります。

パッケージ化のパラダイムは『1対1を量産する』です。1ステップ前の受託との違いは提供側が主導権をしっかりと握ることです。「なんでもやります!経験ほしいです!」を卒業して、「私はこういうことをやっています、いかがですか?」と先導する立場になることです。
 
このステップの攻略方法のおすすめはフロント商品を作ることです。フロント商品とは顧客との接点になるお試しのような商品のことで、見込客に最初のフックをかけることで、その後本当に販売したいバックエンド商品まで繋げやすくなります。

例えば月額30万円×6ヶ月の企業研修を販売したいのであれば、体験セミナーや1回10万円程度のお試し研修をフロント商品として作ります。それにより一歩目の営業がしやすくなり、その中の何割かがバックエンド商品を購入するモデルができます。
 
さて、パッケージ化までは割と簡単にステップアップできてしまいます。なぜならこのステップまではビジネスが紹介で成り立つからです。仕事をくれる先輩にかわいがってもらったり、交流会や飲み会などに積極的に参加して愛想よく経営者の知り合いを増やしていけば仕事がもらえます。
 
ベテラン1人社長はだいたいここに落ち着いているケースが多く、いろんな経営者会に所属したりします。それが悪いとは思いませんが、そういう1人社長に限って「仕組みで回る会社を作りたい」なんて嘆いている場面もよく目にします。
 
さて、本当の課題はここからです。

【ステップ3】サービス化

次のステップはサービス化です。ステップ2と3の間に崖があり、ここから急激に難易度があがります。一気にパラダイムが変わり、考え方も収支構造も営業方法もガラッとかわります。ここからは今までとやりかと変えていく必要があるのでそれを説明します。

サービス化とは、パッケージで提案していたものを1対多に提供するパラダイムです。例えば「個別コンサルをセミナー形式にする」や「ライティング受託を月間10記事○万円みたいなパッケージにしてウェブ広告で集客する」などです。

サービス化を進める上でおすすめとしては、セミナーの開催です。今まで得てきたノウハウや事例をセミナーにまとめることで、見込客からの反応が全く変わります。「セミナーを初めて人生が変わった」なんていう人もたくさんいますが、僕もその一人でした。

25歳の頃、自分はまだまだひよっこで人に教えられるレベルではないと思っていましたが、顧客の一人から「林さんのセミナーを聞きたい」と言われたのが嬉しくて試しにセミナーをやってみました。すると、なんと一気に売上が10倍になり、一回のセミナーで人生が変わってしまうほどの衝撃を受けました。それで初めて勝ちパターンを掴み、法人化することができました。

このステップで何が一番大きな変化かと言えば集客の必要が出てくることです。先述のセミナーの例でも1回や2回であれば知り合いに声をかければ集められますが、継続的に集め続けるためには集客の仕組みが必要不可欠です。
見込客の数を集める必要があるためは、広告費や営業マンを使って集客するためコストがかかります。

また残念なことに、集客は今までのステップと比べると難易度が高く、頑張ればなんとかなる内容ではなく、お金を使いながら集客できる仕組みをテストしていく必要があります。

集客をするためにウェブサイトをったり、広告代理店に依頼したり、パンフレットや動画などの宣伝ツール、セミナーや説明会などの営業活動、商標申請や申込管理などのバックオフィス、KPI管理やキャッシュフロー管理などの管理会計など、今まで1人社長として適当にやってきていた様々な業務が一気に覚醒して攻めてきます。それまではどんぶり勘定で問題なかったことがこのあたりから経営者としてマネジメントの仕事が始ります。

この段階では社長自らがメインプレイヤーとして360度をディレクションして立ち上げていくこととなります。様々な業務を行う必要があり忙しさの質が変わり、1人では業務を裁ききれないので業務委託仲間を増やしたり、社員を雇ったりし始めます。そうすると利益率が信じられないほど一気に低下していきます。それもそのはず、今までは100%自分個人の利益でしたからね。その分、うまく行けば売上の桁が変わるほど売上が拡大します。
 
 まとめるとこの2つをクリアすることがこのステップのゴールとなります。

  1. 集客の仕組みを作る難しさ

  2. 利益率が下がっても耐えられる収益構造

 ほとんどの1人社長やスモールビジネスはこのサービス化の崖を力強く乗り越えられずにステップ2で滞留してしまいます。逆に言えばここをクリアすることで大きく飛躍することができ、億を超える年商規模にまで成長することが出来ます。
 
この崖を越えたときには、事業自体に価値が生まれ始め、経営者としての器も芽生えてきます。ここからが経営者の歩みとも言えます。

【ステップ4】事業化

最終ステップはいよいよ事業化です。パラダイムは多対多に変わり、いよいよ社長自らの自分の時間を商品として切り売りするのではなく、人を仕入れて顧客に卸していくモデルに切り替えていきます。
 
ここでの観点は『社長以外の人材だけで売上が上がって役務提供ができるか』です。実際には、社長が全くいなくても回るのは何年も先の話であり、社長の介入が限りなく少ない状態でも成り立っているかどうかが大事です。

事業を作る上では3つの要素「生産・販売・管理」をそれぞれ仕組みにしていきます。生産は役務提供をどうするかであり、販売やマーケティングと営業の体制、管理は会計や総務などのバックオフィスのことです。
 
仕組みを作るために人は採用して育てるのもあり、業務委託で集めるのもあり、会社同士で連携するのもありです。ちまたの経営論で言われる「人材こそが一番大事だ」というありきたりな言葉を心の底から実感し、会社の理念や事業の意義なども問われ始めます。人材の教育・マネジメントが上手い人がこの段階からは力を発揮し始めます。
 
 営業の観点では、この頃には考え方も随分変化していて、「いかに自分をブランディングして選んでもらうか」から「いかに会社のブランディングをするか」という感じで会社へのフォーカスが移ります。これまでのように紹介で「○○さんに頼みたい」みたいなありがたい案件に対して「個人の粘着性」があることに気が付き素直に喜べなくなってきたりします。個性や人柄を武器にしてきたことが武器から弱みに変わってしまうわけです。
 
生産の観点では、下請けに業務を降ろすこともでてくるでしょう。その際、受注したそのままの単価で他人に振ると利益が残らないので、下請けを使うためには他社より高単価で受注しないと成り立ちません。例えば1500円の仕事をそのまま1500円で外注していると利益が出ないので、受注単価を上げるか発注単価を下げないと利益が残りません。仮に2000円に受注単価が高くなったとしても、下請けに1500円支払うと利益が500円しか残らないため、今まで自分でやれば1500円が丸々利益だった感覚からするとアホらしく感じることもあります。
 
少しでも高単価で受注するためには付加価値をつける工夫が必要ですが、それが原因で原価が上がっていると意味がありません。つまり、外注パートナーにはどうにかして安く受けてもらわないと利益が残りません。
 
実際僕のグループでも「身を粉にするほど必死で目の前の業務をこなしていたが、蓋を開けたら赤字だった」なんていうシャレにならないこともありました。代表に事情を聞くと、単価は案件によらず一律で決めており、一度他の仕事で単価を上げてしまったから下げづらいと言うのです。しかし、一部の仕事内容は企業努力によって随分と簡略化されているにも関わらず、単に下請けの単価が上がってしまっていたのです。
僕からは厳しい指摘ですが「損益構造が壊れている以上、外注さんにいい単価を払ってあげたいという願望を持つ資格がない。単価交渉が怖くて逃げていて、経営者として心が弱いだけだ」と説教し、代表から外注さん一人ひとりに丁寧に説明をして下請け単価の引き下げに協力してもらい、利益を確保することが出来ました。
 
外注パートナーは大切な存在です。彼らにしっかりと報酬を払うためにはきれい事の前に付加価値と向き合い、損益構造を成り立たせなければわなければなりません。下請けを使う場合は必ず受託原価として把握し、粗利率をKPIに持つようにしましょう。
 
管理の観点では、様々なルールを設定し、制度を導入し、管理システムをいれていくことになります。経理や総務のようなバックオフィススタッフも入るでしょうし、業務改善やシステム導入のコンサルも入れるかもしれません。自分の会社を中心に利害関係者が出入りするようになり、自分のものであって自分だけのものではない、みんなの器としての会社となっています。起業時のカオスで自由な社風から少しずつルールが出来たことで、創業メンバーが退屈になって辞めていったりもよくあることです。
 
 生産の仕組み、販売の仕組み、管理の仕組み。それぞれの仕組みを作り上げて、経営者は顧客接点から少し引いた距離感でマネジメントしているのが事業化した状態です。

事業ができると起業家としてのターニングポイントが生まれます。 こうして事業ができると時間もお金も余剰が生まれます。生まれた余剰を別の事業に投資をすることもできるため、複数社を経営しはじめる人もたくさん出てきます。経営のスタイルも、ある程度長期的な投資ができる余裕があるため、選択できる幅が広くなります。

会社に資産価値が生まれる

事業化できると会社がキャッシュフローを生む装置になります。イメージとして不動産のような資産と似ており、自分の労働時間とは関係なく毎月チャリンチャリンとお金を生みだしてくれます。そこまで会社が育つと会社自体に資産価値が生まれ、M&Aの対象物になるのです。
 
会社を売却することで売却益(キャピタルゲイン)を得ることが視野に入ってくるため、今までは短期的な売上と利益しか考えることがなかった経営者が、時価総額という概念で自社を俯瞰して捉えることできるようになります。このあたりからPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)の違いを明確に意識するようになり、BS経営の感覚が大切になります。
 
時価総額のシンプルな算定方法として、年倍法を知っておいてください。M&Aで一番よく使われる考え方です。

時価総額=純資産(資産-負債)+経常利益×2〜5年

例えば、資産が2000万円、負債が1000万円、経常利益が1000万円の会社がある場合は、
純資産が2000万円-1000万円=1000万円、経常利益の3年分とすると3000万円なので、合計すると4000万円の時価総額となります。
 
2〜5年という倍率の幅はマルチプルと言い、ビジネスの内容が堅いか、時流に合っているか、売上がサブスクモデルか、などの買い手からみた魅力度に応じて変化します。売り手はより高値がつくような会社作りをすることで時価総額が高まります。
 
注意点として、時価総額算定式はいろいろありますので実際には年倍方の金額通りにならないことが多いです。最終的なM&Aの金額は相対取引で価格が決まりますので、あくまでも参考値程度で捉えてください。実際に、僕が会社を売ったときも買ったときもいろいろロジックを立てて話し合いましたが、最終的には言い値で決まっています。
 
また、時価総額を意識するとこのような変化が生まれます。

  • 今まで必死で税対策を考えていたが、経常利益がどれくらい残せるかを考える

  • ビジネスをより安定的に長期成長させようとする(例、サブスク化)

  • 時流に合った文脈事業を寄せていこうとする(例、システム化、AI活用)

  • 雇用関係や契約関係をきちっと整理しようとする

  • 自分がやりたいことよりも会社がどうあるべきかを優先したくなる

上記で注目してほしいのは「〜する」ではなく「〜したくなる」のように、自然とそう考えるように引力が働くという点です。その引力こそが、経営者としての器を作っていくとも言えます。余談ですが、事業化のフェーズまで進んだ起業家には中小企業の社長の風格が備わってきます。地に足がついてどんと構えているような、頼れる社長さんという感じです。背中に従業員や取引先などいろんな人の期待や責任を背負っているからこそ、事業が経営者を成長させていくのです。
 
会社を売却することがゴールではありませんが、せっかくビジネスを頑張るのなら資産価値がついたほうが良いに決まっています。いつか別のビジネスをやろうと思ったときに、それまでの苦労が報われる門出としての資金になるのであればがんばってきた甲斐もありますし、その日のために頑張ろうとも思えます。

例えるならば、好きで買ったマイホームにずっと楽しんで住んで、いつか引っ越ししなければならない事情ができたときに売ったら案外まとまったお金になった、みたいなイメージです。売却しやすさを優先して好きでもないマイホームを購入して住み続けることは、心が貧しくなります。
昨今のスタートアップブームによって、売却を目的に起業する人が増えていますが、個人的にはオススメしません。自分がやりたいことを軸にビジネスを始めて、もがく中でパッケージやサービスを作り、少しずつでも事業を作っていけばいいのです。

まとめ
●受託→パッケージ化→サービス化→事業化の4ステップで成長する
●それぞれのフェーズでパラダイムと課題が変化する
●事業になれば資産価値が付き売却できるようになる

事業家になってビジネスを楽しもう

いかがでしたでしょうか?受託ビジネスから4ステップで事業を作る方法をお伝えしてきました。この4ステップを歩むには早くても1年はかかりますし、3〜5年かかってもおかしくはありません。ただ、振り返ったときにそれだけの価値のある歩みになるはずです。

また今流行っているスタートアップの成長モデルと比べると随分地味に感じたかも知れません。しかし、スタートアップと異なり、自分の一度描いた夢に投資家を巻き込んだがために他のことができなくなってしまうこともなく、自分の足で堅実に成長の道を歩むことができるのは素敵なビジネスライフだと思います。

僕は人生を自分の足で歩み、楽しみたいと思っています。ビジネスはとてもやりがいがありますし、価値を生み出してお金を得ることも楽しいことです。楽しむためには多少の資金や時間の余剰が必要で、そのためには事業を持つことが解決案になります。

まずは何かしら1つの事業を作り、そこから複数の事業を自分のやりたい気持ちを軸にビジネスを楽しむ事業家になってください。そこから価値貢献の輪を広げていってください。

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ここまでお読みいただきありがとうございました。

林 周平(はやし しゅうへい)
ビジネス投資家 / 連続起業家
FIELD-Xグループ 代表
グロースハックアカデミー 代表講師

1988年神戸生まれ。23歳で独立し、ベストセラー作家の会員ビジネスを立ち上げ、セミナー集客・商品企画・バックオフィスを一気通貫でプロデュース。その後、マーケティング企画・ウェブデザイン会社を創業し、3年間で業績を伸ばし企業売却を行う。個人事務所を立ち上げ、事業投資・M&A・経営コンサルティングをはじめ、アパレルブランドを買収し売上3.4倍、経常利益を35%に改善する。シンガポールのベンチャーキャピタルのCOOに就任し4年間で20事業の立ち上げに関わる。現在は『人の可能性をデザインする』を理念に、事業投資型インキュベーションと経営塾を行なっている。

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