①息子のこと
YMCAのサッカー教室に通っていた。夕方から夜にかけての練習で、正式なグランドで巨大な照明があるにも関わらず、なぜか暗闇の中で練習するのだった。
息子はある時から、あんなに好きだったサッカーの練習に、どうしても行きたくないとソファの下に潜り込むようになった。毎週支度はするものの、いざ行こうと思うと、とてつもなく強力な磁力に引っ張られるようにソファの下へと引きずられて行くのだ。毎回支度をしては行かないと言うので、こちらも疲れ果ててしまい、しばらくお休みさせてもらうことになった。
言葉の拙い息子に理由を尋ねたところ、どうやら怖いのだと、、、、。何が怖いのかもわからず、理由を「暗闇が怖い」ということにしてお休みを申請した。
思えば小さいころから、隣の部屋においてあるお人形が「こぁ~い」と言って後ずさりし、喜ぶだろうと連れて行ったディズニーランドでは、運の悪いことにハロウィーンだったため、角々に仮装したミッキーやプーさんがいて逃げ回るはめに、、、最後の花火にいたっては驚いて私にしがみつき、大絶叫で耳をふさいで泣いていた。
それから数か月後のある日、「そろそろサッカーに行ってみようよ」と私の言葉に、え?という顔をしながらも頷いた。心が揺れていた。サッカーが嫌いなわけではないのだ。始まる少し前に駐車場に停め、後部座席に座る息子に「ひとりで行ける?」と聞いた。息子の顔がしっかりと決意した顔になっていた。あ、いけるかも?「よし、行っておいで」
車のドアをパタンとしめてグランドに向かって走り出した。そう!がんばれ!乗り切るんだよ!と彼の背中をじっと見つめていた。その瞬間、振り向いた。「ダメかも、、、、、。」声にならない、口だけ動かし、おおきな瞳をみひらいて、涙がたまっていた。
「振り向くな!!前に向かって走れ!」私は咄嗟に叫んでいた。なにも考える余裕もなく、息子はくるりとそのまま前に向かって走り出した。その後ろ姿を見ながら涙がこぼれ続けた。
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