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お留守番



平和だ。こんな平和はいつぶりだろう。

突如お腹に跳びのってくる2、7キロに怯えずに済む昼下がり。避妊手術のため、今日から一泊飼い猫がお泊まりだ。

考えてみれば9月から4ヶ月の間、突然現れたおてんば娘がこの家にいない日はなかった。病院に連れて行こうと、私自身が出掛けようと、家に彼女だけがいないという状況はなかった。

そんな訳で、今一度静けさを取り戻した我が家を、この機会に振り返ってみる。


まず見下ろせばセーターのほつれがひどい。基本やられてもいいように上着を着るのだが、間に合わないとたやすく一発でダメになる。手をつけたところ全てがヤツ好みの紐状になっている。だから最近お高いセーターは買えない。

全扉全開にしても問題ないため、ケージを移動して、マットを移動して全面掃除を開始する。下から猫砂(角の丸い砂利みたいなの)がバラバラ出てきた。定期的に取り出していたつもりだったが、まだこれだけため込んでいた。近くにある掃除用具入れからも出てくる。マジか。その奥、行方不明になっていたペットボトルのキャップが3つ、同じ場所に固まっているのを発見する。何度聞いても首を傾げるだけだった君は、いつだってここに行き着いていたようだ。

剥がれた壁を横目に、迷いなく掃除機をかけられる安心感プライスレス。干した洗濯物を階下に運べる。アイロンをかけたいシャツを居間に出しておける。手をつけられていなかった換気扇の掃除をする。コロコロとクイックルワイパーとセスキウエットティッシュと激落ちくん、全部出しっぱなしでも大丈夫。みるみる本来の輝きを取り戻していく家。

ひと段落して時計を見上げるとまだ2時間しか経っていなかった。「妨害行為あり」「手元に装備できるのはワンアイテムのみ」「各扉はかならずしめる」という強化ギプスを「アンテ!」することで、私はこれだけ身軽に、効率的に動けるのだ。見よこのパフォーマンス! 今流行りのお家クリーニングにも活かせそうだと自画自賛する。そうして





部屋は綺麗。元通り。

整理整頓。きちんと部屋の角が見える片付いた空間。広い。

まだ2時間しか経っていない。ああそっか。




これが「寂しい」か。



空のケージ。朝方、手提げのカゴの中に入りたがらなくて格闘したこと。カゴに入ること自体、全力で抵抗しても、甘えたくて結局傍を離れられずにしぶしぶ従ったこと。この膝は、いつの間にか君のためにあったね。一旦座って、手元にないものに気付いた時、何の躊躇いもなく再び立ち上がれることにさえ、抵抗を覚える。

いつだってついて回って、いつだって膝か首の上にいて、目が合えば「にゃあ」と鳴く君は、今をともに生きている。君の存在はここを含む本当に限りある人しか知り得ない。でもおかゆは存在する。決して広いとは言えない空間で目一杯生命を主張して。だから

君のいないこの空間はとっても広い。そんなこと、思ったこともなかった。限りある中、いかに広く見せるか話し合った結果、最低限以外の扉をなくして出来た空間は、君の鈴の音がしないだけで、こんなにも静か。




たった1日。君は毎日とてもおりこうにしていたんだね。実際にやってみないと分からないもんだね、お留守番。


ご褒美用意して待ってる。だから頑張るんだよ。



ねぇ、おかゆ。





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