大学生と地域でつくるグラスルーツのかたち:その1
「グラスルーツ」という言葉、ご存知ですか。日本語に訳すと「草の根」。
Jリーグやヨーロッパ各国のリーグのようなピラミッドの頂点、チャンピオンスポーツの世界とは対照に、そのピラミッドのすそ野にある、サッカーやスポーツの「普及」の現場のことと思ってもらえれば問題ありません。
グラスルーツサッカーはすべての、年齢、性別、サイズ、姿、レベル、国籍、信仰、人種、すべての人たちのためにある
―― ユルゲン・クリンスマン(元ドイツ代表監督)
特に子どもたちにとって、グラスルーツは“サッカーとの出会いの場”であって、その重要性は言うまでもありません。
僕が大学1年生から7年間過ごしたつくばでは、伝統的に筑波大学蹴球部(サッカー部)と女子サッカー部が地域のサッカー少年団と密に関わっていて、そこでの普及活動、グラスルーツの形が素晴らしい光景をたくさん生み出していました。
特にここ数年は、僕自身がそういった活動を中心として統括する立場にあり、地域とのつながりを特に強く感じることができました。
今回はそんな筑波大学蹴球部・女子サッカー部と地域で創っているグラスルーツの現場を、数回に分けてご紹介します。
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大学ではプレーヤー、少年団ではコーチ
筑波大学蹴球部・女子サッカー部には、地域の少年団でコーチとして活動している学生が数多くいます。
つくば近隣地域の13の少年団と蹴球部・女子サッカー部が密接にかかわっています。
ここで特筆すべきことが2つあります。
①サッカー部としての巡回指導やスクールではなく、学生自身がそのクラブに所属している
「サッカー部の大学生が地域でサッカー指導をしている」と聞くと、小学校へ訪問しての巡回指導や大学のグランドなどに子供たちが集まってくるサッカー教室(スクール)のような形を思い浮かべる方が多いと思います。
しかしここでは、学生はコーチとして各クラブに所属して活動しています。
そして、実際に指導に携われる時間に差はあるものの、ほぼすべての部員がどこかしらの少年団に所属しています。
蹴球部・女子サッカー部として「地域に出ていこう」という気持ちはありますが、決して「君はこの少年団に行ってね」という派遣の形はとっておらず、あくまで個人の意思。
大学生活の4年間を大学サッカー部の選手としてだけでなく、コーチとして少年団で過ごすことで、自然と地域の子どもたちやご家庭との関りが深まっていきます。
②ほとんどのクラブで、大人の指導者のサポートではなく主として指導を行っている
これもよく勘違いされますが、各少年団での主たる指導者が学生コーチであることほとんどです。むしろ大半が、学生しかコーチがいないという状態で運営されています。(保護者の方がコーチとして所属しても、サポートやどうしても学生コーチが足りない時のヘルプであることが多いです。)
市の大会とか県の大会とかでこういったチームが対戦すると、ベンチでは学生コーチ同士対決があったり、試合後に一緒に振り返りをしている姿が見られます。駆け出しのコーチとして、学びが大きい。すごいことだと思っています。
ともに成長していく環境を
もう正直に言ってしまうのですが、学生コーチの指導者としてのレベルはピンキリ。「もうちょっとなんとかならんかなあ」って思う学生コーチもいるし、「お、上手にやってるな」って思うこともあります。ただ後者だとしても、知れています。
指導の勉強はこれからという段階の学生がほとんどだし、蹴球部も女子サッカー部も体育・スポーツを専門としない学生がたくさんいて、彼ら彼女らも少年団でコーチをしています。
しかも選手活動との両立。時間も体力も当然限りがあります。
僕らはみんな、指導者の卵にしかすぎません。
僕らに必要なのは、子供たちとめいっぱいサッカーを楽しむこと。それから拙いながらに情熱をもって、日々学ぼうとすること。
サッカーを教えているはずなのに、子どもたちから教わることが本当にたくさんあります。
そしてそんな僕らを、地域が必要としてくれたり受け入れてくれていることで今の関係が成り立っています。
僕は立場上、保護者の方とのコミュニケーションが多くなりますが、どこの少年団でも保護者の方が温かく、子供たちだけでなく学生コーチのことも見守ってくれ、そして頼ってくれます。
時に失敗をしても寛容に受け入れてくれ、そしてまたトライできる。
指導者としての経験が浅い僕ら学生のことを信頼して任せてくれている地域の存在があってこそ、この環境があるのだと思っています。
もちろん先輩コーチが、後輩コーチにコーチングや子どもたちとの関わりについてアドバイスをして自分の後を任せられる後進を育てようとします。
保護者の方も「サッカー少年の親」として、少年団の活動や学生コーチとのかかわりの中で発見や変化があるかもしれません。
「子どもたちのために」が大切なのは当然ですが、保護者の方にとっても学生コーチにとっても成長する場であり続けてほしいと思っています。
『ともに成長できる環境をみんなで創っていくこと』
これができていることが、この地域や取り組みの強みの一つです。
子どもたちのヒーローであろう
大学生の試合に、子供たちやご家族がよく応援に来てくれます。
子どもたちからすると「筑波大学の○○選手」ではなく、
「△△FCの○○コーチ」「僕らの○○コーチ」なのかもしれません。
子どもたちに応援されているのに、格好悪いところはみせられない。
それは勝ち負けなんかじゃなくて、
必死にボールを追いかける
最後まであきらめない
仲間や相手、レフェリーをリスペクトする
全力で喜びを表現する
コーチの本気を、子どもたちが肌で感じるというこれ以上にない環境。
子どもたちにとって一番身近なヒーローであろう、という話は大学生のチームを指導しているときも話したりしていました。
この環境は僕らが筑波にくるずっと前からの積み重ねがあってこそで、この先もずっとこうあってほしいと思っています。
子どもたちが最初に出会うコーチとして-10年の循環-
ここでは、グラスルーツという子供たちがサッカーに出会う場で、最初に出会うコーチが大学生たちになります。
子どもたちにとっては親や学校の先生よりも自分たちに歳が近くて、お兄さんお姉さんとして親しみやすいかもしれません。
学生コーチは慕ってくれる子どもたちのために、とにかく一生懸命です。
慣れない指導活動のなかで、いろんな人の助けを借りながら、子供たちのために情熱を注げる学生コーチがたくさんいます。
そんな姿勢を、子供たちも敏感に受け取っているんじゃないでしょうか。
そうやって、サッカーを始めてすぐの時期に出会った憧れのコーチとの日々は、彼らの記憶に鮮明に、サッカーの原体験として残ります。
僕と年の近い先輩・後輩に、子供のころに蹴球部の大学生にサッカーを教えてもらっていたという人がいます。
彼らはその約10年後、自分が巣立った少年団で「あの憧れのコーチ」と同じように子どもたちとサッカーを楽しみ、
また誰かの「憧れのコーチ」になっています。
この”10年の循環”を絶やさないことが、何よりも大切なことだと思って活動してきました。
これをしっかり後輩に伝えていきたいと思っています。
この環境は持続すべきで、そして持続可能なのです。
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その1ということで、まずは「地域の少年団で学生がコーチ活動をしている」ということについてご紹介しました!
次回は、日々の活動に加えて行っているイベントやGKや女子のクリニックについてご紹介します!
ぜひご一読ください!コメントや質問もお待ちしています!
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