読書録【バッタを倒しにアフリカへ】
バッタを倒しにアフリカへ 前野ウルド浩太郎
多くの日本人がアフリカ紀行ものあるあるからは逃れられない。
アフリカの洗礼、アフリカ人のいい加減さと、微塵も悪びれもせず騙しに来る逞しさ。異文化に翻弄される筆者。
出来る事ならバッタに食べられたいという奇妙な夢を持つ昆虫学者である前野ウルド浩太郎という男もやはり例外ではない。
しかしウルドはそれに憤るでも抗うでもなくただ受け入れる。
西サハラトビバッタ、いわゆる蝗の大群の研究者である前野ウルド浩太郎のアフリカでの研究の日々を綴った本作であるが、別に研究書ではない。
またありふれたアフリカ紀行文や異文化交流モノでもない。
強いてなにかと言えば、ポスドク残酷物語の色彩が強い。
ポスドクのなけなしの研究費と補助金、限られた時間、夢と希望を賭けた砂漠で、バッタが現れない焦燥感。
アフリカと言う土地に翻弄される彼の青春は、人と恵まれることで道が開かれていく。
彼の熱意には人を惹きつける力があったのである。
特にアフリカの研究所のババ所長は彼のよき理解者として、ウルドの名を与えるほど認め期待していた。
残念ながら研究の内容は、論文執筆前だという事もあり、詳しくは書かれていない。彼のアフリカでの苦労はどう実を結んだかは分からないが、有期とは言え研究員としての職を与えるのには十分なものだったのだろう。
バッタに食べられたいと、植物の擬態として緑のタイツを着てバッタの大群に立ち向かう様は滑稽でありシンプルな描写ではあるが、嬉々として網を振るう様が容易に想像できる物であった。
アフリカものの面白さと、文体の面白み、体験記としての興味など色々思うこともあるが、読んでの感想としては、今後も頑張ってほしいと言う応援する気持ちになったって事だ。