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日本一小さな町のnote #11[遊]
日本一人口の少ない町・山梨県早川町の魅力をお伝えするnote、少しお休みしましたが、再びカメラマンの鹿野がお送りいたします。
早川町といえば豊かな自然。それを観光として楽しめるのが南アルプス生態邑です。その中心施設がヘルシー美里。木造の建物はかつての早川北中学校で、昭和60(1985)年に閉校した後、平成3(1991)年に町営の宿泊施設として生まれ変わりました。部屋は洋室と和室がありますが、大人数にぴったりで自炊やバーベキューができるコテージも併設。さらに少し離れた野鳥公園内にはキャビンとキャンプサイトもあります。良質な天然温泉・光源の里温泉も湧いており、ふつうに宿泊施設としても魅力的なのですが。
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ここは人間と野生生物が共生する社会を実現するための施設…というと堅苦しいですが、冒頭で書いた通り、町外から訪れた人たちに自然に触れて楽しんでもらうフィールドミュージアム事業の拠点として設立されました。僕もかれこれ10年以上早川町に通い、よく知っているのですが、思えば撮影で訪れたことはあっても泊まったことがありませんでした。
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そこにGWは特別な宿泊プランを用意するというのを聞き、取材も兼ねて息子(5歳の年長さん)を連れて宿泊してきました。選んだのは「春のナイトハイク」付きプラン。他に「春の自然観察と山菜野草採集」付きプランもあり、どちらも大人10,950円、小学生9,800円。1泊2食に温泉、体験がついてこのお値段は実にありがたいです。ちなみに幼児は食事、そしてベッド・布団を親とシェアすれば1,000円でOK。そもそもご飯は食べ放題なので、白飯が好きな息子は僕のおかず(結構なボリューム)を少しだけもらって問題なしでした。そして夜は久しぶりに仲良くくっついて寝ました(笑)。
その日を振り返ると、チェックインして温泉→夕食の後、19時半にすぐそばの野鳥公園入口に集合。吊り橋を渡って闇に包まれた野鳥公園へ入り、21時まで森の中を散策しました。2人のガイドが先頭と最後尾について、安全を確保しつつ、いろいろ案内をしてくれます。さらに途中、野生動物の通り道という開けた場所では、全員シートを敷いて座り、懐中電灯も消して息を潜めました。野鳥の鳴き声に耳を澄まし、さらに動物の気配を感じようと試みましたが…なかなか現れず。ただ帰り道、遠くに鹿を見つけ、参加者の方々は静かに歓声をあげていました。
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そんなツアーの先頭を歩くベテランガイドのなべしさんは虫の研究が専門で、いろいろな虫を獲って見せてくれました。虫が苦手な息子は最初こそ遠ざかっていたのですが、他の子供たちが楽しそうなのをみて気になったのか、なべしさんが逃がそうとしたら「見せてぇー!」。その後も先頭をいくガイドのなべしさんの後をピタッとついて、何か拾うと「なべしさん! ほら見て見て!」。
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調子にのりやすい息子ですが、この日はずいぶんと調子にのりすぎでした。そして調子にのると転んだりして泣くのですが、ガイドさんのおかげで何事もなく帰宿。親子で再び温泉に浸かっていると、話しかけてくるおじいさんがいました。なんと2016年、東京で開いた僕の写真展(早川町の写真集にちなんだもの)に来てくださった町出身の方でした。たいへんお世話になった写真集の版元・平凡社の当時の社長とも古い付き合いだそうで、早川町もヘルシーのお風呂も広いけど世間は狭いなぁ、と思ったり。
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翌朝は少し早く目が覚め、息子と近くを散策。その後朝食→チェックアウトしたのですが、別件の取材後に野鳥公園へ戻り、午後のネイチャーガイドツアーにも参加しました。これは常設のプログラムで、誰でも当日参加OK(ただし定員や休止などもあるので、できれば事前にお問い合わせ・ご予約したほうがベターです)。大人は参加料1000円+入園料400円、小学生は参加料700円+入園料200円、3歳以上の幼児は参加料500円(入園無料)です。
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ネイチャーガイドツアーはひとりひとつ双眼鏡を持ち、昨夜と同じく1時間半の散策。天気にも恵まれ、気持ちのいい森林浴+自然観察になりました。
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川の向こうの崖に巨大なスズメバチの巣があり、もうハチは住んでいないのですがみんなで観察。上の写真の左上に写っています。探してみてください。
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ツアー終了後はそのまま野鳥公園の管理棟であれこれ見学。普段は飽きっぽい息子が一向に飽きることなく、渋滞に巻き込まれるから早く帰ろう…といっても「まだ!」となかなか帰ろうとしませんでした。
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すっかり森の散策と元校舎の宿にハマったようで、帰り道は「今度は◯◯ちゃんや▢▢くん(保育園のお友達)と行きたい!」と興奮していました。南アルプス生態邑では四季を通じて自然体験を提供していますが、6月はホタルの鑑賞、そして夏休みは昆虫観察や川遊びのプラグラムをあります。
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川遊びの様子は2016年に出版した僕の写真集にも収められているのですが、早川の支流にあたる清流で思う存分遊ぶことができます。幼児向けの川遊びキャンプもあるので、うちはここに参加しようかな…と検討中です(と宣伝するとすぐ埋まってしまいそうですが)。詳細は南アルプス生態邑のホームページをご覧ください。
泊まった日はGWということで忙しそうだった所長の大西信正さんにも、後日お話を伺いました。大西さんは動物が好きすぎて宮城・金華山島でニホンジカを調査に没頭。その後、軽井沢の星野リゾートで自然ガイドをしていました。そこに自然環境の調査や保全、環境教育などを手掛ける株式会社生態計画研究所が、新たに指定管理者となる南アルプス生態邑のスタッフを探しているという情報が。自然と共生する世界を自らの手で作りたいと考えていた大西さんは早速早川町へ。切り立った崖に圧倒され、大きな可能性と「ここだ!」というものを感じたそうです。そして早川町からの異動はなしという希望条件で転職。今は本社の副社長も兼任していますが、もちろん早川町を出なくてよいということで引き受けたそうです。
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そんな早川愛に溢れすぎている大西さんは、町民を巻き込んで自然との共生を模索しています。たとえば町内でおじいさんおばあさんたちが雑草を見て「これ特定外来種だ」「いや違う」「いやいやそうだ。抜くよ」と話しているのを聞いたことがあります。僕は単に皆さん植物に詳しいなぁ…と思っていたのですが、在来の植物を守ろうという大西さんらの啓蒙活動が実っていたのです。また町内の小学校の総合学習をコーディネートしたり、東京の中学校の修学旅行で集落でのわらじ作り体験をアレンジしたり、環境教育にも力を入れています。
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もちろんその早川愛はヘルシー美里でも発揮。心掛けているのは、お客さんが着いたとき、そして帰るときに町内の“ここに寄ってほしい”というところを案内することだとか。景色だったり飲食店だったり、案内の内容は相手やタイミングによりますが、せっかく早川に来てくれた人を少しでも地域と結びつけたいと大西さんはいいます。ヘルシー美里のリピーター率が高いのも、そうした姿勢が影響しているのかもしれません。
リピーターになりそうな息子と、夏休みにまた川遊びで伺います!と大西さんに話すと、「渓流はちょうど糸魚川静岡構造線の上なので、東日本の石と西日本の石、両方が転がっているんですよ」と得意のプチ情報を。東西で石ってどう違うんだろう。息子よ、パパは夏休みが待ち遠しいよ。
早川町の観光に関するお問い合わせは、早川町観光協会(TEL0556-48-8633)までお気軽にどうぞ。県道37号沿いの南アルプスプラザには、スタッフが常駐する総合案内所もあります(9〜17時・年末年始以外無休)。
■写真・文=鹿野貴司
1974年東京都生まれ、多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーランスの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるかたわら、精力的にドキュメンタリーなどの作品を発表している。公益社団法人日本写真家協会会員。