コーヒーを好きになるときは
3時のお散歩まで時間があったので、
たまにはカフェでお昼を食べることにした。
ドアを開け、ショーケースのケーキを横目に、
イートインですと伝える。
メニューを見ると、おすすめはプリンらしい。
プリンは2種類あった。
昔ながらのプリンと、
それより少しビターなプリン。
苦い方が気分だったので、ビターを選んだ。
女優帽を逆さまにしたようなフチの長いお皿に 入れられて、プリンはやってきた。
入れる部分が狭めなので、
割とジャストサイズにおさまっている。
プリンとしても、ちょうどいい浴槽に入っている
ような、心地よい気分だろう。
つるっとした鈍い光沢と、
乳液の染み込んだほっぺみたいなむっちり肌を
隠すことなくさらしている。
自分がちょっと可愛いってのを分かっていそう。それでなお、照れもせず威張りもせず、
平然と座っているのが良い。
さて、一口いただこう。
黒々としたカラメルソースを、
あとで困らないよう少なめに付けて味わう。
うん、この苦みがいい。
思えば、いつから苦味を美味しいなんて
思うようになったんだろう。
昔は、プリンのカラメルソースさえ邪魔だったし、野菜だって何だって、少しでも苦味を感じようものなら即座に敵にしていた。
たまに外でケーキセットを頼む時も、子供の頃はドリンクにジュースを選んで親に「信じられない」と言われていたのに、今じゃ迷わず紅茶を
選ぶ。
そんな今の私は、目の前のカラメルソースの苦味も美味しいと思うのか。
ふと不思議に思い、カラメルソースだけを
スプーンいっぱいすくってみる。
いっぺんに口に含むと、たしかに美味しい。
けど、それは苦味じゃなくて、
ほんのりキャラメルのような、香ばしい香りが
いい。
そっか。
昔の私が苦味でしかなかったものは、今の私には香りだったり、コクだったり。もっと細かく、
味の解像度が上がっているんだ。
確かに昔は、甘・塩・辛・酸・苦の5チャンネル
だけで食べ物を判断してた気がする。
いや、今も味覚自体はそうなのかもしれない。
けど、経験とか、知識とか、いろんなものを
総動員して、「脳で味わう」ことも同時に
するようになったのかもしれない。
ちなみに、コーヒーの美味しさはまだわからない。
コーヒーこそ、言ってしまえば焦がした豆の汁なわけで、苦味の凝縮体だ。
けど、これからもっと味の解像度が上がったら、コーヒーも美味しいと感じる日が来るのだろうか。
次に書くのは、その時かもしれない。
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