その2 ナポレオンの座右の書『孫子』が、多くのリーダーを魅了した理由
かつてチャイナに、春秋時代と呼ばれる時代がありました。
周王室の権威は次第に衰え、諸侯は互いに対立し、覇者が次々入れ替わります。下の身分の者が上の者を凌(しの)ぐという、下剋上が盛んな乱世に入っていたのです。諸国は、いかにして自国を守るかに知恵を絞らねばならず、いわゆる兵法の専門家が登場する時代になりました。
孫武の登場
呉王闔廬(こうろ、在位前514~497)に仕え、見事な働きを残した孫武もその一人です。斉国出身の孫武は13篇の兵法書を著しており、既に兵法家として知られていたところに呉王から呼び出しがありました。
孫武について語るとき、必ず逸話として出されるのが、呉王闔廬に兵法を説くために行った、宮中の美女180人を用いた練兵です。
孫武は美女たちを二隊に分け、王が愛する二人の寵姫を、それぞれの隊長に任じます。
号令によって動くよう命じるのですが、美女たちは笑ってしまって従いません。
何度説明してもダメなので、とうとう孫武は隊長二人を斬り捨てます。
その後は、美女たちは命令をしっかり聞くようになりました。
この話は、司馬遷が書いた『史記』の「孫子呉起列伝」出ております。
残忍な話ですが、軍令の徹底が無ければ軍隊は成り立たないということを、しっかりと教えているエピソードなのです。この孫武が、最も世に知られた兵法書『孫子』の著者である孫子です。
先手準備で万全の体勢を整える。
さて、意外かも知れませんが、戦いの書なのに『孫子』は好戦的ではありません。頭を最高にクールに保ち、柔軟に発想し、常に理に適った進路を選び、無理・無謀な戦いはしないよう諭しているのです。
そのために、先手準備で万全の体勢を整えよと。
その客観的判断による行動は、まさに現実主義そのものです。現実の正しい把握として、自国と相手国の力量、自軍と敵軍の戦力を精緻に分析させます。そうして、退くべきときには躊躇(ちゅうちょ)無く退き、進むべきときには主導権の掌握が必須であるということを説きます。
流れに逆らわず、理屈に外れた無理はしない。
『孫子』はまた、流れを読むことを重視します。国際情勢も、国内政局も、戦況も、経営環境も、全て変化し盛衰による循環を繰り返します。それを読み取り(逃げないためにこそ)流れに逆らわず、(中途で倒れないためにこそ)理屈に外れた無理はしないよう教えます。
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🔥勝つための思考と行動~東洋の英知「孫子の兵法」
東西文明が交代期にある今、国際政治も会社経営の現場も、鎬(しのぎ)を削る戦いの場となっています。食うか食われるかの陣取り合戦が起こっている…
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